一
お化けの騎士の少年は広場に立っていた。そこは山の中腹にある旅人のために作った休憩所だった。広場の目の前には草原がどこまでも広がり、圧倒的な風景を作り出している。 鳥のさえずり、木々のざわめき、土の匂い。 それら全てを感じながらお化けの騎士の少年は、死んでいる自分の事を意識したたずんでいた。 深い森の捨てられた城にあった鎧に取り憑いている記憶の無い少年の亡霊。この世では存在していいはずが無いのに、生気あふれる場所に立っている。そして、過ぎた歳月は知らないが記憶に刻み込まれたことをおもいだす。
それは捨てられた城で目が覚めてまもないころだ。 はじめにしたのは・・・誰か、自分以外と会いたいと願って城の中を探しまわった。何日も探しまわって知ったのは、城には何も生きてはいない、自分一人ぼっちしかいないという事結果だった。ネズミとかの小さな動物でさえも骨だけ、虫はその姿を残していたがさわったらパラパラと崩れて消えた。 ただ一つの本を見つけたことだけは幸せだった。他にも本はあったが、全ての本が破れ、虫に食い尽くされ、カビに犯されていたのだ。 ただ一つの本を毎日毎日なんどもなんどでも繰り返して読んだ。本は友達の大切さを書いた子供向けの物語で、なんどでも読み返すたびに誰かと一緒に黄金の太陽の暖かさにつつまれてやわらかい草のベットの上で遊ぶ姿を想像して、暗い冷たい城のかたい石床の上でお化けの騎士の少年は泣いていた。
ある日、お化けの騎士の少年はお城で一番高い部屋から森に小さな明かりがあることに気がついた。何日も昼と夜も見続けて、そこに村があることをお化けの騎士の少年は知った。 硬く閉ざされた城の鉄門を壊して出て、何日も深い森に迷ったお化けの騎士の少年は村にたどりついた。そして・・・
「あっ!」 悲鳴に似た声が現実に戻した。 お化けの騎士の少年は横においてあったハルバード(槍に斧の刃をつけたした武器)を手に持って、山道に出た。 何を言っているのか分からない悲鳴が上から聞こえてきた。声は甲高く、どうやら女性のようだ。 ハルバードを片手に山道を走って行く。徐々に甲高い悲鳴は大きくなってきた。 道を離れて、木々の間を山道と変わらない速度で走り、少し先の開けた場所を見た。 血を流して倒れている男と、その近くに刃物を持った男が二人。少し離れて女が一人、腰を抜かしながらなんとか逃げようとしていた。 どうやら、道中によく現れる盗賊に襲われた哀れな旅人だ。 (倒れている男は・・・まだ生きている。だが、時間がすぎれば・・・) 盗賊の一人は男の近くで荷物を調べている。そして一人は女のほうへ・・・ 「おのれら何をしているか!!」 お化けの騎士の少年は気合のいれた大声を出しながら、荷物を調べている盗賊に小石を投げつけた。 「わっ・・・」 小石は盗賊の頭に当たり、ぐらついた。 すかさず飛び出したお化けの騎士の少年は、盗賊の腹を蹴飛ばす。 お化けの騎士の少年は完全防備の全身鎧に取り憑いている。もちろん全身鉄の塊だ。そんな物で腹を蹴り飛ばされた盗賊はもうピクリともしない。 「こっこの野郎!」 残った盗賊が短剣で切りつけてた。 お化けの騎士の少年は避けずに受ける。胴を切りつけた短剣は折れた。びっくりする盗賊に無言で腹に鉄拳を打ちつけた。 「ぎゃっ」 盗賊はそのまま倒れた。
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