これは私がかかわった吸血鬼についての話です。
それではお話の始まりです。
「雅美、聞いた?また被害者でたんだって」
「うそ、本当、七恵ちゃん?これで何人目かな?山ちゃんがノイローゼになる気持ちわかるわー」
「休職状態になってからもう一ヶ月は経つよね」
「うん、うん、なんかそれで代わりの先生が来るらしいよ」
「男?女?」
「男だって」
「かっこいい先生だといいねー」
「うん、うん」
私の名前は明神七恵。
私立の女子高に通う高校生。
今話してた子は岡野雅美、私の昔からの親友だ。
私の通っている学校は小中高一貫のマンモス校で生徒の数が非常に多かった。
平和でにぎやかで明るい学校だった。
数ヶ月前からある猟奇的な事件がおきているのを除いては。
授業の開始前クラスは私達を含む生徒達の声でにぎやかだった。
そこに戸をあけて隣のクラスの担任の篠崎先生が入ってきた。
篠崎先生は背が高く若くて美人で、明るいところで体を動かすのが好きな活発な女の先生だ。
彼女の自慢はその豊かなバストのサイズだった。
ただ最近はお肌のことでの悩みが多くそれに関しての愚痴が多かった。
「はーい、静かに。始業の時間はとっくに過ぎてますよ」
「先生が来るのが遅いのが悪いんじゃん」
先生が注意したのを、クラスのお調子者の子がひやかした。
それに合わせて、あはは、と教室に笑い声が漏れた。
「ちょっと用があって職員室によってたのよ」
「用って何ですか?」
「校長先生に頼まれて新しい君達の担任の先生に色々と説明してたのよ」
おー、とかキャー、とか今度は歓声が上がった。
「それじゃ入ってきてください、内藤先生」
みんなは少し静かになって先生が入ってくるのを待った。
そして黒板近くの入り口からひょっこりと姿を現したのは、
「こんにちは、はじめまして、内藤勇次です。これから山崎先生に代わって皆さんの担任になります。よろしくおねがいします」
篠崎先生と比べるとよりいっそう背の低さが際立つ、かわいらしいまだ小学生といっても通じるような幼い男の子(に見える人物)だった。
教室はその日最高の大騒ぎになった。
休み時間になって内藤先生はクラスのみんなから質問攻めにあっていた。
「先生って何歳なのー?」
「見た目よりはかなり上だとだけ言っておきます」
「先生好きな食べ物は?」
「牛乳です。ほとんどそれが主食みたいなもんです」
「あんまり背を伸ばす効果はなかったみたいですねー」
そう私は茶々を入れた。
「そうですね、残念ながら」
内藤先生は本当に残念そうに相槌をうった。
「でも、牛乳って体にいいんですよ。とっても栄養価が高くて」
「先生、言い訳しないの」
そんな他愛もない、いくつか質問がなされた後、雅美が唐突に切り出した。
「先生、血って興味ありますか?」
先生の表情が少し真剣になった後、また温和な顔つきに戻った。
「血は好きじゃないですね、どちらかというと苦手です。」
「そっか」
「ええ、ちょっとトラウマがあって」
「そうなんだ、今学校で起きてる事件の事話してあげようかと思ったのに」
先生はちょっと考えた後、答えた。
「それってひょっとして吸血鬼の噂のことですか?」
「うん、そう。先生も知ってたんだ。」
私は今日来たばかりの先生がそのことを知っているのに少し違和感を感じたが篠崎先生にでも聞いたんだろうと納得した。
「そうですか、じゃあもうそろそろ休み時間も終わりますしまた放課後にでも聞かせてください」
「はーい」
そうしてその日はそんな平和な感じで一日が過ぎた。
平和な感じで、それは私が何も知らなかっただけだった事だったのだが。
次の日、私は学校ではなく雅美の家に居た。
別に土日だったというわけでもないのだが。
一緒に亜紀もいた。
奈津子もいた。
聖子もいた。
内藤先生も居た。
クラスの全員が居た。
雅美だけが居なかった。
正確に言うと居ることには居たのだがもう生きてはいなかった。
私はというと泣いていた。
ただただ泣いていた。
突然の親友の不幸にうちのめされていた。
雅美は目立った外傷はなかった。
死因は失血によるものだったそうだ。
注射器で血を抜かれたらしい。
犯人は麻酔かスタンガンか何かで気絶させたるか、手足を縛るなどして自由を奪って後犯行に及んだらしいとのことだった。
学校で起きていた一連の事件と同じ手口だった。
ただ一つ違っていたことは初めての死者だということだった。
その日はそのままずっと泣きはらした。
次の日は赤い目のまま何とか学校に行った。
そして、昼休みに職員室で牛乳を飲んでる内藤先生を問い詰めた。
「内藤先生、一昨日雅美と何かありませんでした?」
「…ないよ」
「一昨日、先生は雅美に放課後一緒に会おうっておっしゃってましたよね。本当に何もなかったんですか?」
「おとといは急用ができて結局会えずじまいだったんだ。」
「…」
「もし会えていたらこんなことにはならなかったかもしれないね…」
会話に少し沈黙が訪れた
「先生、先生は血を飲んだことがありますか?」
「…ぶしつけな質問だね。一昨日の彼女を思い出すよ」
「答えてください」
「…、あるよ」
「どうして血なんか飲んだんですか?」
わたしはまたなんだか昨日のように泣き出しそうになっていた。
「…鼻血がのどに逆流してね、あれはひどい味だったよ」
それを聞くと私は先生に平手打ちを一発かますとわーんと泣き出してしまった。
周りに居た先生が私をなだめながら保健室に連れて行ってくれた。
行く途中振り返ると篠崎先生が内藤先生の前で屈んで内藤先生のほほに手を当てていた
「大丈夫ですか、内藤先生」
「だ、大丈夫です。それよりあんまり胸をアップしないでくれませんか」
そんな会話をしていた。
その日はそのまま早退してしまった。
家に帰ってからずっとひとつのことを考えていた。
雅美の敵をうとう。
まずは犯人と接触しなくては。
今までの犯行は放課後遅くまで学校に残って教室で居眠りしている生徒が狙われたようだった。
被害者の話だと居眠りをしていておきたら気分が悪くて腕を見たら注射の後があった、そんなうわさだった。
次の日から私は放課後遅くまで学校に残ることにした。
一日がたった。
二日がたった
三日目になった。
学校では雅美のときの事件から日にちがたってそろそろ新しい被害者があわられるんじゃないかとうわさされていた。
私はその日も教室で犯人が現れるのを待っていた。
よく覚えているのはそこまでだ。
そこまでで一番良く覚えているのは急に後ろから誰かに薬品をしみこませたハンカチのようなものを口に当てられたとこだ。
どれくらい時間がたったのかわからないまま、ぼんやりと意識戻ってきたころ誰かの声が聞こえた。
「…なたが、犯人だったんですね」
「誰?」
また誰か別の声がした。
「私ですよ」
「何だ、先生だったんですか。脅かさないでくださいよ。例の事件の犯人かと思ったじゃないですか」
「それはないでしょう」
私はただぼんやりとそのまま話を聞いていた。
何しろまぶたさえ自由に動かせなかったので。
「だって犯人は貴方なんですから」
「やだな、悪い冗談は止めてくださいよ。私はただ寝ている彼女を起こそうと思って」
「見てましたよ、貴方が彼女のことを背後から襲ったのを」
そうか、やっぱり私は誰かに襲われたのか。
「そうですか、見てられたんですか、失敗しちゃったなー。でもぜんぜん気づきませんでしたよ、貴方の存在に」
「気配を消して闇にまぎれるの結構得意なんですよ。それよりなんでこんなことをしたんですか」
「…」
「まさか、飲むためなんて言わないですよね」
「…ええ、違いますよ」
「貴方が本物の吸血鬼ならわざわざ注射器なんか使わないでのど笛に噛み付けばいいですから」
「そうですね」
「で、何に使うんですか?」
「答えるつもりはないです」
「力ずくでもですか?」
「あはは、貴方のその体格では私とは勝負にならないと思いますけどね」
「そうですか」
「いつも牛乳飲んでいたのも無駄な努力に終わりそうね」
牛乳?片方は内藤先生なの?
「そうでもないと思いますよ」
「そうかしら?」
「二つほど貴方に説明させていただきましょう」
「どうぞ、最後のてむけに聞いてあげる」
「一つ、乳はもともとは血でできていて私達一族の主食であること。ちだからちちなんて説もあるそうですよ」
「私達の一族?何を言っているの?」
「そしてもう一つ、本当の吸血鬼はいちいち血を飲まなくても食事はできるんですよ」
「本当の吸け…?きゃーーーーーーーーー!」
今しゃべっていた人物になにかが起こったらしい。
「肌が、私の肌がーー!」
「どうです質問に答える気になりましたか?」
「わかったわ!答える、答えるわ!」
「何に使ったんですか?彼女達から集めた血」
「浴びるつもりだったのよ、バスタブにためて」
「…」
「最近どんどんお肌が荒れてきて…、しょうがなかっのよ」
そんな、そんな理由で雅美は死んだの?
「そうですか。じゃあ、さよならです」
「まって、お願い命だけは」
片割れが月並みなセリフを口にした。
「あなたがしたことは許されることじゃないんですよ、さようなら、篠崎先生」
「お願い!おねが…命だ…けは」
そうして篠崎先生は息絶えたようだった。
「今日はこの前つけてたロザリオつけていなかったんで助かりましたよ。あれを見ているとどうしても自分の存在に対しての罪悪感に耐えられなくてね。職員室ではまいりましたよ」
そうか、あの時先生は…
「さて、それじゃあ、貴方ともさよならです。明神七恵さん、私はこれで行方をくらますとします」
それから、
私は生きていた。
私は朝登校してきた人によって発見された。
干からびた篠崎先生の死体とともに。
そして行方不明になったひとりの先生と合わせて学校の話題の中心になった。
でも私は知らぬ存ぜぬをつらぬきとうした。
月日がたつにつれ、だんだん事件のことも忘れられていった。
そして私は時々牛乳を飲んでる人を見てあの人も吸血鬼なのかななんて考えているような生活を送っている。
完
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