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ゴーストの法則! 作者:黒木美夜

第7回   やらせない!
『何やってる! 逃げろって!
 こいつは、オレが潰すから!』
 幽霊同士の戦いというのは、実に地味なモノだ。
 お互いが放射する思念のぶつけあい。
 巨大な悪霊を相手に、サトルは一歩も引かずに戦いを挑んでいる。
 でも……。
 思念の大きさの差は、明白だ。
 サトルは思念を飛ばされ……その存在をさらに、薄くした。
 ああ、そうか。
 私の中で、一連のことが一つに繋がる。
 この数週間、私を襲っていた肩こりや倦怠感は、あの悪霊のせいだった。
 そこにサトルがやってきて、悪霊と私の間に入り、私の魂が吸われる防いでくれていた。
 その代わり、彼は少しずつ、少しずつ、存在を削られていっていたのだ。
 それに追い打ちをかけるように、私は毎日毎日ぺちぺちぺちぺち……。
 申し訳なさと、自分への苛立ちがつのる。
『早く逃げろよ!』
 いつもはちゃらんぽらんのスットコドッコイなくせに。
 どうして、こんなときだけかっこつけるのよ。
「ばか! そんなことで助けてもらっても、嬉しくないわよ!」
 私は、ペンケースから消しゴムを取りだし、悪霊に向かって投げた。
 バチバチバチっ!
 放電したように火花が散り、悪霊は明らかに苦しんでいる。
 GYUAAAAAAAAA!!!
 形容しがたい悲鳴をあげ、悪霊はサトルを排除することをやめ、私に向かってやってきた。
『わ! バカ!』
 サトルにだけは、バカって言われたくない!
 私は、鞄の中にあるモノを手当たり次第、投げた。
 教科書も、ノートも。定規も、予備のシャーペンも、蛍光マーカーも。
 どれもが、悪霊を傷つける。
 私の目の前に来たときには、最初の半分くらいのサイズになっていた。
 それでも……サトルより、圧倒的な存在感をもっている。
 私に残されたのは、一番のお気に入りの、シャーペンだけ。
 テストのときは必ずこれを使うってくらい、私はこのシャーペンを気に入っている。
 これを使えばいい結果が出せる。もう、ジンクスといっていいくらいに。
 神頼みはばからしいと思っているけれど、このジンクスだけはずっと、信じて守ってきた。
「あんたなんかに……食われていいほど、私の将来は安っぽくないのよ!」
 しっかり握ったシャーペンで、悪霊を突き刺す。
 GUYYYYYYYYY!!!!!!
 鼓膜が破れそうな、悪霊の悲鳴。
 でも。
 シャーペンでの攻撃に存在を散らせながらも、悪霊は、消えない。
 失ったぶんを取り戻そうというのか、悪霊が私にのしかかり……
『させるかぁ!!』
 サトルが、全身全霊を悪霊にぶつけた。
 二体の幽霊が、思念をまき散らす。
 それはいつ果てるともなく続くかと思ったけれど……
 最後に、薄く薄くなった、サトルだけが残った。

「よかった……よかったよぅ」
 心底、そう思う。
『真智……無事か。
 これで……安心して…………』
 これで、安心して?? 不吉なことを言わないで!
「ちょっと待ってよ! 勝ったんでしょ!
 消えたりなんて、しないわよねっ?」
『………………』
 サトルは答えない。
 嘘……でしょ。
 ようやく、幽霊がいてもいいかなって、思えるようになったんだよ?
 それなのに……。
『最期に……』
「え? なに? どうしたの、サトル?」
 私は、彼の言葉をよく聞こうと、顔を近づけた。
『お風呂、覗かせてほしいな……』
 プチ
 私は、どこかで何かが切れる音を聞いた、気がした。
『わ〜! 待て待て! 冗談! 冗談だよ〜!』
 その消えかけで冗談が言えるなんて、たいしたものねえ(怒)
 サトルは息も絶え絶えだったとは思えない様子で、ずりずりと後ずさっている。
『ちょっとした、お茶目なジョーク! だから、凶器を振りかざすのはやめ〜!!』
「うるさい! 成仏させてあげるからおとなしくそこへ直れ!」
『それ、成仏じゃなくて存在抹消〜!
 つーか本気でとどめ刺す気ぃ?』
「本気よ! だから逃げるな!」
 私は、かなり本気でサトルを追いかけた。

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Novel Editor