『何やってる! 逃げろって! こいつは、オレが潰すから!』 幽霊同士の戦いというのは、実に地味なモノだ。 お互いが放射する思念のぶつけあい。 巨大な悪霊を相手に、サトルは一歩も引かずに戦いを挑んでいる。 でも……。 思念の大きさの差は、明白だ。 サトルは思念を飛ばされ……その存在をさらに、薄くした。 ああ、そうか。 私の中で、一連のことが一つに繋がる。 この数週間、私を襲っていた肩こりや倦怠感は、あの悪霊のせいだった。 そこにサトルがやってきて、悪霊と私の間に入り、私の魂が吸われる防いでくれていた。 その代わり、彼は少しずつ、少しずつ、存在を削られていっていたのだ。 それに追い打ちをかけるように、私は毎日毎日ぺちぺちぺちぺち……。 申し訳なさと、自分への苛立ちがつのる。 『早く逃げろよ!』 いつもはちゃらんぽらんのスットコドッコイなくせに。 どうして、こんなときだけかっこつけるのよ。 「ばか! そんなことで助けてもらっても、嬉しくないわよ!」 私は、ペンケースから消しゴムを取りだし、悪霊に向かって投げた。 バチバチバチっ! 放電したように火花が散り、悪霊は明らかに苦しんでいる。 GYUAAAAAAAAA!!! 形容しがたい悲鳴をあげ、悪霊はサトルを排除することをやめ、私に向かってやってきた。 『わ! バカ!』 サトルにだけは、バカって言われたくない! 私は、鞄の中にあるモノを手当たり次第、投げた。 教科書も、ノートも。定規も、予備のシャーペンも、蛍光マーカーも。 どれもが、悪霊を傷つける。 私の目の前に来たときには、最初の半分くらいのサイズになっていた。 それでも……サトルより、圧倒的な存在感をもっている。 私に残されたのは、一番のお気に入りの、シャーペンだけ。 テストのときは必ずこれを使うってくらい、私はこのシャーペンを気に入っている。 これを使えばいい結果が出せる。もう、ジンクスといっていいくらいに。 神頼みはばからしいと思っているけれど、このジンクスだけはずっと、信じて守ってきた。 「あんたなんかに……食われていいほど、私の将来は安っぽくないのよ!」 しっかり握ったシャーペンで、悪霊を突き刺す。 GUYYYYYYYYY!!!!!! 鼓膜が破れそうな、悪霊の悲鳴。 でも。 シャーペンでの攻撃に存在を散らせながらも、悪霊は、消えない。 失ったぶんを取り戻そうというのか、悪霊が私にのしかかり…… 『させるかぁ!!』 サトルが、全身全霊を悪霊にぶつけた。 二体の幽霊が、思念をまき散らす。 それはいつ果てるともなく続くかと思ったけれど…… 最後に、薄く薄くなった、サトルだけが残った。
「よかった……よかったよぅ」 心底、そう思う。 『真智……無事か。 これで……安心して…………』 これで、安心して?? 不吉なことを言わないで! 「ちょっと待ってよ! 勝ったんでしょ! 消えたりなんて、しないわよねっ?」 『………………』 サトルは答えない。 嘘……でしょ。 ようやく、幽霊がいてもいいかなって、思えるようになったんだよ? それなのに……。 『最期に……』 「え? なに? どうしたの、サトル?」 私は、彼の言葉をよく聞こうと、顔を近づけた。 『お風呂、覗かせてほしいな……』 プチ 私は、どこかで何かが切れる音を聞いた、気がした。 『わ〜! 待て待て! 冗談! 冗談だよ〜!』 その消えかけで冗談が言えるなんて、たいしたものねえ(怒) サトルは息も絶え絶えだったとは思えない様子で、ずりずりと後ずさっている。 『ちょっとした、お茶目なジョーク! だから、凶器を振りかざすのはやめ〜!!』 「うるさい! 成仏させてあげるからおとなしくそこへ直れ!」 『それ、成仏じゃなくて存在抹消〜! つーか本気でとどめ刺す気ぃ?』 「本気よ! だから逃げるな!」 私は、かなり本気でサトルを追いかけた。
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