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愉快な増田家 作者:亜沙美

最終回   4
終章

僕は、死ぬことにした。ホームセンターでカビキラーを買い、真夜中にそれを全部飲んでしまった。

頭は心地よい浮遊感を感じ、死ねる、これはきっと、とおもったら、猛烈に苦しくなった。

「お願いだから死なせて、邪魔しないで死なせて!」

と、僕は、金切り声をあげた。すると、

「しんじゃだめだ、しんじゃだめだよ!」

と、また別の声がした。はっと我にかえった。きがつくと、そこは病院だった。

「なぜ死なせてくれないの?」と、僕は、叫んだ。

「馬鹿やろう!」と、強い腕が、僕の体を抱きしめた。強く強く強く抱きしめられた。今までに経験したことのない、暖かさであった。

「お、お、お、伯父さん!」

「やっとわかったな、」と、良治伯父さんは、また、僕をだきしめた。

「兄さん。」と、弟の長治郎が僕の手をにぎった。僕は、病院のベッドの上にいることがわかった。

「兄さんが桂子さんにメールしただろ、桂子さんは、良治伯父さんに電話をしたんだよ。良治伯父さんは、明日、家に、戻る予定だったんだ。伯父さんは、暴れたとか、何かを壊したわけじゃないし、ただ、読み書きできないから、びっくりした度合いが強いだけなんだよ。病んでいたのは、お父さんのほうさ。精神科の先生は、うつ病なんかでもないし、入院させる理由がないから、出てくれというんだよ。だから僕らも、こっちにきたんだ。」

「長治郎、君はどうして、君はお父さんのしんがりみたいに。」

「違う違う。」と、長治郎はいった。

「僕も、お父さんのこと、嫌いだったよ。自分が良治伯父さんみたいに、凄い芸を持っている立場ではないから、兄さんを、利用して対抗しようというのが見え見えだったから。僕も、兄さんのこと、心配だったよ、、、。本当に、、、。兄さんが、死んでしまうんじゃないかなって。」

長治郎の目に涙が溢れた。

「朋美、君はまだ、15歳じゃないか、そんなのは、まだ青二才だ。それなのに死のうなんて、最高にわがままだ。僕らは、生きる権利がある。悪いことをした人でも、弁護士がついて、いきる権利を与えている。それを放棄してはいけない。」

「兄さん、桂子さんと結婚すればいいじゃないか。そうすれば、独立して、財産ももてる。」

「なにバカなことをいう。」

「朋美、かおがまっかだよ、さあ、家へかえろう。」

僕たちは全員、笑顔になった。何年ぶりだろうか。






僕は、良治伯父さんと、長治郎と、タクシーで家にかえった。車の中で、沢山の思い出をかたり、笑った。タクシーは家についた。僕たちは、家の戸をあけた。すると、嫌に酒の臭いがした。「なんなんだろうね、このにおい。」と、良治伯父さんがつぶやいた。すると、「てめえ、また、帰ってきやがったか!まだ閉鎖病棟にいろ!」と、べろべろに酔った父が怒鳴りつけてビール瓶が、良治伯父さんの顔の前に突進してきた、、、。それが、僕が物を見た最期だった。それ以降、僕は物を見ることができない。後で聞いた話したが、ビール瓶は、良治伯父さんに向かって投げられたもので、僕は、それをかばおうとしたのだそうだ。確かに顔に激しい痛みは感じた。きっと、ビール瓶が僕の顔に当たり、僕は、失明したのだろう。何はともあれ思い出話はここまでだ。僕は、物をみることができない。僕は、結局学校にはいかず、大槻家元に引き取られ、免状をもらって、妻桂子と良治伯父さんと幸せにくらしている。良治伯父さんは、相変わらず文字の読み書きができないから、お手伝いさんを呼び、補助してもらいながらくらしている。弟は、大学の教授として、あちらこちらを行き来し、時々土産を持ってやってくる。まだ、結婚はしていない。独身貴族だ。祖父は、数年前に祖母からよびだされた。そして、、、、今日、父が仮釈放になる。もう、父の顔も見えないのだから、もういいだろう。僕たちは、父と、この家で暮らすつもりだ。また、愉快な増田家になる事を願って。 

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Novel Editor by BS CGI Rental
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