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日の出食堂とハーレーダビットソン 作者:マーキー

最終回   10
第23話
木屋町 世にも不思議な物語


健都1200年の歴史を持つ華の都京都は昔からきっとたくさんの人達が生活をしてきたんだと思うんですけど、京都生まれの地元の人に言わせると京都が地震に強いのは、長い時間をかけて人が歩きつづけ踏みつけたために地面ががっちり固まってるからって真面目な顔で言いはなつから。ホンマかいなぁ それって感じで。
確かに今自分の生活しているエリア内での人に生き死にの数たるや僕の愛しいお馬鹿な頭では想像もつかないけれど、それが現在自分の商売に関わっているとしたらそれは実にほっておけない問題なのかもしれない。

日の出食堂の常連さんの中に少数ではあるが、霊感の強い人がいる。
自分に見えないものが見えると言われれば、信じるのかいなかはそれぞれに自由ではあるけれど、その特別な能力をまの当たりにすればするほど なんとも分かりにくい。
その能力が得なのか損なのかも微妙なところではありますが、そういう人達にとっては古都京都の立地条件は人口密度の高いっていうか落武者から今風までの方々がところ狭しとひしめきあってる無国籍ならぬ無歴史な状態なんだろうか?

ついこの間も客のレイちゃんと焼酎ウーロンを飲みながらアホな話しをしていたんですけど、急に僕のちょっと横に視線を止めたまま青ざめた顔で固まった。
「レイちゃんどうしたん?気持ちわるいんか?」
「もーいや! おっちゃんいる!マーキーさんのすぐ横!」
「どこ?またオバケかー?」
ブルブル震えるレイちゃんが指を指すので、その場所に体をかぶせて
「これで見えへんか?」
「うん 大丈夫」
「レイちゃんどんなオバケやったん?」
「えーと この位のおっちゃんやった。」
と親指と人差し指で示された幅はおよそ15センチ足らず。
「ちっちゃいんかい!」
さすがたった四坪のお店にとりつくオバケは気を使ってコンパクトらしい。すんませんおっちゃん居場所なくてごめんなさいね。
「マーキーさん違うねん。おっちゃんちっちゃいけど、むっちゃ怒った顔して睨んではるから むっちゃ怖いねん ホンマに!」
んーちっちゃいおっちゃんが怒ってるって微妙やなぁー リアクションしずらいわー ホンマに。

そーしてるうちにレイちゃんはトイレに。
ドアを開けた途端 「ギャー!」とレイちゃんは叫び声一発ひっくりかえった。
「おっちゃん いはるー!」
コラ!おっちゃん!瞬間移動禁止やぞ! しかも怖い顔してけっこうやらしいポイントに移動しないでいただけませんか。
せっかくなんやから、その時ぐらいはいるならいるで、見えないような方向にしといた方が あなたにとってもナニかとメリットあるとおもうんですけど

もう一人は日の出食堂の前にある「A」のオーナーの彼女さんのまみちゃん。
彼女の霊力はどうやらハンパじゃーないらしく、あまりにも見えすぎるために一人の自分のマンションに帰るのが怖いのでいつも仕事が終わると木屋町を飲み歩きグリグリになって帰るのが日課だ。 そして家に帰ると酔っ払ったままバタンキューなら気が付けば朝で辛い思いはしなくていいらしいんですけど。
「マーキーさん聞いて!この間もひどかったんやん。朝なにげに目がさめるたら、ものすごく息苦しくって なんか生ぬるくて柔らかいもんが顔に押し付けられてる感じで目を開けるのが怖くって怖くってー」
「えぇー!ヤバイなー!なんやったん? ソレって」
「勇気を振り絞って目を開けて恐る恐る頭を上げたらな」
「うん うん」
「コンビニで買ったヤキソバの上で寝てしまってたんです!食べる途中で寝たみたいで**マーキーさんソースのにおいするかなワタシー大丈夫?」
「オバケの話し違うんかい!おいっ!」
さすがザッツ水商売!なんてお話上手。

「あーでもこの間マーキーさんの夢みたわー ワタシの夢ってけっこう当たるって友達とかビックリしてるんやけど」
「へーそうなんや。どんな夢?」
「あのなぁーマーキーさんが店辞めて田舎に帰る夢」
あらぁーなんてリアルな夢なんでしょう。とうとう店潰して田舎に帰る感じねぇー
哀愁ただよいますなーってコラッ!まだまだ絶賛営業中や!バカ!

まみさん。僕が知りたいのはただ一つ
その まさに帰路につく僕の横には誰かいたんですか?
僕はやっぱり一人ぼっちで田舎に帰るんでしょうか?
是非詳細を教えてはくれまいか?
ここからの酒は僕がおごりますから。


































第24話

第七話で紹介した同じ飲食のオーナーであり悪友の象印さんが倒れたとマッシュさんから聞いたのは朝の4時ごろ。
彼女が家で寝ていたカレの呼吸がおかしいのに気がついたらしく
慌てて救急車を呼んだ。第一日赤病院に担ぎ込まれ意識不明のまま集中治療室で治療が行われているらしい。
夕方仕入れを済ませ病院に向かうと15人ほどの身内と店のスタッフが待合室でうなだれている。今にも泣きそうな「Z」の店長のユッキーに様子を聞くと「意識不明で自力で呼吸も出来ない状態なんです。面会謝絶で会えなくて。ホントごめんなさい」思ったよりひどいみたいで。とりあえず仕事を休んでその日は待合室で回復を祈る事にした。  飲みすぎに睡眠不足。理由といえばすぐに考え付く。水商売特有の原因ではあるけれど特にカレはひどかった。文章にするには、あまりにも恥ずかしい失態も数えきれない乾杯も走馬灯のように頭の中によみがえりただただ回復を祈りつづけていた。
時間がたつにつれて噂を聞きつけた街の人間や「Z」の客などが駆けつけ、病院の待合どころか通路も玄関もしまいには駐車場までが、象印の容態を心配した人であふれた。
みんな地ベタに座りこみ下を向いたまま、泣きじゃくるものあり神妙な面持ちでお互い会話もせず挨拶もなく、ひたすら吉報を待ちつづけた。
飲食業の先輩三木橋さんが僕の横に座り小さい声でこう言った。
「順番は守らなあかんでぇ。なぁマーキー。お前も似たことやってるからな。このままやったら次はお前やぞ。もうちょっと考えろ」
「三木橋さん。街で商売してる人はみんな明日はわが身ですよ。僕だけじゃない。みんなリスキーですわ。ほんま。」

見たこともないやつが小声でしゃべっているのが聞こえた。
「俺なぁ自分がこうなった時に象印さんみたいにこんないっぱい心配してもらうためにがんばろうと思ってんねん。最後に分かるよな。人にどんなに愛されてたかって。すごいよなー」
アホかって。しょうもない事しゃべんな小僧って。
死んだ後の答え合わせのために一生がんばるぐらいやったらはよ死ねボケ!

死んだらなんもない。どんだけ人が来ても、どんだけ金持ってても、どんだけ美人の女あいされても、ゼロはセロや。なんにもないから 最後なんやろ。
生きてる事が全てやろ。生きてさえいたらゼロはないやろ。最後までもがいて生きる事が人生やろ。
タバコ吸いに表に出ると朝になっていた。
身内やスタッフや彼女そして僕よりも親しいカレの友達。もっと辛い人はいっぱいいるだろう。みんながそれぞれカレとの思い出を思いだしそしてただひたすら回復を祈ってる
それからまた地ベタに座りこみ待った。ずっと待った。
ふと考えるといったいナニをまってるんやろって
面会謝絶。息を吹き返しても、ベットから飛び起きて「みんな直ったわ!ゴメンなぁ心配かけて!」って訳にもいかないのに。
なんやねん 僕は死ぬのまってんのかなぁ 象印の亡骸に顔をうずめて泣きたいんかなぁって。ダサイわ なにを待ってるんやろう、ずっとここで。
容態の報告は悪くなる一方で、聞くたびにみんなうなだれてまた待ってる。
ユッキーの肩を叩き「ユッキーごめん。僕ナニを待てるんか分からんねん。 なんかあったら連絡して。すぐかけつけるから」と言い残し家路についた。
結局あれから2ヶ月。意識はもどらず、今も病院の中カレは戦ってる。
居酒屋「Z」も2週間前に廃業しスタッフはちりじりになった。
木屋町の名物店がまた看板を消し伝説の店が一店舗増えた。

象印。今日も僕はグリグリに酔っ払い客とグルーブ感を感じながら幸せな営業をしいます。
あんたは一生分の酒をイッキに飲み干して今は身動きが取れないけれど、
今まで取れていなかった分、寝るだけ寝てアルコールが抜けきったらまたがっつりおきあがって、また焼酎ウーロンがぶ飲みするんやろ。
みんな待ってるから。ゆっくり休んだら起きてきて。おねがいやから。


















イタタタタっ 右胸がいたい。
昨日もグリグリ営業の僕は酔っ払いに酔っ払い、通り掛かりの外人が「ファック!」とこっちに向かって言ったか言わないかでもめたあげくに、パンチ合戦が始まりお互いの右胸を交互に殴りあった。えらくカラダ付きのいい男だったのでパンチもそれはそれは強烈で、どうやら僕の必殺酔っ払いパンチは相手に効いている様子もなく殴られ負けしてしまった。
数人の外人とうちの客に止められながらなんとか収まったのだけれど相当僕は悔しかったらしく全裸で外人みんなをあつくハグして気持ち悪がられた。
殴った外人のカラダ中には中途半端なタトゥーがたくさんほってあったけれど、僕の豪華一点ものの背中の鯉はそいつらに大変好評でなにやら英語で絶賛してくれている模様でちょっとうれしかった。
でもいつまでこんなミラクルな店を営んでいけるのか。 最近はちょっと考えてしまいます
体力確実に落ちてるし 記憶飛ぶのもめっきり速くなってて ビックな失敗やらかしそうやな
なんか
しかーし 木屋町のアホな常連さんや僕の事をやさしく見守ってくれている少しばかりの理解者達がいる限り体力の続く限りがんばろうと思います。
日の出食堂のトタンで作った看板に書かれた名文句「アホな話しとうまいメシ」
この文句を見て入ってきた新規の客が「アホな話ししてーな」とアホ面で言うけれど
そんな面白くないヤツはほっといて、好きなヤツとだけ腹を抱えて笑っていたいもんですな
京都の浮かれ街に寄生するちっちゃい食堂は明日も絶賛営業中です。
体にいいものなどひとつもございませんがおなか一杯にはなってもらえると思いますので
京都見物に来られたら一度寄ってみてください。
くれぐれもきをつけて。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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