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ジェントリーとサーバント 作者:はちみつくまさん 藍

第2回   ◆始まりは国境を越えて◆
人は過ちを繰り繰り返す。
それは――、
愚かなことだと思うか?
「はい」
僕は、少しも迷うことなく頷いたように思えた。
父上は――、
父上はなんともいえないような微妙な表情を浮かべて、僕を見つめていた・・・・・・。
「行っちゃうんしまうだね・・・・・・」
「またボクをおいて、一人で行ってしまうんだね・・・・・・」
そして、今、僕はまた同じ過ちを繰り返そうとしている。
「行かないで・・・・・・行かないでよ・・・・・・」
心の奥では、彼女を一人ぼっちにさせたくないと思っているのに、その気持ちとは裏腹に、僕の首は左右に振られる。
「ま、待って、一人にしないで!」
縋る手を振り払い、僕はきびすを返す。
追ってくる足音が聞こえているにも拘らず、僕は歩くことをやめない。
「・・・・・・必ず帰ってくるよね?ね?」
もちろん、その保証はない。だが、このシ―ンでは、頷いておけばいいのだ。
頷くことが思いやりなのだ。
少しだけ振り返って頷けば済む。ただそれだけのことだった。
でも―、
それだけのことが、あのときの僕にはできなかった。
こうして僕はいつだって過ちを繰り返してきたのだ・・・・・・。
「おいてかないで、お兄ちゃん!!」
「んご!」
側頭部にすさまじいまでの衝撃が走る。
「いたたたたた・・・・・・」
僕は一瞬、何が起きたのかわからず、周囲を見回した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
気がつけば列車の中。窓の外にはむかつくほど長閑な田園風景が流れている。
どうやら頬杖をつきながら風景を見ているうちに眠ってしまったようだった。
頬杖が外れて窓ガラスに頭をぶつけてしまうなんてどじをやらかしてしまったが、幸いにもコンパ―トメントには僕以外の姿はない。
僕は誰が見ているというわけでもないのに、軽く咳払いをして、襟元を正した。
「ん〜・・・・・・」
それにしても変な夢を見た。
妹の夢、だったような気がする。
「おいてかないで、か・・・・・・」
この夏季休暇の間ずっと、僕は故郷を離れ両親の住む東京市に滞在していた。
父上の元で帝王学の勉強をしてくるように、というのがおじ意様がぼくにだしたこのなつのかだいだったのだ。
妹は自分も一緒に連れて行ってほしい、などと拗ねていたが、僕には僕の、あいつにはあいつの都合がある。
結局、僕は独りで東京市に行き、妹は地元に残った。
そういえば見送りの時も、妹はずっとむくれていた表情で僕をにらんでいたような・・・・・・。
だから妹の夢などを見たのだろう。
僕は、皆への東京土産を入れたバッグの中から妹のために選んで買ったお土産を取り出して、それを眺めた。
まあ、なんてことはない髪留めの類なんだけど、妹なら―桜美ならきっと喜んでくれるだろう。
別にご機嫌取りのために買ったわけじゃないけど、買わなければ買わないであいつに文句を言われるに決まっているのだ。
ふと、窓の外を見ると列車は新川の陸橋にさしかかるところだった。
「ふう、ようやく国境か・・・・・・」
荒川を越えてしまえば、そこはもう英国領彩玉である。
僕たちの生まれ故郷である林海市まであとわずかだ。
僕は一ヶ月ぶりの故郷に想いを馳せた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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