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夏祭りにて 作者:フォン=マンハイム

第2回   二 重いよ、これ

「よっ兄ちゃん!そんな年で『で〜と』かい、やけるねぇ!!オジサンだって、20過ぎてから手をつなげたって言うのに、最近の子は・・・・っとまぁどうだい1つクジやっていかないか!?ハズレ無しの500円3回勝負だ!」
 お祭りの出店をあちこち回っていたボク達を豪快な声が止めた。日に黒々と焼け、頭の毛が一本もないお爺さんだ。
 クジは箱の中に入っている紙を抜き出すのじゃなくて、景品のお菓子やオモチャにくくりつけてあるヒモを探し出し引き当てるのだ。
 いつもだったら珍しくて、ボクはやるのに・・・Lサイズのピンス焼き、10個ぐらいギッシリつまったドングリアメの袋、たこ焼き、ビニールのハンマー、水風船なんかのもろもろの荷物を両手に持たされてるから、これ以上荷物が増えるのは嫌だ。
 でも、あの子は・・・
「よし、ジイちゃん。心しろ、この一番デカイ、X箱(作者注:フルネームは怖いので出せません)引いてやる」
「その粋はよし!吹き流し引いても泣き言いうなよ」

 焼き鳥の食べ終わったクシをお爺さんに向けて言ってるし・・・・これも、お賽銭の件のためだもん・・・男の子は我慢、我慢。でも、あの子は男女どっちなんだろう?

「おい!お前、ボーっとしないで財布から500円出す」
「はい、はい・・・・!!」

 ボクは固まった。
 だって、だって、お金は300円しかない。
 これだけ、豪遊してたらなくなっちゃうの当たり前じゃないか。でも、どうしよう。クジは500円なのに300円しかないなんて・・・・

「おそいぞ、早く出すんだ!」
「そうだぞ兄ちゃん。男だったらサッサト出す」
「いや・・・あのね・・・」
「兄ちゃん、玉ついているのか!?男だったら元気よく言う」
「そうだ、そうだ!早く出せ」
「わかったよ、言うよ!お金300円しかないんだよ!!」
 お爺さんの笑みがなくなった。
 あの子の手からクシが落ちた。

 どうしよう・・・怒ってお賽銭の事言われたら
 うわ、あの子、ボクをにらんでるよ・・・どうしよう、どうしよう・・・

 笑わなくなったお爺さんが何か考えるように眉間にシワをよせて
「ちっ、しゃあねぇ。オジサンも大負けに負けて、300円で一回やらしてあげよう」
「高いぞ、せめて2回30・・痛!」
「お爺さん、ありがとうございます。はい、300円です。じゃ、頑張って良いの当ててね」
 ふぅ・・・せっかく、負けてくれるって言っているのに、いらない事を言って止めてもらってはたまらないもん。でも、後が怖い・・・

「よし、ジイちゃん。覚悟しろよ、一発でX箱(えっくす ばこ)引いて赤字出してやるからな!」
「ふぁはっはっはっ!お嬢ちゃんの一発で引かれるほど、この蚕衛門(さんえもん)、おいぼれてはおらんぞ!」
 あの子は目をつむり、ゆっくりと息を吐きながら、右手でヒモを一つ持って、いきなり目をカッと開き。
「こいつだ!!」
 気合一閃とは正にこの事か、お菓子や吹き流しといった小物の景品を跳ね除けて、大きな箱が飛び出した。
 蚕衛門のお爺さんは目を大きく見開き
 あの子は口から妙に大きく鋭い犬歯をのぞかして笑い
 ボクはX箱を売ることを考えてた

 ズスゥン

 妙に重そうな音を立てて、箱はおりたった。

 箱には「全金属・エアガンモデル MG42」と書いてあった。

 ボクはこれを持たされる光景が浮んだ。
 あの子は髪を下ろして見なかったことにしている。
 蚕衛門のお爺さんはハンドベルを鳴らした。

 カラン、カラン

 間抜けに響くハンドベルの音色に、ボクとあの子は互いの顔を見つめあい、蚕衛門のお爺さんがなんでハンドベルをならすのかを分からないことを確かめ合った。
 蚕衛門のお爺さんが一通りハンドベルを鳴らし終え、あの子の細い手をお爺さんのふしくれだったゴツイ手で包み。
「お嬢ちゃん、おめでとう!!この蚕衛門が仕入れている中で最も高い20万超えの「ヒトラーの電動ノコギリ」と恐れられた万能機関銃MG42を見事引き当てた!」
「なにい!こんなもんが20万を超えているのか!?」
「あぁ、そうだともお嬢ちゃん。ワシの生きている間に引き当てる事が出来ないだろうと思っておったものを、よくぞ引き当てた。感謝する」

 やっぱり、そのMG42はボクが持たされることになった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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