今朝のこともあるし、やっぱり追いかけた方がいいだ ろう・・・・・・。 そう思い、僕は駆け出した。 「藤!」 「おや、どうしたんだい?速水クン」 「わゎ!!」 藤を追いかけようとした瞬間、同じクラスの函南真人が僕の行く手を阻んだ。 「ちょっと、そこをどいてくれよ、函南!」 「別にあわてなくても、次の授業には充分間に合うよ」 函南はチラリと僕を見ると、意味ありげにニヤリと笑った。 「そうじゃなくて、ちょっと用があるんだよ」 「用?だからって、ジェントリー科の学生がこんなところで走ったりなんかしたら、周囲に示しがつかないんじゃないかい?」 「いいから。お前に構ってる暇はないんだ。藤!」 しかし、藤の姿は人ごみに紛れて、見えなくなってしまっていた。 「藤?」 函南が首をかしげると、周囲にいた取り巻きたちが耳打ちした。 「ああ、サーバント科の・・・・・・」 「なんだよ・・・・・・」 「いや、失礼。よもや、名門速水家の御曹司ともあろうものが、メイドの尻を追いかけているとは思わなかったもので・・・・・・」 「何だよ、函南。何が言いたいんだよ・・・・・・」 「別になにも・・・・・・。ただ、速見クンにはも少し、自覚を持ってもらいたいなぁ・・・・・・なぁんてちょっと思っただけさ」 「なんだと!?」 「やるってのかい?僕は逃げも隠れもしないよ」 函南とは、話をするたびに、一触即発のような状態になってしまうことが多い。同じクラスになってからずっとこんな調子だ。 一瞬、函南と僕との目線の間に火花が散ったような気がしたが、それは気のせいだろう。 「こぉーら」 まさに僕が函南の胸倉をつかもうと思った瞬間、二人の間に蓮奈さんが割って入ってきた。 「蓮・・・・・・いや、馴実先生・・・・・・」 蓮奈さんは、サーバント科の特別講師として週に数回、出勤しているのだ。 「駄目でしょう。速水君、函南君。一流の紳士を目指そうという二人が、こんなところで喧嘩しちゃ・・・・・・」 「あ、いや、別に喧嘩していたわけじゃないんですよ、先生。な?函南」 ちなみに、僕と蓮奈さんは、公私混同しないように、とうことで学園では『馴実先生』 『速水君』と呼び合うことに決めている。 話し方も敬語ではなく、一学生として扱ってくれる。むしろ、敬語を使うのは僕の方だ。 入学したての頃は混乱したけど、最近ではすっかり慣れていた。 「本当なの?函南君」 「ええ、まあ・・・・・・」 函南は蓮奈さんから目を逸らした。 「ふ―ん・・・・・・」 蓮奈さんは、『ふぅ』とため息をつくと、『もういいわ』と言わんばかりに肩をすくめた。 「では、次の授業の用意がありますので、失礼します」 函南は取り巻きたちと一緒に逃げるようにそそくさと講堂から去っていってしまった。 「函南のヤツめ、逃げやがって・・・・・・」 「ん〜、逃げるって?どゆこと?」 「ああ、いや、何でもないです。じゃ、僕も次の授業がありますから」 「はい。じゃあ、またあとで、ね」 蓮奈さんは行ってしまった。 「ふう・・・・・・」 ん?何か忘れてるような―― 「あ、藤!」 僕は藤の去っていった方を眺めたが、もちろん藤の姿が見えるはずもない。 「今からじゃ追いかけてる暇もないか。教室に戻ろう・・・・・・」
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