「薬飲んだからね」
食事の後、念のためこう言うのが習慣になっている。
三食ごとに薬を飲むのは日課で、自分に課せられた義務だった。
家族のために小、中、高、といい成績をとり、いい大学にいき一流の会社に入った。
だが学校の勉強ができたからといってそれが必ずしもそれが社会に出てからの成功につながるとは限らない。
俺は勤めるようになってからすぐ病気になり、そして何ヶ月もしないうちに会社にいけなくなった。
それからずっと家にいるようになった。
毎日が不安で仕方なかった。
ある日、最初は体面を気にしていた家族だったが、このままではしょうがないと連れて行かれた病院でもらった薬で不安定な気持ちは抑えられるようになったが、かわりに毎日眠くてしょうがなくなった。
それでも家族が病院に行けというので病院には行っていた。
そんな風に病院にかよっているうちに友人ができた。
明るくて元気でとても病気にかかっているとは思えなかった。
俺とは性格がだいぶ違ったがなぜかうまがあい、病院での待ち時間の間にいろいろなことを話した。
でもいつのまにかその友人を見かけなくなり何ヶ月か経った。
元気になって通院の必要が無くなったかのと思い、先生に尋ねてみた。
そうしてわかったことは、友人が死んでしまったということだった。
ODをして病院に救急車で運ばれてきたそうだ。
ODというのは薬を一度に大量に服用することだ。
ふつうは胃洗浄などの処置で助かるらしい、それはそれで結構大変らしいのだが。
だが友人は元から体が弱かったことや、不摂生な生活をしていたことで体力が低下していたらしく、先生たちの懸命な処置も無駄に終わったそうだった。
友人がもらっていた薬は俺と同じ種類らしかった。
友人は何が苦しくてそんなに薬を飲んでしまったのだろう。
病院から家に帰ると、なにげなく俺は薬を口に入れてなめてみた。
最初のうちは糖衣にくるまれていたのか甘かったが、なめてるうちにだんだん苦くなってきた。
「良薬は口に苦しって言うけど、これってほんとにいい薬なのかな」
そんなことをつぶやき、泣きながら、ずっとアメのように薬をなめていた。
俺はこんなもののおかげで生きてられるのか。
友人の命を奪ったものにすがって俺は生きるのか。
そう考えてから俺は薬を飲むのを止めてしまった。
でもそれは裏目に出てしまった。
ずっと眠れない日が続き、俺は耐えかねて家の中で暴れまわった。
友人が死んでしまったことの悲しみ、家族への積年の恨み、何もできない自分へのふがいなさ。
そういったものを吐き出そうとして、家族に何か怒鳴った気がする、だけど心にたまっていたものをすべて言葉にすることは俺には不可能だった。
国語は得意だったけど、自分の気持ちを表現するうえではそんなものは何の役にも立たなかった。
暴れた後、俺は救急車で病院に運ばれ、そこでうってもらった注射でやっと眠ることができすこし落ち着くことができた。
割と安定しているから入院の必要はないだろうと言われ、その日のうちに家に帰された。
家に帰って布団に横になった俺に、家族は俺の手を握り子供のころの仕打ちを謝った。
それから2,3日は布団でぐるぐると駆け回る不安な気持ちで過した。
2,3日が経つと、昔のころとまではいかなかったがだいぶ元気になることができた。
結局、俺は薬に頼って生きる道を選んだ。 救急車で運ばれた病院で注射をうたれた時、俺はこのまま死んでしまうのだろうかと思った。
もうそんなおもいはごめんだった。
今日も食事の後、薬を飲んだ事を家族に言う。
もうすこし元気になったら家の近くの散歩でもはじめようかと思う。
ただ、そのとなりに友人が来てくれる事はもう永遠にないことだけが残念でならない。
終
※ この話はフィクションであり登場人物などはすべて架空のものです
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