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日の出食堂とハーレーダビットソン 作者:マーキー

第9回   9
木屋町の朝が白々と明ける頃、人通りもまばらなこの街の空を団体様が埋め尽くす。 何千羽というカラスがゴミをあさりにやってくるんです。
電線という電線が真っ黒に染まって、路地ではカラスがゴミを引っ張り合ってる。 うっかり酔っ払ったカップル達が道端でラブラブしようもんなら、カラスの糞がおめかしした服やばっちりセットした頭に容赦なくふりそそぐ。 汚い話になるけれど宴の後の飲みすぎ君のリバース後もカラスがしっかり掃除して、浮かれ街の食物連鎖が本領を発揮している。
日の出食堂の玄関の上の電線近くにはどうやら電流が激しく流れるなにかがあるらしく、ベテランカラスはそのトラップに引っかからないのだが新人フレッシュマンカラスが朝方絶賛営業中の当店の玄関のど真ん中に感電死して落ちてくる。 まぁ週2回ほどの自爆テロではありますが、落ちてきた瞬間 盛り上がっていた会話はたちどころに止まり誰ともなしに「不吉やなー」って声があがり非常に迷惑なアクシデントなのです。 その落ちてきたカラスをゴミ袋に入れて捨てる行為も最初の頃は嫌だったんですけど、慣れって怖いです。今ではあーまたかーって感じで、さっさと片付けてハイハイお仕事 お仕事。

この前もデリヘルのミコちゃんとお店が暇で二人っきり。 ちょっと変なムード。自分の肩口にあごを乗せるように体をねじりながら酒を飲むミコちゃんが、ものほしそうに僕を見ながらちょっとエッチな話をする。
確かにご無沙汰キングではあるけれど、ミコちゃんは街で有名なかぶりすぎのケーキでいえばミルフィーユのような女の子だから実際まずい事この上なし。
しかしこの誘惑に僕はうっかり負けそうになっていた。そこでミコちゃんがトドメの一言。
「マーキーさん。お風呂は入りたい」 あーれー!来たー!どうしよう あーでも だって 
「よし!ほない行こか」と言いかけた瞬間!「ボトッ!」空からカラスが落ちてきた。 虫の知らせならぬカラスの知らせ ふっと我に返り いけない いけない「ごめんな支払い今月きついしガンバルわー」 グッジョブ木屋町カラス
身をていして、まさに命がけで僕を助けてくれたのか。君の仲間がこれからも感電死してウチの玄関に落ちてきても僕がよろこんでゴミ袋に埋葬しようじゃないか。
また誘惑に負けそうになったらタイミングよく落ちてきていただきたい。 ブラックな浮かれ街の守り神は
間違いなくカラスやで。

第20話
街っ子育成
あまりにもバイクに乗れていないので、近場で一人で走りにいこうと綾部の観音温泉へ。距離にすれば150キロほどの短いコースなので気晴らしに軽く走るにはちょうどいいから、結構お気に入りの場所なのです。 亀岡を抜けて半分ほど走ると、いつもの休憩場所「山形屋」に到着。ここは市内から丹後方面に向かう人達の憩いのスポット。バイクを止めて缶コーヒーを飲みながらしばし休憩。タバコを吸ってました。すると二人組みの女の子が近ずいてきて、物めずらしそうにバイクをのぞきこんでヒソヒソ話しているので
「またいでみますか?」と聞いてみた
「いいんですか 私ハーレー乗りたくて免許取りに行こうかと思ってるんです」 あらあら出会いなんてどこに落ちてるか分からないもんですな。 向かってる方向が途中まで一緒だったのでタンデムで乗せてあげました。相当感動したみたいで、電話番号交換してその日は別れました。

何日かたって仕事中に電話はまさにその娘
街で飲んでいるというので、日の出食堂の場所を教えると、この間の友達とご来店。 話は簡単 つきあってほしいとの事だったけれど、僕はとてもしらけていて、ひとめぼれタイプのこの娘はあまりにも僕の置かれた特殊な状況を知らな過ぎるし、いちいち説明するのもめんどうくさい。ごちそうを目の前にしてなんですが何も知らないのはお互い様とはいうものの、きっと彼女のイメージの僕はちょっとやさしいハーレー乗りぐらいの感じなんだろうと考えると非常に勘弁願いたい訳なのです。
「まぁ取り合えず飲もうぜ」って事で3人でわいわいやっていると、バーテンダーのよしくんとまさおが休憩でご飯を食べにきてくれた。
「マーキーさん めずらしい 女の子いますやん 邪魔してすんません」 お互いをサラッと紹介して和気あいあい。 よしくんとまさおに出会ったいきさつなどを説明すると、ザッツバーテンダーの彼らは言葉巧みに軽く彼女達を楽しませて、あっという間に自分達のバーに連れて行ってしまった。 すげぇーなーバーテンダーってやっぱり まぁ席の少ない日の出食堂としては、長居されても困りますからそれはそれでありがたいんですけど、しかし人によるとは思いますが若い女の子の身の軽さと言いますか流され方ってホント変幻自在やなって。

こうやって木屋町のチェーン店なんかのポップな場所からディープスポットに引き込めた事でディープ人口が増えたからとってもいい仕事ができたのはよかった。
彼女たちはこうやってバーのおもしろさを知って、いろんな人と出会って、いろんな飲み屋を知りホントの意味で街で遊ぶ娘になっていくんだろう。
朝までおもいっきり遊んだら、また日の出食堂で朝メシでも食べに来てくださいな。 そのころには出会った時の事なんか笑い話になってますから。
大人のアミューズメント木屋町を心行くまで楽しんでいただきたい。 おもろいで マジで







以前勤めていた店の上司だった浜辺さんがご来店。
一緒に働いていた時は非常に微妙だった関係も浜辺さんが店を変わり、僕が独立してからは、昔話に花を咲かせながら楽しく飲めるようになった。
浜辺さんは一緒に働いていた店に大学時代のバイトから入り、社長に見込まれ社員になり
若い時から店長を務める賢くて敏腕な人で、顔も男前スポーツはバスケットで国体選手になるなど、そのたどった道は小学生で王子様、中高でアイドル、大学で期待のホープだったと周りの人からよく聞かされたもんだった。彼は職人ではないけれど、調理師畑で何年もかかって会得した職人の技術を頭とセンスですぐやってのけ、バカで不器用な調理師を時々がっかりさせた。 その頃僕は何軒かの店を転々とし辿りついたこの店で年下のエリート店長浜辺師の下で働く事になったのだけれど、それはそれで結構おもしろかった。
性格は正反対 失敗を許さない店長と失敗から客を掴む僕。
一つのオーダーミスを許さない店長に怒られながら、そのミスから客に入り込んで仲良くなっていく僕は非常に彼の中で使いにくい存在だったに違いない。他の調理師やバイトをこっぴどく指導してみんな落ち込んだり、女の乎なら泣いたりしていたけれど、僕をこっぴどく怒り指導した浜辺の方がなおさらご立腹になってしまう程、僕は元気だった。
怒られている事は理解していたし「すんません」とも言うし、でも明らかにマネも出来ないしその頃には僕は自分のスタイルは固まっていて変える事は不可能だったから、ほんと迷惑かけたんです、この人には。
二人で飲みにいったバーで浜辺さんは自分の夢を僕に聞かせた
「まっちゃん僕はこのフードビジネス全体の社会的地位を上げたい。一生懸命働いて報われへん事多いやろ。そこな おかしいと思うねん」
 言ってる事分かるけど僕はその水商売のちょっと虐げられた感が結構居心地いいから、
頭のいい人って大変やなーって思っていました。
そんな彼が今回独立する事になってその報告をしてくれました。きっといい店になるわホント楽しみで「絶対行きますわ。お祝い持って。むちゃ楽しみやわ」
「まっちゃんと正反対の店やで あんた楽しめるかな?」
「そんなんめっちゃ楽しむよ 客なんやから怒らんといてよ」
方向性は違ってもお互いオーナーという一緒の立場になる事は非常にめでたくてちょっと早いお祝いの乾杯を交わしその日はとても気持ちいいお酒になりました。

一週間ほど過ぎたある日、知り合いからの電話。「浜辺さんバイクで事故った。重体で契約済みの店も延期取り消しになったって!」

言葉もでぇへん。どうしたらいいのか。ぜんぜんわからん。

ホンマ 人の人生なんてどういう事やねん。今までノーミスのエリートが自分の一番大事なとこで、なんででっかいミスしとんねん。
あれだけ人を散々怒っといて、自分やる時、こんなん重過ぎて怒り返せへんわマジで
たった一度の失敗が、これから経済的にも精神的にも何年かかるのか分からないけれど
心の強い人やからきっといつか、自分の店を持つんだと信じています。
その時は新台入れ替えのパチンコ屋みたいに花だらけにしたるからな。覚えとけ!

第21話
教祖マーキー
京都に来て一番古い友達手島は、僕より一つ年上なのだけれど、知り合った頃から僕の真似ばかりをするので困っている。
ハタチぐらいの頃初めて車を買った僕が彼の家に遊びに行くと、次の日には自動車学校に通い免許を取る。そこまでは良いのだけれど、同じ車を買うからタチが悪いんです。
昔から服装もどことなく似ている。でも気持ちぽっちゃり体系の彼に僕は「そんなデブややったら同じもん着ててもぜんぜん違うで。ちょと痩せたら?」
となんともなしに言ったら彼は椎茸と便秘薬で15キロもダイエットして僕の前に現れた。
「お前はマーキー教の信徒か!」ほんまに困ったやつなんです。
おもしろいのは、車にしてもグレードは一番下のやつ 服装も似ているけれどかなり雰囲気重視で明らかに安っぽいし、ポリシーが見当たらない。というかポリシーは僕に似ている事なのかも知れないけれど、実際困ります あなたのそのこだわり方。
先日もどうやら自分の中で追いついたらしくバイク買ってましたアイツ。国産の400にデカイシールドにフォグランプ別付けでサドルバックにシーシバー。明らかに大きく見せようと変な努力の跡あり。なんてバランスと趣味の悪いカスタムなんでしょうか?
「おい!マーキー!今 革のベスト別注で作ってんねん、肩口にトゲトゲついてて後ろにドクロ刺繍してもらっるからまた着て来るわ!」おいコラ! 僕そんなん着てませんけど、どこまでエスカレートすんねんお前は
ドゲトゲってあんた筋肉体質のプロレスラーか?それとも可愛がられてる方のブルドックですか? あのねなんか間違ってるよ こだわりのポイントずれてますよ ほんま
でも僕がデッチで食えない頃 ほか弁に勤めてたこいつはよく内緒でおかずいっぱいにしてくれたりご飯大盛りにしてくれたりあの頃の事を思えばなんとかしてやりたいのです。
手島のかあちゃんが生前に見舞いにいった僕に「まーきーちゃんあの子の嫁だけ心配やからよろしくね」と頼まれた事もあっていろんな女の子を紹介もしてるんですけど、どうもうまく行かなくて。今ではお互い中年ど真ん中。完全に婚期を逃してしまった。
うぅ!もしかしてそれさえも僕の真似をしているというのか?これはやばい!誰か僕を貰ってはくれまいか?私には忠実な信徒がいて、僕がお婿に行かないと信徒が婿にいけませんので。どうか彼がうっかりハゲちらかす前に早い目におねがいしたいのです。
第22話
体にいい酒

ヘルシーあんど健康ブームに乗っかるべきだと考えた僕は、ある秘策を実行した。
ネットオークションで粗悪な安もんの朝鮮人参を購入。そしてホワイトリカーで2ヶ月ほど漬込み色が出てきたところを「健康酒 朝鮮人参」と名打ち売り始めた。

丁度その頃、常連さんになりつつあった正次さんは日の出のある通りの裏側あたりの地主さんで金持ちであるにも関わらず、やけに日の出が気に入ったらしく結構なペースで来店してくれているんですけど、いつも同じ話しを繰り返しながらメシも食わずに豪快に酒をあおっている。「俺は半年前口頭ガンで入院してんけど ラッキーやったわー初期ガンで転移もしてなかったから、こうやって飲めるねんで。ありがたい。人間健康が一番や でも生きてるうちに好きな事しなあかんで!」
「そーですねー ホンマに人の命なんかいつどうなるかわからへんから。僕も好きな事今の内に山盛りしますわー」
同じ話しをいかに新鮮なリアクションで返せるかというのが正次さんに対する僕の課題でこんなおっさんにはなりたくないなーと思いながらも必死でフレッシュな相槌を打った。
「ところで正次さん 健康一番!朝鮮人参酒漬けたんですわー飲んでくださいよー」
その時から正次さんは、当店絶賛おすすめの朝鮮人参酒しか飲まなくなった。
この酒はなんと35℃のアルコール度数を誇り、ロックで飲むため強烈に酔う
しかも朝鮮人参のニガさはハンパではなく販売元の僕がいうのもなんだがくそまずい酒なのだが健康志向の叔父様方に大人気で結構商売になるのだが、漬けこんだ酒が減るとその上からまたホワイトリカーを注ぎ込みだんだんと酒の色が薄くなっていった。
なんてヤクザな儲かる酒なんでしょうか。んーザッツヒット商品!利益最高!

正次さんは余程「健康」という言葉が心に刺さったらしくグリグリで歩いて帰れないまで、この日の出のインチキ健康酒を飲みつづけるので、裏の家まで肩を貸しながら送っていく事が多くなっていった。

ところが常連リストに名前が載り始めた正次さんがと突然来なくなった。
まぁまぁお客さんなんてそんなもんやな。山盛りの店がこの木屋町にある訳やしチョイスが変わったところで当たり前やからしょうがないなーなんて思っていたのですが
3ヶ月もしたころ突然がっつり痩せこけた正次さんが入ってきた。
「あー久しぶりでうねー正次さん!」にっこり笑って手を上げる正次さんが僕にゼスチャーで書くものと書かれるものを要求してきた。
えぇー正次さんなんやねん。。。
紙にスラスラと正次さんが書いた文字は「転移 声帯切除」
声を失ったんだ。もともとそんないい声でもなかったけれど もうその声も聞くこともない2度と口を開けば同じ事を繰り返す、相槌に困るあのダルい会話ももうないけれど

指を刺したのは以前より見るからに薄くなった健康朝鮮人参酒
僕が作ったインチキ利益優先アルコール飲料。

たった一杯でグリグリになった正次さんを雨の中肩を貸しながら送った
道中 雨に濡れながら 千鳥足の正次さんに僕は声をかけた
「正次さん!体にいい酒なんかあるわけないやろ!病人に飲ます酒なんかウチにはないから
どうかよくなってからまた飲みにきてよ!切なくて見てられへんわ!ホンマ御願いします
思わず泣いてしまった。正次さんは分かっているのかは不明だったけれど、少し笑っていた。送りとどけ閉まるドアによくなるように願いを込めて深くおじぎをした。
店に戻りながら少し笑っていた正次さんの顔を思い出してた。
「そんなん分かってるわ。マーキーあほやな。お前が必死にならんでも、そんな事は分かっとんねん」そんな声が聞こえたような気がした。
それは明らかに気のせい。だって正次さんはもう声がでないから。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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