「大丈夫?」 目が覚めると、心配そうな顔の友達と、担任の先生がいた。 「ああ……、うん」 クラクラする頭を抑えつつ身体を起こすと、真っ白なシーツがはらりとめくれた。 「ここは……保健室?」 「そうだよ〜」 「もう、真智ってば、気絶するほど怖かったの?」 「なっ! 違っ……!」 真っ赤になって否定しても、説得力なんてまるでないやね、これじゃ。 「あたしたちが逃げても真智がこないから、探しに戻ったら、あの場所で倒れてたんだよ。怖くなかったなんてわけ、ないない」 う……判ってます、怖かったけど、怖かったなんて言える性格じゃないことは、君たちもよく知ってるはずでしょ。だからそんなにいじめないで……って、あれ? 「あの場所? あの、顔を見た、あそこ?」 「そうだよ。ただ……あそこのクラスの人、あそこには何もなかったはずだけどって言ってた。そんなことないよねえ。あれが一番怖かったもん」 「………………」 そんなはずない。 あの顔を見て、私はかなり走った……はず。 それに、あの半透明の男の子は……。 「!」 いる! いるじゃないのよ! みんなに混じってちゃっかりと! でもってやっぱり透けてるよう〜。 「あ、大丈夫? 顔が真っ青!」 「もうちょっと寝てなよ。あたしら、ホームルームと撤収があるから行かなきゃいけないけど」 ちょっと待って〜。 私をおいていかないで〜。 心の中では必死にそう願いながら、口に出せない自分の性格が恨めしい。 私の救いを求める視線に気づかず、みんなは去っていった……。 そりゃあ、無理ないよね。大掛かりなぶん、片づけには時間かかるし、明日は普通に授業があるし。 『やあ。大丈夫?』 そう! 明日は授業があるのよ! 大森先生の英語があるじゃないか! あの人は帰国子女で、英語の発音が抜群だから……。 『きみ、マチって名前なんだろ? 可愛い名前だなっ!』 そうそう、数学の予習もしておかないと。木原先生はいきなり問題解かせることがあるから油断できないのよね。 『オレはサトルっていうんだけど……』 それから、明日は何があったっけ……。 『ねえ、聞いてる?』 聞いてない、聞いてない。 私は何も聞いてないったら、ないんだい!(幼児化) 『人の話無視しちゃいけないって、教わらなかった?』 向こうの壁が透けて見えるなんて、人じゃないから無視していいの。 『ねえ、マチちゃんってば〜』 「うるさい、ちゃんづけで呼ぶなっ!」 初対面の奴に馴れ馴れしく呼ばれたくないっ! …………って、あ……(汗) 『やっと、返事してくれたv 全然相手にしてくれないんだもん。ひょっとして、見えてないのかと思っちゃった』 「……………………」 へらへら笑う半透明の男(幽霊だなんて、認めたくない!)の姿に、私はぷるぷると拳を震わせた。 『まあ、そういうイケズなところも可愛いけど』 「あ、あんたねえ! 初対面の相手に失礼だと思わないの! だいたい、誰のせいでこんな目に遭ってると思ってるのよ! お化け屋敷で倒れたなんてみっともない!」 もう頭に来て、無視するなんてできない! 思いっきり、怒りをぶつけてやらなきゃ気がすまない! 『そんなに、みっともないかなぁ……』 「みっともないし、情けないわよ! ってゆーか、保健室までついてきてどういうつもり? 用がないならとっとと私の前から消えてちょうだい! そして、二度と現れないで!」 『……ってか、離れるのは無理なんだけどなあ』 「……は?」 私は、我が耳を疑った。 『だって、もうツいちゃったし』 ツいた……? って、なに……??? 『取り憑いたってことだよ。あ〜、別に身体をのっとったりしないから、安心して?』 「安心できるか〜!!!」 ぜいはあ、ぜいはあ。 運動もしてないのに荒くなった息を整えて、私はもう一度半透明の男……サトルって名前だっけ? を睨みつけた。 だけどそいつは私の視線をそよ風みたいに受け流して、相も変わらずにこにこと笑ってる。 『と、いうわけで、これからヨロシク〜』 にっこりと宣言されて、私はがっくりと項垂れた。
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