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ゴーストの法則! 作者:黒木美夜

第4回   納得できない!
 <証拠の不在は不在の証拠ではない>
 確か、UFOを信じる人たちの科白だったと思う。
 まあ、一理はあるわよね。二理以上のモノがあるとも思えないけど。
 もちろん、私はUFOなんて信じない。とはいえ、信じる人たちにまでとやかくいうほど、野暮でもないつもりだ。信じる、信じないは自由だもんね。
 でもま、個人的には、この科学の世の中、実在するなら怪しげな写真や目撃情報以外にも証拠はあるでしょ〜っていうのが持論。
 宇宙人がこっそり地球にやってきて、何をするんだ、っていう疑問もあるし。
 これって、そっくりそのまま幽霊にも当てはまるよね。
 幽霊の存在も、UFOと同じように、私は信じていなかった。
 でも……。
 さすがに、目の前に現れられると、信じざるを得ないじゃない?
 それでも信じないと言い張るなら、自分の正気を疑わなきゃならなくなるし。
 信じたところで、科学的証拠を提出できないあたりが、最初の言葉に二理以上のモノを認めるようで、なんだか悔しい。

 ともかく、私が今見ているモノを、誰かに話したところで信じてはもらえないだろう。
 目の前に幽霊がいて、私はそれと普通に会話してる。
 漫画でそんな話が流行ったらしいけど、漫画は漫画。現実の話じゃない。
 学校の昼休み、人のいない特別教室に潜り込んで秘密の話……まぁなんとも、ありふれた日常の光景だ。話し相手が、幽霊でなかったなら。
 今それが、目の前で起こっているなんて……ナンセンスだ。
 しかも、数珠や十字架や念仏は平気で、文房具で叩くと痛がるんだから……。
『オレが思うにさ』
 その幽霊はしたり顔で語り始めた。
『……真智ってさ、勉強第一じゃない? それこそ、信仰してるんじゃないかってくらいに』
 ……その言われ方はなんだかむかつくけど、否定はできないわね。
『だから、勉強に使う道具に、思念の力が溜まってるんじゃないかと』
「じゃあ、なに? シャーペンや消しゴムに、数珠みたいな力が宿ってるっていうわけ?」
 ……ますます、ナンセンスだわ。
『でないと、説明がつかないし。
 まさしく、数珠で叩かれたときなみの痛さで……たあっ!』
 私は試しに、さっきとは違うシャ−ペンで突いてみた。
 さっきほどじゃないけど、痛そうね。
 じゃあ、次は定規……。
『ちょっと待て!』
 ごそごそとペンケースを探る私を、サトルは止めた。
「なによ?」
『何よ? じゃないよ! 何するつもりだよ!』
「決まってるじゃない。どれが一番効くか、試してるの」
『………………』
 一瞬、サトルは怯えた顔で私を見つめ……
 半歩下がった。
『ちょ……ちょっと待てよ。冗談だろ? マジで痛いんだぞ? それに、そんなもので殴られすぎたら、幽霊だって消えるんだぞ? 消えたら二度と……』
 サトルは、私の表情を見て、黙り込んだ。
 きっと、凄惨な笑顔だったに違いない。
「へ〜え、いいこと聞いた」
『ま……真智、ちょっと待っ……』
 ぺちぺちぺちぺち
 30センチ定規で、ひたすら叩く。
『やめ、やめ、やめってば!』
 サトルは頭を抱えていやがるが、さすがに消滅する様子はない。
 まぁ、文房具っていっても定規だしねえ。数学で、グラフや図形を書くときしか使わないし。そんなに、<念の力>とやらも溜まってないだろう。
「あ〜、ちょっとはスッキリした」
 十回くらい叩いて、私は叩くのをやめた。
 さすがに、存在抹消まで叩くのは、後味が悪いもんね。
『ひ……ひでぇ』
「ひといのはどっちよ? 勝手に人にとり憑いて。私の穏やかな生活を乱した罰くらい、受けなさい」
 うん、定規はそれほど威力がないし、ハリセン代わりに使えるな。
『……オニ』
「前言撤回、やっぱり消え失せろっ!」
 どうやら、よく使うものほど威力が高いらしい。
 私は一番の愛用シャーペンを振りかざした。
『うわあ! 待て待て! 心優しい真智様、どうかご厚情を〜!!!』
 サトルは床に這いつくばって許しを請うている。
 ……プライドの低い奴。
「まあいいわ。今後、私の気に障ることしたら、これでひっぱたくからね!」
 私は、定規を振りながら宣言した。

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Novel Editor