咲は俺の腕の中で1時間近く泣いた。
その後、何でもなかったような顔をして「ありがと。」と一言言ってキャビンを出て行ってしまった。
あいつはあまり人前では泣かない。
修学旅行のとき慎也の前では何のためらいもなく泣いていた。それほど慎也が咲にとって安心する存在ってことだ。
そして俺の前で泣いた。
でもたぶんそれは慎也の代わりだ。
いつもそばにいた慎也が急に離れていくような気がしたんだろう。
慎也と咲が幸せならそれでいいと思った。だけどやっぱり今あの二人はおかしい。
気づいてるのは俺だけかもしれないけど、なんだか二人がかみ合ってない感じ。
なんなんだ?
俺は直接慎也に聞いてみることにした。
慎也たちのキャビンまで行くと、すでにバーベキューを始めていた。
「慎也!」
「松沢?!なんだよ・・・。」
慎也はあからさまに俺を嫌がった。当然だろう。自分の彼女と普段から仲がいい男。そして泣いている彼女がとったのは俺の腕なのだから。
俺は川まで慎也を連れてきた。
「いったい何があったんだ?」
「・・・お前に関係ない。」
やつは俺の目を見ようとはしなかった。
「ふーん。言わないなら別にいいけどあんまり中途半端なことやってるとさ、俺何するかわかんないよ。」
自分でもかなり大胆なこと言ったと思った。修学旅行でもそうだったがあまり争いを好まないのにこういうときについ本音を言ってしまう。
「咲がずーっと泣いてたよ。お前のこと思ってだろうなぁ。」
慎也はずっと足元を見つめている。
「俺は・・・。」
「なんだよ?俺さ、本当に咲のこと好きだった。初めて会ったときからずーっと。だけど2年の秋くらいからお前らつきあい始めてすっげーショックだった。でも咲がお前のこと小学校のころから好きだっていうのは知ってたし、俺が口出せることじゃないっていうのもわかってた。」
「・・・・・・。」
「お前も本当に咲が好きなんだろうなっていうわかったし。周りのやつらは咲のこと『幼い』とか言うけど、咲には人を惹きつける何かがあると思う。かわいいよな?あいつ。一人じゃ何もできない。だから守らなきゃって思う。だけど、俺がいなきゃ何もできないんだって思った途端一人で歩き出したりする。すごいよな。強いんだか弱いんだかわからない。」
「・・・まぁ・・・俺が助けられたことも何度もある・・・。」
「だろうなぁ。ってかあいつの笑った顔見てるだけで疲れててもいやなことあっても楽になるよな。」
「・・・あぁ。」
「ならさ、ちゃんと捕まえておけよ。」
「?!」
「咲が必要なのはお前だよ。あいつは、お前がいなきゃ生きていけないだろ。」
「松沢・・・。」
「俺らもこれからバーベキューやるから。じゃ。」
キャビンに戻ると、すでに俊太郎たちはバーベキューを始めていた。
その中には咲の姿があった。
「おせーよ!悠!」
「おっそーい、松沢ー。」
「悪い、悪い。」
咲、僕は本当に君が好きみたい。
好きすぎて、君の幸せを一番に考えてしまった。
でもこんなことしても、あとから「あんな恋の応援するようなこと言わなきゃよかったー」って思っちゃったりしてる。
バカだよなぁ。
その後、慎也が咲を連れ出しに来た。
何を話してたかはわからないけど、咲の顔は、笑顔だった。
俺の大好きな、花みたいな笑顔。
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