金曜日。 私はこの日が一番嫌い。 仕事が暇になるこの日、女ばかりの職場は当然ムダ話が始まるからだ。 だけならいいのだが必ずといっていいほど私に対するあてつけ、イヤミ、陰口が始まる。 はあーっ。どうして聞こえるように言うんだろ。いい加減うんざりだ。イジメだよなあ。 この日はとくにひどかった。私は言われるようなことをした覚えはないのだが彼女達はずっと「こなきゃいいのに」だの「顏見るだけでムカツク」だの言いたい放題。 夏バテのため体力的に弱っていたこともあり、流すことができなかった私は、精神的にヤバくなった。会社を出たあともその不安定な精神状態は悪化する一方だった。 「死にたい」 「死んじゃいたい」 「生きてたっていいことないし」 「ブスじゃないけど美人じゃないし」 「デブじゃないけどパーフェクトボディじゃないし」 「・・・・・フラれたし」 自殺しよう! リストカットなんて半端な事をして同情を買うのではなく、完璧に死にたい!! 変なところで完璧主義の性格が表れた。
家に帰るとさっそく携帯でアングラ系サイトを片っ端から見る。 しかし・・・。 “確実な自殺方法は首吊り、飛び込み、もしくは凍死” 凍死以外は全部痛そうじゃん!!しかも今、夏だから凍死無理だし!イヤ、待てよ・・・・海外なら・・・・金はない。
・・・・・・・・。 飛び込み(想像中) ビルの屋上。遺書らしきものを脱いだ靴の下に置く。柵を乗り越え下を見る。高い。通行人を下敷きにしないように下に人がいないかを確認。そして飛ぶ。墜ちる感覚。そのあと、ぐしゃー。痛い。つぶれた私の身体。 ・・・・・・・・・。 死ぬ時くらいキレイに死にたい。
・・・・・・・・。 首吊り(想像中) 適当な柱にロープを結び、輪っかを作る。体重をささえられるかチェック。それが終わったら輪っかの中に首を入れ、椅子をける。苦しい。窒息。 こっちのほうがまだマシか。窒息は苦しそうだけど。あれ?なんか書いてある。私は携帯サイトのカキコミを見た。 “首吊りする時は口に布を入れた方がいいよ。舌がうえって出てヒドイ死顔になるから” ・・・・・・・。 死ぬ時くらいキレイに死にたい。
そう!睡眠薬を飲んで眠るように死ぬ!!痛くないし苦しくないし、なによりキレイな死に顔になるじゃない!! しょせん、ヘタレの私は死に方も楽なほうへ流されていくのだった。
携帯で睡眠薬のことを調べ始める。 そういやあ前に最近の睡眠薬は飲み過ぎても死ねないようになってるって聞いたことがあった。 類は友を呼ぶ。私の友達には精神科、心療内科の通院経験を持つ子が多い。今の世の中、精神を病んでる人が多いのも事実ですけど。
携帯での睡眠薬検索はムダに終わった。 使えねえ。今日はもう遅いし、明日パソコンで検索するか。 私は風呂に入ったあと、熟睡した。
土曜日。 たっぷり八時間以上熟睡した人間が睡眠薬のことを躍起になって調べていた。 パソコンでの睡眠薬情報および睡眠薬自殺方法のサイトはかなり量があった。 病院、メンタル系、自殺防止サイトおよび自殺志願者の集会サイト、あと病院通院者の薬サイトなどなど。 やはり、一般に処方される睡眠薬は多量に飲むと吐くように作られているらしい。 やっぱり。どこのどいつだが知らねえが余計なことしやがって。 と、いうことはやっぱり・・・首吊りもしくは飛び込み??イヤイヤ、美しくない、美しくない。 毒というのもあるじゃん!毒を調べようと思ったその時、こんなカキコミが目に入った。 “×××系睡眠薬だったら死ねるよお” ×××系? 私は検索サイトで×××系を入力した。
×××系は現在一般に使用されている系統の睡眠薬の前に使われていたものらしい。安全とされる飲量と危うい飲量の境目が近いことから使われなくなったとか。 製薬会社の努力をネタましく思いながら一つ一つのサイトをチェックしていく。 だが希望を捨てるのはまだ早い。×××系も全く使用されていないわけではないらしい。重度の不眠症患者には処方されているみたい。ふむふむ。そして×××系睡眠薬でもっとも強い薬(持続力が長時間もしくは速効性)の薬名を知る。 △ 、推定致死量7.5グラム。 錠剤一つ約50ミリグラムだから・・・・150個!?
・・・・・・。 150個の錠剤を飲めるのか?飲めたとしても苦しくて死に顔キレイじゃなくなりそうだよな。うーん・・・・・。 実際にこんなカキコミがあった。 “睡眠薬自殺ってキレイなイメージがあるけど実際は多量の薬飲まなきゃいけないから苦しいのは変わりないんだよな” やっぱりな。うーん、どうしよう。
サイトの中には△売ります、1錠500円なんてものもある。500×150=75000。七万五千円、高いよなあ。しかもそんなに金ないし。お金が絡むと理性が働き始める。 しかしこのカキコミを見た時ふたたび理性は眠ってしまった。 “☆のAならアルコール飲んでから1錠飲めばあの世逝き” ☆ のA? 私は検索サイトで☆を入力した。
☆はAとBがありA=赤玉、B=白玉と呼ばれているらしい。白玉二つで赤玉一つの効果があるそうだ。 この赤玉が手に入ればキレイに死ねるかも!? 私の胸は期待にふくらむ。 しかしやはり貴重品(?)らしく△売りますはあるのに☆しかも赤玉売りますはみつからない。しかも医者で処方する事はよっぽどのことがないかぎり皆無だとどこのサイトにも書いてあった。当然といえば当然。医者の処方に頼れないので赤玉販売にしぼり検索することにした。
日曜日。 赤玉販売さがしは続いていた。大量のサイトを見ているにもかかわらず収穫はゼロ。 ちっ!ボランティア感覚で薬売りますってムカツク。本当にボランティアしたいならいい病院紹介しろってーの!結局金がほしいだけだろ!しかも確実に死ねる薬は売らない。小心者どもめ!! 方法はわかっているのに薬が手に入らないことへのイラだち。私の精神は浮上と消沈を繰り返した後、ついにイラだち始めた。 そして某サイトのチャット記録を読んで私のイラだちはあきらめに変わった。 “赤玉とアルコール飲んで死んだ人ってたしかにいたけど死ねなかった人のほうが多かったんだよね” え?死ねない? 私は冷静になってきた。 “△も200錠くらい飲めば死ねるかもしれないけど確実ではないらしいし” エ?そうなの?150超えてるのに? “これって体質の問題だから少量飲んで死ねるやつもいれば多量に飲んでも死ねないやつもいるって事だよ” つまり・・・・。 自殺(や)ってみないとわからない!!まさにギャンブルってコトォ!? がっかり・・・・。 自殺でギャンブルって・・・・。そんなのイヤだあああああ!!! 万が一死ねなかったら? タエラレマセン、私には!!
はあー、2日間なにやってたんだろ、私。疲れただけだ・・・・。
ちなみにこんな事も書かれていた。 “完○自殺マニュアルって本あったけどあれは死ねないよ。何人も未遂者がでたって有名だもーん。あの本のタイトルはまちがい。本当のタイトルは完○自殺未遂マニュアルでーす(笑)” “△売りますってよくあるけどこれ本物に出会う確率半分もないらしい。病院行くほうが△に出会う確率高いらしいもん(笑)” なんかこういうの見ると体の力抜ける。 そのあとばかばかしくなって一人で笑ってしまった。
お腹すいたな。そういやあ金曜の夜から何も食べてないや。 私は支度して外へ出た。
日曜日の夕方。 スーパーは家族連れの買い物客でにぎわっていた。 その様子を見て母の言葉を思い出した。 「こうやって楽しそうに買い物している人たちを見ると楽しそうでいいなって思うけど。この中で本当に悩みも問題も抱えてない人なんていないんじゃないかな」 そうなのだ。 私だけじゃない。 どの人も何かを抱えながら生きている。 「美人じゃないけどブスじゃないし」 「パーフェクトボディじゃないけどデブじゃないし」 「彼氏できるかな・・・」 私はようやく理性を取り戻した。
帰り道、宝くじ販売所の前を通った。 自殺=ギャンブル。 なんとなく、スクラッチを買ってしまった。10枚入り二千円なり。 家に帰って10枚一気にけずった。 結果は8枚スカ、2枚が4等の100円。つまりハズレ。1800円の大損。 そういえばくじ運は昔から悪かった。 あのまま突っ走っていたら大枚はたいて買った偽物の薬で自殺は未遂に終わっていたことだろう。まさに生き恥さらし!! あぶないところだった。ふうー。
明日からまた仕事かあ。 ・・・・・・・・。 ユウウツ。 だけど生きるしかないのだ!!
オワリ
注意:自殺方法およびに薬の情報はサイトに載っていたものをそのまま書きました。しかしその情報は信憑性が低いため参考にはなりません。 お願い:これを読んで私に共感してくださった方、もしくは情報の間違いの指摘など(これはメールでお願いします)御意見、御感想、待ってます。 薬名、情報はサイトを少し調べればわかります。申し訳ありませんが私に聞かれても答えられません。
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