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ジェントリーとサーバント 作者:はちみつくまさん 藍

第10回   ◆学生寮の面々◆
白鷺館から林海学園の学生寮までは、それほど離れているわけではない。
桂が手伝ってくれたこともあって、比較的楽にここまで来ることができた。
「先輩の部屋に運び込めばいいんですよね?」
「ああ、とりあえずそうしてくれ」
学生寮は、男子寮と女子寮に分かれているが、入り口は共通である。
寮に入ると見知った顔があった。
「あ、クララ先輩」
「や。芹人君、おはよう」
「おはようございます」
彼女は、サーバント科の一学年上の先輩、岡・クララ・直海さんだ。
林海学園には一流の紳士・淑女を目指すためのジェントリー科と使用人養成のサーバント科という階級の違う科へ並存する。
しかし、科が違っても先輩は先輩。後輩は後輩ということで、お互い礼節を守るのがしきたりだ。
特にクララ先輩は、成績も優秀だし、女子寮の責任者という立場もあるので、ジェントリー科の学生も一目置いている。
一流のメイドサーバントとしての将来が約束されているといってしまって、過言ではなかった。
「どうしちゃったの?二人して大荷物かかえて」
「ホントですよ」
「いやぁ、休暇中に館に持って帰っていたものと、あとは皆への東京土産です」
「へぇ。芹人君、東京に行ってたんだ」
「ええ。クララ先輩にもありますよ。お土産」
「ホントに?」
僕はお土産が入った紙袋に手をとつっこみ、クララ先輩のために買ってきたお土産の入った包み紙を探した。
「どれだったかな?」
「・・・・・・先輩、一体、何人分お土産買ってきたんですか?」
「ナイショだ」
「八方美人もほどほどにしてくださいよね」
「・・・・・・お、あったあった。はい、これです。クララ先輩へのお土産」
「わー、ありがとう」
「じゃ、僕ら、ちょっと部屋に荷物置いてきますんで」
僕らは礼をすると男子寮へと向かった。
「あ、ちょっと待って」
「はい」
「私の焼いたとっておきのスコーンがあるから、お礼にそれを御馳走するわ。お昼休みに食堂にいらっしゃい」
「いいんですか?」
「ええ。是非」
クララ先輩のお菓子作りの腕前は学園内では知らない人がいないくらいの高レベルなものだ。
そのクララ先輩に誘われるなんて、滅多にあることではない。
「わかりました♪」
僕はお辞儀をすると、桂を促して男子寮へ向かった。
「いや〜、しかしあのクララ先輩からお茶に誘われるなんて、新学期早々ついてるなぁ」
「・・・・・・何デレデレしてるんですか?」
「デレデレなんてしてないぞ」
「してますよ。栄えある林海学園ジェントリー科の学生ともあろう者が、お茶に誘われたくらいで・・・・・・みっともない」
「何だよ。それじゃ、桂クララ先輩にお茶に誘われたことが不名誉だっていうのか?」
「そ、そういうことを行っているわけじゃありません。論点をズラさないでください・・・・・・」
「ふん、じゃいいよ。僕だけお呼ばれしてくる。文句ばっかり言ってるヤツは無視無視」
「先輩・・・・・・。性格、良くないですよ」
「はは、嘘だよ。桂も一緒に行こう。な?」
「はぁ・・・・・・」
桂は本日何度目かわからないため息をつくと、僕の部屋の前に荷物を置いた。
「荷物は、部屋の前に置いておけばいいんですよね。それじゃ僕は、白鷺館へ顔を出してきます」
「ああ、ありがとう。悪かったな」
「いえ。それじゃあ、また後で」
桂は几帳面なほど丁寧に荷物を置くと、来た道を戻っていってしまった。
「さて、いらない荷物は、部屋の中に運び込むか・・・・・・」
林海学園は全寮制だから、すべての学生に部屋が割り当てられている。
基本的に、二〜三部屋で例外を除くと一人部屋は存在しない。
ジェントリー科の者は同じジェントリー科の者と、サーバント科の者はサーバント科の者と相部屋になる。
ただ、同学年のものが相部屋になることはなく、必ず先輩や後輩とになるように調整されている。
縦の繋がりを強化するためだろう。このあたりの決まり事には、学園長である祖父の考えがよく反映されていると思う。
「ただいま戻りました」
一応、入るとき声をかけてみたが、案の定、部屋はもぬけの殻だった。
ちなみに、僕の部屋は二人部屋で、くま坂先輩というジェントリー科の三年生とルームシェアしている。
しかし、僕がくま坂先輩と部屋で会って話をすることはごくごく稀だ。
先輩はジョギングが日課のため、超がつくほど早起きで、朝にあえる可能性は極めて低い。
かといって夜に会えるかというと、そうでもない。就寝が、とても早いのだ。
僕が夕食を終え、明日の予習でもしようかな、と思う頃にはすでに高いびき。生活のサイクルが違いすぎるのだ。
「さて、学園に行くか・・・・・・」
僕は先輩の机にお土産をひとつ置くと、必要な荷物だけまとめて学園へ向かうことにした。
いよいよ新学期が始まる――。
――キーンコーンカーンコーン

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Novel Editor by BS CGI Rental
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