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ショートストーリー2 作者:暗中茂作

第13回   protoplot
「彼女何してるの?」

俺の名前は今田秋作、土曜日の今日も駅前の広場でいつものように見かけたかわいい女の子に声を掛けていた。

今日はその子で3人目だった。

「こんにちは。えっと、はじめまして。どういったご用件ですか?」

彼女は見た目だけではなく声もかわいかった。

これは当たりかも。

「ん、ちょっと今何してるのかなーと思って」

俺は適当に相槌をうつ。

彼女もそれに応じて言葉を返す。

「人間の世界におりてきてまだ日が浅いので、色々見て回ってたんです。この間まで私神様だったんです。やっぱり神として地上を見るのと、人間になって自分の足で歩いて色々見るのって全然違いますね」

…。

ハズレだ。

「そうでしたか、じゃあゆっくりご覧になってください」

「はい、ありがとうございます」

俺は適当に話を合わせてお茶を濁し、彼女と別れて近くのベンチに座った。

ぼうっとしながら、はあー、と心の中でため息をついた。

最近打率悪いなー。

座ったまま俺は視線を彼女に戻した。

彼女はまた違う奴に話しかけられていた。

「すみません、ちょっといいですか?」

「はい、なんですか?」

「貴方は神様の存在を信じますか?」

どうやら宗教関係の啓蒙(けいもう)活動らしい。

「はい、信じてます。神様はいますよ」

「そうですか、お若いのに信心深いですね。最近は貴方みたいな人が減ってるんですよ」

「そうなんですか、悲しいことですね。でも神様は実際に存在してるんですよ」

「ええ、ええ。そうですとも、神様は本当におらっしゃるんです」

同じタイプ同士で会話が盛り上がっているようだ。

「だってこの間まで私が神様をやってたんですもん。今は神様をもう辞めてふつうの人間ですけど。あ、でもだからといって今神様がいないってわけではなくて他の者が私の仕事を引きついたんです。だから心配しないでください」

「え…?」

彼女の答えに相手は言葉を窮した(きゅうした)。

「それでその後の任務を引き継いで神様になったっていうのが私の友人の一人で」

「あ、あのお話はもうこのくらいでいいです」

彼女の突拍子もない話に宗教さんは慌てて話を切り上げようとした。

宗教さんを慌てさせるとは恐るべし不思議系天然少女。

「あ、すみません。私ばかり一方的に喋ってしまって」

「最後に貴方に対して祈らせてもらって良いですか?」

「え、そんなだめですよ、私、神様じゃなくてもう普通の人間なのに」

いや、祈ってもらえ。お前の頭が直るように。

「いや、これは相手が誰であってもその人の幸福を祈らせてもらってるんです」

「そうなんですか、じゃあ私にも貴方の幸福を祈らせてください」

そして二人はお互いに相手のために祈り始めた。

誰かが誰かのために祈ってる光景はたまに見かけるが、お互いがお互いのために祈ってる光景は珍しいだろう。

一分ぐらい経って宗教さんは、ありがとうございました、と声を掛けてその場を去っていった。

結構面白い見世物だったな。

ただ座ってるのもなんだし、またかわいい子が見つかるまで彼女のことでも観察してるか。

すこし経つと今度は少し年のいったホスト風の男が彼女に声を掛けてきた。

「彼女、今ヒマ?」

「はい、なんですか?」

「あのね今うちの店で新人さん募集してるんだ。それでちょっとよかったらどうかなーと思って」

風俗のスカウトらしい。

「新人さんの募集?何かのお仕事ですか?」

「うん、そう。あのねー経験なくてもやり方は丁寧に教えるから、すぐにいっぱい稼げるようになると思うよ。それに今なら入店祝い金として20万円を出してるんだ」

「20万円ですか…。それってすごいんですか?」

おいおい、興味持ったのか、お前。

「うーん、結構いい条件だと思うんだけどなー。ふつうのお店だと10万、多くても15万ぐらいなんじゃないかな?」

「そうなんですか」

まさか、やるつもりじゃないよな。

「わかりました。やらしてください」

なにーーー!

「本当?んじゃお店行って詳しい話ししようか」

「はい」

男が彼女を連れて歩き始めた。

どうする?

このままじゃ彼女は…。

「こっちに来たのはいいんですけどお金がなくて困ってたんです。やっぱり人間が生きてくためにはお金って重要なんですね」

「ああ、そうんなんだ。おのぼりさんなの?大変だったね。ところでまだ名前教えてもらってなかったよね、聞いても良いかな?」

「私この前まで神様だったんです、それで最近人間になったばかりでまだ人間としての名前ないんです」

「あはは、変わってるね。内緒って事?でも、君みたいなタイプの娘結構人気あるんだよ。まあ、名前の方もお店の方で適当にかわいいの考えとくから」

「ほんとうですか。ありがとうございます。」

考えてる間にもどんどん俺と二人の距離は離れていく。

ああ、もう、ええい、ままよ。

「すみませーーん!」

俺は大声を出しながら二人に駆け寄った。

「すみません、この娘、俺の知り合いなんですけどちょっと頭が弱いんです。だから今の話はなかったことにしてください」

俺は急いでそう言うと彼女の手を引いて駅の構内の方に走っていった。

後ろで男が何か言ってるようだったがまったく気にしなかった。

「ここまで来れば大丈夫かな」

駅の構内まで来て俺は走るのを止めた。

彼女も止まって俺に話しかけてきた。

「走るのって結構疲れますね。私人間になってからはじめて走りました。でもなんで急に私の手を引いて走り出したんですか?それに私の頭は正常です」

「君が大変な目にあいそうだったからだよ」

「でもお金を貰うのに大変な目にあうのは人間として当たり前のことなんでしょう?それにたくさんお金がもらえるって事はそれだけ社会に対する貢献度も高いって事なんじゃないですか?」

相変わらずずれてる。

「あのね、なんていうか…。」

俺は少し考えて答えた

「君がしようとしてたことは自分の手でもどうにかできることを、その人に代わってやってあげるような仕事なの。それは良くない事なの、分かる?」

「そうなんですか」

「そうなの」

「そうですよね、人に何かをしてもらうのは嬉しい事ですけど自分でどうにかできることなら自分でした方が達成感を感じられますよね」

やっぱりずれてる。

みんな自分の手でするのに満足できないからそういうとこにいくんだと思うが。

だんだん俺は彼女をこのままほっとくのが危険な気がしてきた。

「君、家どこなの?」

「家はありません。」

「じゃあ、いままでどうやって過ごしてたの?」

「昼間は町を見て回って、夜は公園ベンチで寝てました」

…危険すぎる。

「でも今日はここで寝ようかしら。ベンチもあるみたいだし」

どうする?

もうここまで関ってしまったんだ。

ここまできたら…。

「あのさ、君、よかったら俺の、俺の…」

「なんですか?」

彼女は興味深そうに俺の顔を見つめていた。

「お、俺と一緒に交番に行かないか?」

すみません、それが俺の限界でした。

駅の交番に行くと彼女に少し待っててもらって俺はお巡りさんに事情を説明した。

そうしたら彼女らしい人物の捜索願が出されていたことが分かった。

なので俺は彼女をお巡りさんに任してその場を後にし、そのまま駅から電車で自分のアパートまで帰った。

アパートに着くとなんかもう今日は疲れたので、風呂にも入らず布団に横になってしまった。

「神様、明日はいい日になりますように」

それだけ呟いて俺はすぐ眠ってしまった。


次の日の朝、おれは玄関のチャイムで起きた。

「はーい、どちらさまですか?」

おれはチェーンを掛けたまま玄関のドアを開けた。

そこには昨日の彼女と黒いスーツをきたハンサムで背の高い青年の姿があった。

「昨日はありがとうごとうございました。貴方のおかげでジブリールに会うことができたんです。まさか、こっちの世界で彼に会う事ができるなんて思わなかったです。あ、ジプリールっていうのはここにいる彼のことで、それで新しく彼に私の名前をつけてもらったんです」

彼女は相変わらずのようだ。

まあ、元気で何よりといったところか。

「ごめん、ちょっとまってて良子ちゃん。僕から彼に話すから」

「あ、ごめんなさい。ジブリール」

どうやら彼女の本当に名前は良子というらしい。

「すみません、今田さんチェーンはずしてもらって良いですか。良子ちゃんはそこで待っててください」

「はい」

彼は見た感じ信頼できそうな人物だったので俺は素直にドアを開け彼を招き入れた。

「ここの住所と俺の名前は交番で聞いたんですか?」

「はい、そうです。昨日は彼女がご迷惑を掛けてすみませんでした」

「いや、そんなことないです。」

彼の丁寧な態度にこちらまでかしこまってしまった。

「あの、もうお気づきだと思いますが彼女は自分が元神様だと思ってるんです」

彼の方からそう切り出してきた。

「そうみたいですね、ジブリールっていう名前も彼女の空想の産物なんですか?」

「いえ、それは私の本名です。クオーターなんです」

いわれてみると少し日本人離れした顔をしているような気がする。

「それで彼女は元上良子といって私の親戚なんです。」

「そうでしたか」

「それで最近こちらに引っ越すことになってその下見に来てたんですが、その時はぐれてしまってずっと探していたんです」

「それは大変でしたね」

「ええ、でも貴方のおかげで彼女をみつけることができました。本当にありがとうございます」

「いや、そんな人として当然のことをしたまでですから」

その時すごく迷ったことは当然内緒だ。

「あなたはいい人ですね。もしまた彼女が迷惑を掛けるようなことがあったらその時はよろしくお願いします」

「ええ、構いませんよ」

多分そんなことはもうないだろうが。

「では私はこれで失礼します。彼女を一人にしておくのも不安なので」

そういって彼は去っていった。

今日は日曜日だ、まだ時間も早い。

俺は布団に戻り二度寝することにした。


アパートの通路を歩きながら彼女はジブリールに話しかけた

「ジブリール、彼と何を話してたの?」

「ん?あなたの事ををよろしくって頼んでたんですよ」

「そうよね、だったとなりの部屋に引っ越すんですものね」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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