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日の出食堂とハーレーダビットソン 作者:マーキー

第7回   7
おい!コラ!マーキーくそボケカス!」
あーいらっしゃいませ こんばんは いつものように悪態をつきながらの登場は、この辺のピンサロを牛耳る大塚さん。年の頃なら50代前半といったところですか。面識はなかったんですが、クラブハーレーの愛しきアイアンホースに載せいてもらった直後、彼は現れた。なんでもハーレーを3台所有しているらしく、それはお金持ちそうで、スーツはグッチ 車はベンツの興味がなければ覚えられそうにない長い名前の限定車らしいのだが まったく乱暴で今までの人生の壮絶さがオーラに出ている 夜の勝利者ともいうべき 見る人が見たらさぞ羨ましい人なんだろう。
大塚さんはいつも絶世の美女をしたがえてこの汚い食堂に来店なのだが、そのキャラとどんな客にも威嚇するスタイルでいつも客が帰っていく。どんなにフレンドリーに話しかけたとしても あげあし一発「おいコラ沈めんぞお前」この調子だ。
ただ手出しはナシだし 思いっきり威嚇した後にニコッと僕の方を見て笑うのでなんとも掴みどころがない ミスターブラックセレブなのである。
大塚さんが食うメニューは決まっていて 満腹やきそば ハンバーグデミグラスソース
ミートソーススパゲティの3品 そしてビールを彼女と一杯ずつでいつも5000円で釣りはいつもいらないという。その3品もちょっとずつ手をつけてほとんど残して帰る
多分どっかでメシを食ってから もう一件って事で来ているんだろうけれど気になったので聞いてみた。「大塚さんぐらいになったらもっとうまいもんいっぱい食べてるのになんでちっちゃいこんな食堂にきてくれはるんっすか?」
「あのなーマーキー一回目はハーレーの繋がりで覗いたけどお前とこのメシは俺が昔、子供の頃食いたくてたまらんかった食いもんやねん デパートの最上階のレストランのショウインドウに並んでたあの食いもんを俺はずっとよだれ垂らしながらずっと見てたんや
うまいもんは山盛り食べてきたけど ちっちゃい頃のご馳走は今でもご馳走や 今は脂っこくてたくさん食べられへんけどな」 あーそういう事ですか そんなつもりで作ったメニューじゃないですが人によって思いは様々で、ノスタルジックな気分に浸れるならそれも調理師みよりにつきますな 僕に言わせれば大塚さんがお連れの女性の方がよっぽどご馳走だと思うんですけどね これもまた思いは様々って事ですか
突然大塚さんが相変わらずデカイ声で僕に言った
「マーキー2000万預けるしお前うちのテナントで店やれ 45坪あったらデパートのレストラン再現できるやろ 日の出閉めて大きい商売せーよ どーや!」
いやいやありがたい話しではあるけれども 大塚さんがオーナーじゃ僕2時間で胃が破れますし、18年かかってやっと4坪の店やったのに 思いつきの3分で45坪の店やらんとってほしいわホンマに おんなじ人間やろ ちょっとは優しくしてください



第十五話
マッシュさん

開店以来毎日 ハネめしを日の出食堂で食べてくれるマッシュさんはバー「M」のオーナーさんです。強烈なキャラの持ち主のマッシュさんはその個性を生かし一人でお店をやっていてお客さんの9割が女性という日の出食堂とは逆の客層がうらやましい限りのお店
本人も計っていないので推測ですが体重130キロ 頭はマッシュルームカットで着ている服は子供服をイメージしているらしく真っ赤なティーシャツにはニコちゃんマーク パンツは冬でも半ぱんで赤のスニーカーにマクドナルドのリュックを担いでいる。
この一見クマのぬいぐるみのようなスタイルでかわいいキャラが女性に大人気なのである
そして言葉尻に「マッシュ」といれる念のいれようで「いただきマッシュ」「ありがとうございマッシュ」と猫なで声できゃら全開 しかーしその正体はかなりブラックで
「マッシュかわいい!」と近づく女性にセクハラやり放題 キャーなどと言われようものならまたキャラでごまかし楽しい営業を繰り広げているのである
僕ら知っている人なら問題ないのだが、スタイル上勘違いされやすく 見知らぬ男どもが変にからむとマッシュさんの本領が発揮される 営業上かわいいキャラではあるが一歩プライベートになるとマッシュさんほど止められない巨漢ファイターはいないのだから
まさしくその巨漢は日の出食堂が育成中でたまに休むと電話がかかってきて「痩せたらどーすんねん 死活問題やで」と苦情がくる始末。
分かっていますよマッシュさん その体は僕が責任を持って維持しますから例え酔っ払って他の人のメシは作れなくても あなたのために若干の予備タンはいつも取ってありますから  
そんなマッシュさんが一番苦手で嫌いなものがあります。
それは集団帰宅の小学生 やっぱりイジられますよねーそれは しかも子供だけにどつかれへんしなー いっぺん背中のチャック下ろしてモデル体系で追いかけたれ!ってどうですか











ある事があって僕は完全に仕事をする気力を失ってしまいました。
何ともなしにハーレーにまたがり南港へ フェリーに乗って鹿児島に帰りました。
志布志に到着したフェリーからバイクを降ろし一路ふるさとの阿久根まで200キロ
あまりを走りだしたのですが、実家に帰る気がせずに僕は親友の茂美の家に向かいました
茂美は高校の同級生で今は実家の家業の大工を継いでいて、奥さんも学生時代から付き合っていた良子で、もう子供も二人いて、家を建てて幸せな家庭を築いていました。
突然尋ねてきた僕に良子は「おかえり 早く中に入って」ってこんな感じで、仕事から帰ってきた茂美もたいしたリアクションもせずメシを食いながらビールを飲み昔話に花を咲かせていました。
あったかいなー 「何で帰ってきた?」「何で家に帰らないのか?」なんにも聞かないんだもの まぁー抱えられなくなった時しか田舎に帰ってこない僕の事を二人はわかっていたから普通にまた甘えて帰って来られるんですけど。
食事もごちそうになり風呂も入れてもらって「ふとん敷いたからここで寝て」って事でフラッと横になるとおチビが乱入してプロレスごっこ するとチビが背中の刺青に気付いたらしく「かぁーちゃーんおじちゃんの背中になんか書いてる」と告げ口した。
目のつりあがった良子が僕の背中を勢いよくひんむいた。「あんた一人ぐらい なんとでもなるから もう帰っておいで!ばか!」茂美はその騒動を見てわらっていた。
京都の生活の中でこんなあったかい話しないよな 一人やから注意なんてないし
子供を幼稚園に送ったあと、パートに出て帰って家事やって いっぱいいっぱいの主婦がいい大人をもう一人養おうと本気で言うんですから 学生時代はリンゴダイエットに失敗した残念な気持ちぽっちゃりなだけだったのに  「ちょっともう一回風呂はいってくる」溜まりに溜まった感情が一気に溢れ出して情けない 泣いてしまった。
久しぶりに泣いたなー やっぱり田舎っていいもんですな。何もないところですが街にないものが確かにある。だからなんとなく帰ってくるんだろうし
でかい夫婦ゲンカでもしたらどっちでも京都に逃げてきてくださいな
別居生活の担当は是非わたくしめにお願いします。でも、いつでもいっぱいいっぱいになってお世話になるのは僕の方でごめんなさいませ。

第16話
レッドムーンのウォレットの仕業

ローカルのラジオ局「ラジオカフエ」で知り合い数珠繋ぎ的な番組に紹介され出演することにななった。DJの質問に答えながら 日の出食堂の詳細や自分の事をおもしろおかしく
お話しました。まぁいい経験になったなーぐらいの感じでその場はおわったのですけれど、これが僕の抱え切れない大事件につながってしまいました。
ある日バタバタと忙しく仕事をしていると見知らぬ初老の男性の客が現れカウンターのはしに座りごはんを食べていました。いちげんにからまない主義の僕は軽くほっときながら常連さんと話しこんでいると おあいその時その男性は僕に話しかけてきました。
「先日ラジオを聞いたんですが、実はあなたの産みの母親の叔父にあたる者です。その話しを彼女にしたところ是非一度会いたいと 連絡をとってほしいと頼まれておじゃましました。都合のいい日で結構ですので会っていただけないでしょうか?」と連絡先を渡され
握手を求めてきた。急で話しが飲み込めない僕はその握手に手を出さず「おおきに」だけ
告げてかえってもらいました。しばらく頭が真っ白になりました。

いろいろ考えたんですけど結局会わない事にしました。
お涙頂戴の運命の出会いをするには年を取りすぎていますし 僕は産みの親の思い出はおろか顔さえも知らずに育ったのに会ってなにを話せばいいのか分からないし、第一小さい頃どんなにその人に会いたかったかさえも覚えていないのです。
男と女いろんな事があったんだろうと理解もできるし、産む事より育てる方が大変な事も分かっていますから。 それに「会いたい」と言ってもらったその一言で僕は満足してしまっていたから。きっと後悔するだろう 誰でもどんな人から自分が産まれてきたか知りたいと思うでしょうから。
何ともなしにハーレーにまたがり僕は南港へフェリーに乗って鹿児島に帰った。
ウォレットにしまっておいた連絡先の紙は革の色が移っていつのまにか文字が見えなくなっていました。多分必要がなかったら文字が消えたんだと僕は納得しました。
お気に入りのレッドムーンのウォレットの仕業でしたから











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Novel Editor by BS CGI Rental
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