どんどん近づいてくる。
「あ、長島くんじゃない?」
「え、マジだ!司ー。」
私の存在には気づいていないみたいだ。
でもこのままだと気づかれる。
会いたくない。
普通にできるわけがない。
笑えない。
だって泣いている。
司は後ろに手を伸ばして、私の頭を下げさせて、体を自分の背中にぴったりくっつけさせた。
「よぉ。」
「何してんの?あ、明日の準備ね。」
「うん。」
「え・・・ってことは奈緒・・・も?」
春喜が私の名前を口に出した。
うれしかった。
変わらない、低めでちょっと怖くて、でも本当は優しい声で3ヶ月ぶりに私の名を呼んだ。
「学校にいるよ。俺は足りないものあったから買出し。」
「そうなんだー!うちらはねぇ、夜のお散歩♪」
サチは明るくかわいい声で言った。
「そう・・・じゃ、俺、あいつが待ってるから行くね。」
「・・・あ、うん・・・。」
そうして司は走り出した。
「えっ?!」
春喜は私の存在に気づいた。
「奈緒っ!!!!!!」
司は全力で自転車をこいだ。
振り返ると
そこには
世界で一番愛しい人がいた
「大丈夫?」
学校でテープを録音していると司が心配して聞いてきた。
「あぁ、大丈夫だよ。」
それしか言えなかった。
大丈夫の一言を言うので精一杯だった。
やっぱり涙は止まらなかった。
いつもあの後ろに乗っていたのは私。
後ろに乗って、わざとフラフラな運転する春喜に怒っていたのも私。
後ろに乗って、春喜の背中にしがみついていたのも私。
嫌で嫌でたまらなかった。
自分以外の人間が、サチが、春喜が愛しいと思う彼女が、春喜の体に触れる。
春喜はどんなふうにサチを抱きしめる?
春喜はどんなふうにサチにキスをする?
私にしたように、優しいぬくもりでサチの心を温めるんだ。
バカだ。
司を好きになりたいって心から思った。
司を好きになれそうだって心から思った。
でも
私の心にいるのは
やっぱりあなただけ
その後は、司に送ってもらい家に帰った。
ベッドの中に潜り込んで、春喜とサチの幸せそうな顔を思い浮かべていた。
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