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日の出食堂とハーレーダビットソン 作者:マーキー

第3回   3
第四話
  ゆかりママ
日の出食堂の隣に廃墟と化したビルがあります。通称オバケビル なぜオバケかというと立ち退きを迫られているにも関わらず一件だけ粘り続けて十年あまりこのビルの主「スナックゆかり」のママがオバケみたいだからです。
しかしこのゆかりママはパンチの効いてるザッツ水商売で65歳にも関わらずある特定のコアなお客のハートを鷲掴みして絶賛営業中なのです。日の出食堂オープンの日も挨拶がないと怒鳴り込んできたママのスタイリッシュな酔っ払いっぷりには度肝をぬかれました
左足のパンストはビリビリに破れ胸元に歴史を感じさせるしなだれたナニカが乱暴に揺れていてその上にジャケットを羽織るのは正解なのだがそれを見事に裏返しに着こなしてしまっている。髪は薄汚く濡れていて片まゆ毛がすでに無くなってしまっているうえに うっかり鼻水も垂れてしまっいる。これで怒鳴られたら誤るしかない しかもウチに来る途中にコケて看板で頭を打ったらしく逆ギレも手伝ってえらくご立腹だったから。
しばらくキャンキャン言うのも落ち着きマッタリトークがはじまり僕が九州出身だと知るやいなや最上級グルーブ感が現れた。実はママも九州出身らしく 今では息子のように可愛がってくれているのがナニより微妙だ
ゆかりママのヒストリーは昭和ロマンチカだ。聞くものをノスタルジックに切なくさせる
ゆかりママは中学卒業後、集団就職で京都の繊維工場で働きだしたが悪い男に騙されて結局四十年前にこの通りにたどり着いた。今割烹屋があるビルに昔「ブラックハイヒール」というキャバレーがあったらしいのだが、ゆかりママは想定外であるがナンバーワンキャバ嬢だったと言い張って聞かない。そして現在のビルで「スナックゆかり」をオープンさせた。その頃のゆうれいビルは活気に溢れ大儲けしたらしいのである
時は過ぎ、ビルもママもくたびれてしまったけれど ママのパンチの効いた水商売魂は健在であり、今夜も一見浮浪者なみの叔父様方が通いつめ電球が切れかけては時々付いたりする「スナッくゆかり」の看板が睨みを利かせている。
「おにいちゃん この人医者やねんホンマ。いい客もってるやろ なぁ」っといつも違う人を紹介されるがこの汚いおっさん達が否定しないのが恐ろしい

昨日も「おにいちゃん、ポテトサラダ余ったから食べや」って無謀に顔が近いし
泣きそう。しかも「おおきに いただきます」っていつも言うけど食べた事ないし「お客さんにもだしてあげや」ってそのマニュキアが中途半端にはがれたその爪で調理したポテトサラダをおいしくリアクションできる客層はウチにはちょっと

今夜もママはカラダをはった全裸とカラオケの店を絶賛営業中でございます
立ち退きの権利金を一刻でも早く手に入れて余生を楽に生きてほしいと思います。




















ある日ちょっいとヤバイ客があらわれました。あだ名はサルさん これがファーストコンタクト。サルさんはスキンヘッドに白髪のあごひげをたくわえ おしゃれグラスに革ジャンジーンズ姿でダックテールヘルメットを片手にやってきた。
「君がマーキーか。噂は聞いてるで ハーレー乗ってるらしいな」おしゃべりの動線が見つかったところで和気あいあいおしゃべりがはじまった。ハーレーの話革ジャンの話。実際かっこいいと感じてしまった。こんなおじさんになれたらいいのにと。
「名前なんていうんですか?」「おぅ みんなサルって呼んでるで」えぇー!悪評高いこの人がサルさん!うーん非常にヤバイ
噂ではこの人は昔バーをいとなんでいたが経営不振のため店じまいし とんずらし、ほとぼりがさめる頃帰ってきて今はよろしくないほうの集金業務をしているらしく、某カフェ店長が「これちょっと預かっといてくれ 中身は見るなよ」と紙袋を渡されて肝を冷やしたと聞いている。
食事もすんで おあいそ 何事もなく帰っていった。その時 店の前を通る50のあれはジャズって言うバイクだがそれにまたがりさっそうとサルさんが走り抜けていった。
「原チャリかよ!」思わず突っ込んでひっくりかえった。ウソやろー
アメリカンには違いないがそこまで決めて乗らんでもいいやろ。確かに個人の自由ですが。ハーレー乗りだと決めてかかった僕が悪いのか
だってハーレーの話してたしなホンマ

第五話
  ベトナム旅行

「F」というベトナム料理のオーナーコンタさんがベトナムに食材の買い付けに行くのに一緒にどうだと誘ってくれた。一週間の長旅 日本男児はモテルと聞いてテンションあがりっぱなし。日程表も頂きウキウキ しかもコンタさんはかなりのベトナムフリークやし、きっと
ディープスポット満載の旅になるにちがいない 日程表を冷蔵庫に貼り付けて眺めていたその時、舞ちゃんが入ってきた。
舞ちゃんは祇園のクラブ嬢で僕が店をやる前から飲み仲間で仕事帰りに寄ってくれる仲良しさん だがなんだか様子がいつもと違っていた
しばらくして舞ちゃんが「マーキーさん彼氏やねん」って あーそう軽く挨拶したこの人 年のころなら五十代後半優しそうな顔つきだが、なんだかうさんくさい。ふと玄関の方を見ると、とんでもなくイカツイ男とサルさんが背中を向けて立っている 。えー!これって偉い_ 人lちゃうのん!舞ちゃんロックやなーお前
やさしそうな語り口のナイスミドルのその人が僕に質問した。「なーあの紙 なに書いてあんの」あわてて「あーそれ今度ベトナムいくんです。もう今から楽しみでいつも眺めてるんですわ」「あそう ちょっと見せて」おもむろに日程表を見ながらその人は、驚愕の発言を日の出食堂にくらわした 「俺も行くわ チケットとっといて」ドッカーン!あんたはテポドン一号か! そんなん一緒に行けるわけないやろ!
あわてて切り返す 「いやー定員ギリギリみたいやしお連れさんも入れたら多分無理ちゃいますかね」「あー大丈夫 今回仕事ちゃうから一人で行くわ 一人ぐらいやったら何とかなるやろー」コラー!ベトナムに仕事ってなんの用事でいつも行っとんねん 背中に脂汗がタラーっと流れる 「あーじゃー幹事さんに聞いときます」その場はそれとなく終わりかえっていきました。
慌ててコンタさんに連絡「そんなん行ける訳ないやろ!すぐ断れ!アホか」
翌日丁重にお断りして事なきを得た。あぶなっかった ホンマ楽しい旅行が大変なことになるところでした。

旅行の日も近づいたある日、僕が家で寝ていると携帯電話が鳴って眠たい目をこすりながら電話に出るとコンタさん「マーキー今どこにいるん?」「あー家で寝てますけど」 怒鳴り声一発「アホ!今日出発の日
やぞ俺もう関空やで!」 ガーン! ショック。
解説すると朝めし屋のため AMとPMの時差が頭の中に発生し一日間違える結果になってしまったんです。
「まだ間に合う!タクシーのれ」取るものもとりあえずタクシーに飛び乗り「タクシーさん関空!」
しかし無情にもあと10分で到着というところでタイムオーバー 飛行機はベトナムへ飛んでいった  僕だけを残して  「運転手さん下ろしてください ありがとう」タクシー代2万5千円あまりと旅行代がパー そしてフッと組長の事を思い出した。でも組長が一緒の予定やったら僕はどんな制裁を受けていたんだろう また背中から脂汗がタラーッと流れた
帰りに大阪のいっぱい飲み屋でジモティーのおっさんとビール飲みながら阪神の野球観戦で意気投合。今日の出来事を打ち明けた
「そうかー元気だせよ またそのうち行けるわ 一緒に銭湯でもつかろうや」 銭湯で汗をながしおっさんとしゃべりながら湯船にゆっくりつかった。あーこんなんでいいわーこっちの方がよっぽどディープやんけー
  





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Novel Editor by BS CGI Rental
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