<証拠の不在は不在の証拠ではない> 確か、UFOを信じる人たちの科白だったと思う。 まあ、一理はあるわよね。二理以上のモノがあるとも思えないけど。 もちろん、私はUFOなんて信じない。とはいえ、信じる人たちにまでとやかくいうほど、野暮でもないつもりだ。信じる、信じないは自由だもんね。 でもま、個人的には、この科学の世の中、実在するなら怪しげな写真や目撃情報以外にも証拠はあるでしょ〜っていうのが持論。 宇宙人がこっそり地球にやってきて、何をするんだ、っていう疑問もあるし。 これって、そっくりそのまま幽霊にも当てはまるよね。 幽霊の存在も、UFOと同じように、私は信じていなかった。 でも……。 さすがに、目の前に現れられると、信じざるを得ないじゃない? それでも信じないと言い張るなら、自分の正気を疑わなきゃならなくなるし。 信じたところで、科学的証拠を提出できないあたりが、最初の言葉に二理以上のモノを認めるようで、なんだか悔しい。
ともかく、私が今見ているモノを、誰かに話したところで信じてはもらえないだろう。 目の前に幽霊がいて、私はそれと普通に会話してる。 漫画でそんな話が流行ったらしいけど、漫画は漫画。現実の話じゃない。 学校の昼休み、人のいない特別教室に潜り込んで秘密の話……まぁなんとも、ありふれた日常の光景だ。話し相手が、幽霊でなかったなら。 今それが、目の前で起こっているなんて……ナンセンスだ。 しかも、数珠や十字架や念仏は平気で、文房具で叩くと痛がるんだから……。 『オレが思うにさ』 その幽霊はしたり顔で語り始めた。 『……真智ってさ、勉強第一じゃない? それこそ、信仰してるんじゃないかってくらいに』 ……その言われ方はなんだかむかつくけど、否定はできないわね。 『だから、勉強に使う道具に、思念の力が溜まってるんじゃないかと』 「じゃあ、なに? シャーペンや消しゴムに、数珠みたいな力が宿ってるっていうわけ?」 ……ますます、ナンセンスだわ。 『でないと、説明がつかないし。 まさしく、数珠で叩かれたときなみの痛さで……たあっ!』 私は試しに、さっきとは違うシャ−ペンで突いてみた。 さっきほどじゃないけど、痛そうね。 じゃあ、次は定規……。 『ちょっと待て!』 ごそごそとペンケースを探る私を、サトルは止めた。 「なによ?」 『何よ? じゃないよ! 何するつもりだよ!』 「決まってるじゃない。どれが一番効くか、試してるの」 『………………』 一瞬、サトルは怯えた顔で私を見つめ…… 半歩下がった。 『ちょ……ちょっと待てよ。冗談だろ? マジで痛いんだぞ? それに、そんなもので殴られすぎたら、幽霊だって消えるんだぞ? 消えたら二度と……』 サトルは、私の表情を見て、黙り込んだ。 きっと、凄惨な笑顔だったに違いない。 「へ〜え、いいこと聞いた」 『ま……真智、ちょっと待っ……』 ぺちぺちぺちぺち 30センチ定規で、ひたすら叩く。 『やめ、やめ、やめってば!』 サトルは頭を抱えていやがるが、さすがに消滅する様子はない。 まぁ、文房具っていっても定規だしねえ。数学で、グラフや図形を書くときしか使わないし。そんなに、<念の力>とやらも溜まってないだろう。 「あ〜、ちょっとはスッキリした」 十回くらい叩いて、私は叩くのをやめた。 さすがに、存在抹消まで叩くのは、後味が悪いもんね。 『ひ……ひでぇ』 「ひといのはどっちよ? 勝手に人にとり憑いて。私の穏やかな生活を乱した罰くらい、受けなさい」 うん、定規はそれほど威力がないし、ハリセン代わりに使えるな。 『……オニ』 「前言撤回、やっぱり消え失せろっ!」 どうやら、よく使うものほど威力が高いらしい。 私は一番の愛用シャーペンを振りかざした。 『うわあ! 待て待て! 心優しい真智様、どうかご厚情を〜!!!』 サトルは床に這いつくばって許しを請うている。 ……プライドの低い奴。 「まあいいわ。今後、私の気に障ることしたら、これでひっぱたくからね!」 私は、定規を振りながら宣言した。
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