人はどうして人を好きになるんだろう。
そしてどうして僕は叶わないとわかっている恋をあきらめられないんだろう?
神様、僕に南をください。
「悠!」
「・・・なに?」
高めの透き通った声が、昼休みに仮眠をとっていた俺の名前を呼んだ。 普段この大切な時間、誰かに呼ばれてもたいてい寝たままだが、この声に呼ばれたら起きないわけにはいかない。
俺は松沢悠(まつざわゆう)、中3、B型。一応、この学校の生徒会長だったりする。 そして先ほど能天気な声で俺を眠りから覚ましたのが、真中咲(まなかさき)、同じく中3、AB型で俺のクラスメイト。
「あのね!今日、慎くんが一緒に帰ろうって言ってくれたの!!!」
「・・・ふーん。」
大切な仮眠をやめてまで聞いた話が、一番聞きたくない内容・・・。
相沢慎也(あいざわしんや)、咲の恋人だ。 成績はバカ、運動神経は悪くない。野球部のエースをしてるくらいだから。きりっとしてて整った顔立ちが女に人気だった。
このスターの心を射止めたのは、周りのけばい女どもでもなく清潔な美人でもない、平凡なちょっと変わったバカの咲だった。
そして周りが驚くほどに慎也は咲にベタ惚れだった。 俺以外に咲に夢中になるやつがいるなんて思ってもいなかったし、相手が咲の初恋のやつだとも思っていなかった。小学校がちがう俺じゃ、慎也には敵わない。
まして、いまや二人は相思相愛。
俺がどんなに咲を思おうが、もうどうにもできないことだった。
「悠ー!!!!ダメ、飛べない!!」
体育の時間、高飛びが飛べない咲が、50m走をしていた男子のほうにやってきた。たくさんの友達を連れて。
「抜き足が低いんだよ。あとお前はバーにびびりすぎ。」
「お前、ホント真中には優しいよなぁ〜。」
クラスのやつらにいつも言われる。 当たり前だ。 咲だぞ?
だけど俺は決まってこう言うんだ。
「ばーか。なんで俺が咲に優しくしなきゃいけねーんだよ。ただエースのお姫様だから大事にしないと殺されちゃいますから〜。」
もちろんこんなこと心にも思ってないんだ。
エースのお姫様だからじゃない。 召使として、怪我しないように、変な虫がつかないように、お姫様に仕えているだけだ。
王子の命令じゃない。
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