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ジェントリーとサーバント 作者:はちみつくまさん 藍

第11回   ◆クラスメイト登場◆
新学期の最初に待ち受けていたのは、一限目をつぶして行われる、長い長い始業式だった。
さすが、彩玉では知らない者はいないと言われる名門校。学園長であるおじい様の話も一流なほど長い・・・・・・。
学生たちも内心は疲れているのかもしれないが、そんな様子をおくびにも出す者はいなかった。
流石、一流の紳士・淑女、一流の使用人を目指す者たちである。
上流階級の子息・令嬢と、中流階級・労働者階級の学生とが同じ学び舎で勉学に励むというのは、彩玉でも珍しい光景である。
そもそも、林海学園は階級社会のなんたるかを教育するために、おじい様が市の総監であるウィロビー卿とともに創設したのだ。
努力の甲斐あって二人の理想は実現しいまや林海学園は彩玉でも一、二を争う名門校として君臨している。
「・・・・・・ということなど、もってのほか」
「もちろん、長期の休暇で一流の志を忘れてしまった者など我が校に存在しないということはわかっている。が・・・・・・」
「今一度、胸に手をあて、己の理想実現に向かって進んでほしいと思う次第である。以上!」
おじい様が話し終えると、学年主任がそれぞれの担当学生たちに、卿の時間割の流れを簡単に説明し、解散となった。
「ふう。やっと終わったな・・・・・・」
「ええ」
「おじい様もいいこと言うんだけどさ、もっと話すことをコンパクトにまとめて欲しいよなぁ」
「そうは思わないか?」
「別に・・・・・・あのくらいの長さ・・・・・・」
「長いよ」
「それくらい我慢して聞いてくださいよ・・・・・・」
「聞いてるってば」
まったく、桂のヤツは愛想がなくて困る。
「おっす、おはよう!」
「おお、おはよ」
「・・・・・・おはようございます」
僕と桂が生産性のない話をしていると、クラスメイトの目黒明良が声をかけてきた。
「なぁ速水、お前、いつこっちに帰ってきたんだよ。何度か連絡したんだぜ」
「昨日だよ」
「かー、昨日かよ!!!何度、携帯にかけてもつながらないから、退屈だったぜ」
「・・・・・・そりゃ、悪かったな。僕の携帯電話、デュアルバンドじゃないからローミングできないんだよ」
「ああ、そっか。東京行くって行ってたもんなぁ・・・・・・」
「そういうこと。お土産買ってきたからあとでやるよ」
「東京土産ぇ?お前なぁ、俺が東京出身だって知っててなに言ってんのか?」
「もちろん」
そうなのだ。こいつは二年生になるときに東京から来た編入生なのだ。
なぜ、東京から越してきたヤツが英国領の紳士養成校に入ってきたのか、そのあたりの事情は知らない。
「何買ってきたんだよ・・・・・・」
「浅草名物、たつまきおこし」
「マジかよ!東京っつたら『東京めろん、見ぃつけたっ』に決まってるだろ!気が利かねぇなぁ・・・・・・」
「何の話をしるんだか・・・・・・」
「早く教室に戻りましょうよ。二限目は通常通りだって言ってましたよ」
「ああ」
「お、そうだ。お前、昨日帰ってきたばっかりなら知らないだろ」
「ん、何が?」
「聞いて驚け」
「だから、何がだよ」
「今年のプレミアリーグの開幕戦が、彩玉スタジアムでやることになったんだってよ」
「え、マジ!?」
「マジも大マジ」
「桂、お前は知ってたのか?」
「当然です」
噂話に疎い桂ですら『当然』といっているんだから、これはかなり知れ渡っていることに違いない。
何故、誰も教えてくれなかったのだろう。
「か、カードは?」
「聞いて驚け。FCマンチェスター対AC浦和!」
「マジで!?」
AC浦和というのは、名門・光菱自動車フットボールクラブを母体とした彩玉の地元チームである。
昨シーズン、ディビジョン1でのプレイオフの末、見事、プレミアリーグへの昇格を決めたのだった。
「ってことは、ディビッドが彩玉に来るってことだよな!」
「ディビッド?」
「ディビッド・ウイルキンスンだよ」
「ああ、あの二枚目、二枚目って女の子に騒がれてる選手・・・・・・」
「バカ言うな。顔とフットボールの技量は関係ない。彼は本物だ・・・・・・」
「はいはい」
「おまけにな、彩玉が世界に誇るアーティスト『マルフィー』が開会式で国家を唄っちまうんだぜ〜」
「いや、それはどうでもいいけど・・・・・・、でも、驚きだな・・・・・・」
「だろ?」
「そんなことより・・・・・・」
「ん?」
「そもそも、開会式の主催者は速見の大旦那様なんですよ。先輩が知らないことの方が、よっぽど驚きです・・・・・・」
「へ・・・・・・?」
「マジ?」
「ええ・・・・・・」
二重に驚きである。
でも、そうか。だから、みんな僕が知ってるものだと思い込んで、教えてくれなかったんだな・・・・・・。
「あ・・・・・・」
そんな話をしていると、目の前を藤が通りかかった。
「やあ、藤」
「あ、あの・・・・・・」
「し、失礼します」
藤はそそくさと逃げるように行ってしまった。
「あ・・・・・・」
「行っちまったな。速水、なんかやらかしたのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど・・・・・・」
「追いかけてあげた方がいいんじゃないですか?」
「そうだな・・・・・・」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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