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ジェントリーとサーバント 作者:はちみつくまさん 藍

第16回   ◆あやめ登場◆
――キーンコーンカーンコーン
昼休みだ。 
ちなみに、林海学園のキャンパス内には学食はない。
学生食堂は学生寮の中にあるのだ。
だから、昼休みには寮に戻り、昼食を摂る学生がほとんどだ。
「先輩、行きますよ・・・・・・」
「ん?どこへ?」
「・・・・・・どこって、決まってるじゃないですか。朝、クララ先輩にお呼ばれしたでしょう?」
「あ、そういえば、そうだった。お前、朝は乗り気じゃなかったくせに、結構ノリノリだな?」
「別に乗り気じゃなんかありません。サーバント科の人と一緒にお茶してたら、また、何か言われるかもしれないし」
「じゃあ何だよ」
「引き受けてしまったものは行かないと、失礼でしょう?」
「さ、ここでグダグダ言っててもしょうがない。さっさと行こうぜ・・・・・・」
「まったく・・・・・・」
「お。二人して、どこ行くんだ?」
「目黒先輩には関係ないです」
桂は目黒を睨みつけた。
「こわ・・・・・・。
何だよ、そう邪険にしなくてもいいだろぉ〜」
「行きましょう、先輩」
「ははは、じゃあな。目黒」
「えーと、クララ先輩は・・・・・・」
「いましたよ。あっちです」
クララ先輩は入り口に近い席に座り、優雅にクラスメイトたちとお茶をしていた。
学生たちが群れた中にいても、クララ先輩の姿はやっぱり目立つなぁ。
「来ましたよ、クララ先輩」
「こんにんちは」
「あら、いらっしゃい。芹人君。それに、桂君。ちょっと待ってて頂戴。いま、お茶を淹れてるとこだから」
「はーい」
僕は素直に返事をする。
クララ先輩のクラスメイトと思われる女の先輩たちが二人、僕らの方を見ていたので軽く会釈をした。
彼女たちは僕たちに会釈をすると、軽く微笑みかけてくれた。
さすがにクララ先輩のご学友は上品だ。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「いただきます」
「はい、こっちが私の焼いたスコーンよ」
僕は、クララ先輩に勧められるがまま、そのスコーンを口へ運んだ。
「!!」
「これは・・・・・・」
「おいしい・・・・・・」
思わず桂と目を見合わせてしまった。
僕たちの様子に、クララ先輩たちが上目遣いで目を見合わせて、くすくすと微笑んだ。
うわさには着ていたけど、これほどとは思わなかった。お屋敷のメイドたちが作ったものより数倍美味い。
「不不、ありがとう。まだあるから、遠慮しないで食べてね」
「はい」
と、僕がスコーンをもうひとつ手にとろうとしたとき――
「おにいちゃんっ!」
食堂の入り口の方から桜美の声が聞こえてきた。
「も〜ぉ。お兄ちゃんってば、よくも今朝、ボクを置いていったなぁ!」
「や、やあ、桜美。おはよう」
「今日は、お兄ちゃんと一緒にガッコ行こうと思ってたのにぃ・・・・・・」
「いろいろ荷物があったからな。しょうがないだろ・・・・・・」
「ぶう・・・・・・」
「まあまあ、桜美さん機嫌直して、私たちと一緒にお茶しましょう」
「ホントですか?」うち
桜美は怒っていたのも、どこに吹く風。手の平を返したような笑顔になった。
「あ、そうだ。あやめちゃんも一緒にお茶しようよ!」
あやめちゃん――?
見ると桜美の後ろには見慣れない女子学生が、所在なさげにポツンと立っていた。
「え?でも・・・・・・」
「桜美、その娘は?」
「え?この娘は僕のクラスメイトの虹咲あやめちゃんだよ」
「虹咲です」
「あれぇ?お兄ちゃん、あやめちゃんに会ったことなかったっけ?」
「・・・・・・ん〜、どうだったかな?」
様子から見て、よく桜美と一緒にいる感じだけど、虹咲あやめ、・・・・・・。聞いたことないな。
僕が返答に窮していると、その虹咲あやめと娘がポいうツリと口を開いた。
「やっぱり、憶えてらっしゃらないのですね」
「え?」
「失礼します」
虹咲さんはぺこりとお辞儀をすると、食堂から出て行ってしまった。
彼女の様子から察するに、やっぱり前に僕と会ったことがあるみたいだ。でも、だとしたら。いつ?どこで?
「んもう、お兄ちゃんってば・・・・・・」
「いや・・・・・・でも、本当に・・・・・・」
見覚えが無いんだけど・・・・・・。
「先輩、最低ですよ」
「女性のことを覚えていないなんて」
「そうですよねぇ、桂さん」
「デリカシーが無さすぎです」
いちいち、言うことに棘があるな、この二人は・・・・・・。
「芹人君、どちらにしても、追いかけていらっしゃい」
「ああ、はい。その方がいいですよね」
僕は、クララ先輩に促されるまま、食堂を飛び出した。
「虹咲さん!」
学生を出たところで、僕は虹咲さんに追いついた。
虹咲さんは逃げるでもなく、立ち止まり、くるりと振り返った。
「ああ、追いかけてらっしゃったんですね」
「ああ、いや。悪かったなぁって思って」
「ああ、いいんです。気分を悪くしたわけじゃないですから。憶えてないものは仕方ないです」
「それはそれでいいんです・・・・・・」
「ごめんね」
僕が謝ると、虹咲さんはクスリと笑った。
「すみません。気を使わせてしまって。でも・・・・・・、そういうところ、変わってません」
「え?」
「いえ、なんでもないです」
「あの、虹咲さん・・・・・・」
「あやめ、とお呼びください」
「ああ、えーと、あやめ・・・・・・ちゃんは、桜美とは親しいの?」
「・・・・・・まあ、親しいといえば親しいです」
なんだか含みのある言い方だな。
「では、私、行きます。追いかけてきてくれて、ありがとう」
彼女は深々とお辞儀をすると校舎の方へ戻っていってしまった。
なんなんだ?
「お兄ちゃん!」
「桜美」
「あれ?あやめちゃんは?」
「・・・・・・行っちゃったよ」
「怒ってた?」
「いや、そんな感じには見えなかったけど」
「そうだよね。あやめちゃん、あんまり怒らないもんね」
「なあ、桜美・・・・・・」
「ん?」
「彼女、どんな娘なの?」
「うーん、そうだなぁ・・・・・・。成績は良くってでもガリ勉って感じではなくてぇ・・・・・・」
「あ、サーバント科の実習科目でもすごいんだよ。先生顔投げの立ち振る舞いっていうの?」
「それを言うなら、顔負けだろ」
「そうそれ」
「それと、立ち振る舞いってのも、正確に言うなら、立ち居振る舞いね」
「細かいなぁ。ともかく、すごいの。あやめちゃんは」
「でもね、口数が少なくてね、、あんまりクラスではなじめてないみたい・・・・・・」
「でも、お前とは仲いいんだろ?」
「うん、仲良しだよ。ボクがするお兄ちゃんの話、よく聞いてくれるし・・・・・・」
はい?
「僕の話?」
「うん、お兄ちゃんの話」
「どんな話だよ・・・・・・」
「お兄ちゃんに関するありとあらゆる話だよ。武勇伝って言うの?」
「・・・・・・お、お前、余計なこととか、話してないだろうな?」
「どうだかねぇ・・・・・・。だって、お兄ちゃんってば、ネタの宝庫なんだもん」
「お前なぁ・・・・・・」
――キーンコーンカーンコーン
「やば、呼び鈴だ・・・・・・」
「そろそろ戻らないと、午後の授業、始まっちゃうよ」
「ああ、そうだな」
「じゃ、またあとでね〜!」
桜美は一目散に行ってしまった。
「虹咲あやめ・・・・・・か・・・・・・」
確かに初対面ではないという気がしないわけではないけれど、でも会った覚えはなかった。
考えてもしょうがない。
校舎に戻ることにした。こ
「あ・・・・・・」
そういえば、クララ先輩のお茶、ちゃんとありつけなかったなぁ・・・・・・。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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