「じゃあ咲は誰が育てるの!?」
「母親のお前が育てるのが常識だろっ!」
父と母の怒鳴り声が今日も私の頭の中で響く。
バカみたいに広い家でバカみたいに何度も同じ言葉を繰り返す。
まだ3歳だったけど、鮮明に覚えていた。
何が原因だかよくわからないけど、早く捨てればいいのに。
そんなに喧嘩し合うなら私なんて捨てればいいのに。
バカみたい。
それから4歳の誕生日を迎える頃には、私は父と新しい母親を迎えていた。
その日、父はめずらしく私の手を自分の手で包んでいた。
『親子の仕草』
だけどうれしかった。母とも父とも手をつないだことなんてことなかったから。
新しい母親に見せるためのショーだとしてもうれしかった。
新しい母親はきれいな人だった。
本当の母もなかなかの美人だったが、新しい母はゆるくかけたパーマが印象的で優しい感じがした。
しかしそれも父の前でだけだった。
父がいない昼間は、私に思いっきり罵声を浴びせ、何十回も殴ったり蹴ったりした。
夜になれば父が帰ってきて、ダイニングテーブルの上では温かな優しい家族の食事会が行われる。
父がいないときの食事は、私にとってないに等しかった。
家の中では毎日私の泣き声と呻き声が響いた。
そのうち近所の住民が私に対する母の暴力を知り、父にそれを話した。
それから父は私を手放した。
大切な娘を暴力から守ろうとするのではなく世間体から。そして一人娘より後妻を選んだ。
国を支える大企業の次期社長の娘を施設に入れるわけにもいかず、自然と本当の母のところに戻された。
7歳。
3年ぶりに再会した母は、前よりもずっとずっと生き生きしていた。父と結婚していた頃は、父に仕事をすることを止められていたため窮屈だったみたいだが、再び仕事を始めてすごく自由だと語った。
母の高級マンションには新しい男が住み着いていた。
メガネがよく似合っていてすごく優しかった。
母とその男はよく私に言っていた。
「今が一番幸せだ。」
母は、父といたとき私にあまり愛情を注がなかった。しかし今は心から愛する男性と共に暮らし、忙しくも男と一緒に私に『一番』の愛をくれた。
幸せだった。
学校から帰れば、男が私に毎日手作りのおやつを作ってくれる。夜になれば母が帰ってきて男の作った手料理を囲む。 夕食が終わったらテレビの前のソファーに私を挟んで腰掛け、たわいもない話と愛の話をする。
だけどこの幸せは私が小学校を卒業する頃に終わった。
母と男が寝室で死んでいた。
麻薬中毒だったと言う。
そして現在、父にお金だけ渡されて母の妹の家に居座っている。
母の妹、司ちゃんは生まれて初めて私に『普通』に接してくれた人だった。
司ちゃんは、母とは10歳違いで現在25歳。まだ若いのにテレビ局で結構重要な仕事を任されたりしている。母に似た強い美しさを持っている。強いのは見た目だけじゃない。 母とは違う、真の強さがある。 けっして人に流されない、だけどすごく心の温かい人だ。
母の火葬のときも涙も流さずただ立ち尽くしてる私をやさしく抱きしめてくれた。 一緒に住み始めてからも私の様子がおかしいとすぐに気づいてくれて、場合によっては無理に聞き出そうとしなかったり黙って話を聞いてくれたりとか。
親ではないから特別な愛もないが、きちんと私を見ていてくれる大切な人。
まぁこういうことがあって私は人と少し違う考えで他人を見るようになった。
そして慎くんと出会った。 小学校のときはかっこいいなって思うくらいを好きって思っていた。 だけど中2になって慎くんがずっと好きだったって告白をしてくれた。
最初はすぐ終わると思ってた。私がそこまで人に気持ちをよせたりしないから。
だけどすごく優しくて、すごく温かくて。
初めて知った。
人を愛するってこと。
私が愛していなくても、何をしていても自然と愛が伝わってくる。
「さみしい」って言えば夜遅くだってわざわざ会いにきてくれる。 友達と遊びに行って帰る時間が遅くなれば心配して迎えに来てくれる。 どんなことがあっても「愛してる」と言ってくれる。
慎くんといると、自分がこの人に一番に愛されているんだっていうのがよくわかった。
だからいなくてはならない人だ。
この人がいなくなったら生きていけないんじゃないかって思う。
大切なんだ。
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