「あ、まず・・・。」
「ん?どうした?」
明日は体育祭。
今日は事前準備で午前中授業。
私と司は最後まで残って準備をしていた。
すでに夜の8時を回っている。
「1年の種目のBGMのテープ壊れてる・・・。」
放送委員の仕事なのだが、私たち二人は代表で最後の最後まで確認を任されている。
「は?!放送委員何やってんだよ・・・。」
テープはねじれにねじれ、どう見ても巻いて戻せそうにはない。
「なんでだぁ?誰かいたずらしたんかな?」
「それしかないだろうな・・・。」
「どうしよ・・・。」
「・・・CD、レンタルしてくるか・・・。」
「やっぱりそれしかないよね。。」
「はぁ・・・しゃーねーなぁ・・・行くぞ。」
外はもう真っ暗だ。
「あぁー、今から歩いていったら着くの9時回っちゃうな。一回、家寄ってチャリ取って来る。」
司の家によって、自転車を取りに行き、二人乗りでCDショップへ向かう。
インディーズのあまり知られていないバンドの曲なので街中のお店じゃ見つからない。
街灯で華やかに飾られた街を通り過ぎ、海辺のほうへ走っていく。
真っ暗で時々外灯があるくらい。
住宅地になっている。
「この辺って本当になんもないよねー。」
「あぁ。あっちの空き地も家が建つみたい。」
「ふーん。」
司とは話が途切れなかった。
学校とかで二人で話しているのとは違う。
真っ暗な中、人なんていなくて、本当に二人っきり。
春喜以外の人とこういうふうになるのは初めてだからかなり最初は緊張していた。
でもどうでもいい内容でも普通に司は話してくれる。
だいたい事務的な話が多いし、二人っきりになるといっても学校から家までの短い距離だったりしていたので、ずっとこういう感じだと本当に緊張する。
でも楽しかった。
「あった!」
CDショップでは意外と早くCDが見つかった。
「これを録音して、完了だね!」
「うん。よかった、よかった。」
そして元の道を帰る。
ちょっとつまらない感じもした。
もう少しそばにいたいような気がしたのだ。
「あー、家帰ったら宿題やんなきゃ。めんどくせぇなぁ・・・少し寄り道していい?」
「え?」
そうして司が自転車を走らせたのは海岸だった。
「うわー・・・真っ暗だよー・・・。」
遊泳禁止になっている場所で、ちょうど潮が満ちていた。
真っ暗で、ただただ波が揺れてて、深そうだった。
このままここにいたら、もう戻れないような・・・そんな感じだ。
暗くて、暗くて、少し怖かった。
呑み込まれそうで・・・。
「これ落ちたら死ぬかな?」
「死にはしないだろ。でも入るなよ。引っ張られる。」
「えぇー・・・少しだけ・・・。」
「だーめ。」
「けちー。でも落ちたら泳げないから本当にシャレになんないよねぇ。」
「まぁそのときは助けるけど。」
司は目を合わせずに空を見上げて言った。
照れている。
「・・・ありがとう。」
司は、遠まわしだけど本当に優しい。
今日、またそれを確認した。
そろそろ帰ろうと自転車のところまで戻るときも、砂浜が流木やごみでデコボコしていて歩きづらいのがわかったらしく、歩幅を合わせて、私の方を気にしながら歩いてくれた。
やっぱり好きになるならこの人がいい。
心の底からそう思った。
帰り道の急な坂道、二人乗りは難しいので歩いた。
「進路どうすんの?」
「進路?あぁー・・・たぶん安全にいける利和女だと思う。推薦もらえるし。」
「女子高か・・・。」
「うん、でもさ、野球応援できないじゃん。マネージャーやりたかったのに。だからすーっごく迷ってる。」
「そんなにやりたいん?」
「うん。ちっちゃいときから絶対に野球部のマネージャーやりたいって思ってたんだ。」
「ふーん。」
私は小さい頃から相当の野球ファンだった。
プロ野球も好きだけど、やっぱり高校野球はどんな試合でも感動するから好きだ。
同じお金を払うんだったら、人気のアイドルのコンサートより、野球観戦をしたい。
「司は?」
「んー・・・俺は、富士谷あたりに行ければいいけど。」
「やっぱり野球続けるんだね。」
「もち。でも遠い・・・。」
「まぁ部活やるんだったら大変だよね。」
「んー・・・どうすっかなぁって感じ。」
ふと前から車がきた。
そして後ろからも。
そのとき、司が動いたのがわかった。
それと同時に私の体が浮いた。
車は私が歩いていたところを通って行った。
司が私の腰を掴み、自分の前へと動かしたのだ。
「あ、ありがとっ・・・。」
車の走る音にかき消されたかもしれない私の小さな声、司に届いただろうか?
それからしばらく気まずかった。
簡単に持ち上げられてしまったということと、春喜以外の人にこういうふうに助けてもらったことがなかったから恥ずかしかった。
でも、すごくうれしかった。
いつも女扱いしないような態度なのに。
でもそのあと少し経ってからいつもの調子に戻った。
司も恥ずかしかったみたいだった。
「春喜と2ケツしたことないの?」
自転車の前で司が問いかけた。
「・・・あるよ。」
「怖かった?」
「最初はね。」
そんな話をしていて、学校のそばの公園まで来た。
「あはっ!だぁかぁらー!」
サチの声だ。
前方から自転車が来る。サチがそれに乗っている。
でも運転しているのはサチじゃない。
サチは後ろに乗っている。
胸の高鳴りが止まらない。
嫌な予感がした。
「なに?サチがそういうこと言ってるからじゃん?」
もう一つの声は、優しくそして温かく笑う春喜のものだった。
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