ここまでお付き合いくださった皆様、ありがとうございます。 うっかり「最終回」を押し忘れたので、後書きを書いてみようかな、と思いまして。よろしければもうしばしお付き合いください。別に読まなくてもなんら問題ありませんので、飛ばしていただいても大丈夫です。 もし、このあとがきから目を通される方がいらっしゃいましたら、ネタバレなどもございますのでご了承ください。
*** キャラクター ***
タスク 主人公なのにちょっと影が薄い気がしないでもないタスク。カズトやミオという特殊設定持ちに、普通の少年少女として接するさまを書いていきたかった。なので「すげえいいヤツ」なだけで、他の設定は軽めです。それは、ユイナも同じですね。 タスクに漢字を当てると「輔」。助けるという意味です。この「助ける」という意味を持つ漢字はとてもたくさんあります。 「助(力を貸す)」「介(仲立ちをする)」「佐・佑(脇から支える)」「侑(かばい助ける)」「援(急場を助ける)」「資(金品を用立て助ける)」……などなど。 で、「輔」の字は側に寄りそって力を添える、という意味になります。カズトやミオという、特異な環境にある人物を支えられるキャラになれば、という願いでこの名をつけました。 作中でのカミの「穢れよりの守り」は、傷つけられないようかばう、という意味の「翼(たすける)」です。 それとは対照的な意味で人を「輔」ける男になって欲しいな〜と思ってるんですが、難しいものですね。
ユイナ 漢字で書くと「結声」。少々かわいげのない名前になってしまいます(笑) 彼女の名は、友達のいないカズトとミオを自分の知り合いと引き合わせる(作中の歓迎会)、ミオの声をカミに届ける手助けをする、という役割からつけています。 風の、声を運び人と人(ときにはカミ)との間を取り持つ作用。その恩恵を崇め、実践する少女ですね。 タスクとは近所同士の幼なじみ。同い年ですが、礼儀作法がなってないタスクの、自分は姉貴分だと思っていることでしょう。逆にタスクは自分が兄貴分だと思っていそうですが。
ミオ 漢字では「澪」。水緒(水の魂という意味になるでしょうか)の字でもいいな〜なんて思います。彼女の本来の役割は魂の澪標。タマユラヒメが放ったイズタカが、その役目を終えたとき、その霊魂を根の国に送り返すのが彼女の仕事なわけです。 けれどそれ以外の自分の意味を見いだしたミオには、水緒でもいいな、と思ったり。 ミオは五歳のときに海で溺れ、死ぬ寸前のところをタマユラヒメに助けられました。それ以来能力が開花します。もちろんそんな事故などなくても、いずれ彼女は巫として目覚めていたでしょう。その場合、躓くことなく、最初から最後までエリートコースだったはずです。 作中のミオは幼い頃見た滅びの幻影に怯え、カミに対して心を閉ざしたことを悔いてます。五歳なのだから仕方なかったという考えができない娘ですね。 真面目すぎるから思いつめて、さらに自分を苦しいところに追い込んでいく。本当は天才肌なのに、性格のせいで空転し、うまくいかない。とても不器用な人間ですが、これからは軌道に乗った人生を歩んでくれると思います。
カズト 字は「和人」。皇族だった頃は「和尊」ですね。 彼はイズタカをはじめとする恨霊を「和ませる」ものとして位置づけました。霊魂の恨みをなだめ、鎮めるもの。 だから最初にイズタカの恨みを背負ってスメラとなり、最終的には審神者として恨霊を鎮める役目を背負うことになります。 彼自身、表面は穏やかにしていますが、内面では結構ドロドロしたものを抱えています。その内面がイズタカと共鳴してしまったんですね。 イズタカの思想を理解し、イズタカの恨みに共感してスメラになった。けれどカズトはずっと悩んでいました。自分のしていることは本当に正しいのか。手段は正しくない。ならば、目的も本当に正しいのか? そんな頃に出会って、仲良くしてくれたタスクたちに、カズトは答えを求めようとします。タスクたちの目の前に現れるのは彼等の理解を得たいため。けれど戦ってしまうのは、誰の理解も得られないという、頑なになってしまったイズタカの怨念に引きずられてのこと。二人分の思惑で動いているスメラは、行動がちぐはぐになりやすいのです。
イズタカ 漢字は「稜尊」。稜威という言葉があって、「神霊の際だった威光」の意味です。本来尊皇につくべき人物で、平伏さずにはいられない圧倒的な威厳の主。そういう意味を込めています。 たまたまこのクニの歴代の尊皇とは異なる考えを持ったため、危険視されて東宮位を廃された。けれどどうしても未来を犠牲に今を生きることを良しとできず、乱を起こし、不遇の最期を遂げました。 それでも納得がいかず、再起を狙って自分の血を引く女性が皇宮にあがれるよう、幽霊にできる範囲で糸を引きました。そうして生まれたのがカズトなのです。 本来は民を思っての行動なので、カミとして祀られれば、よいカミとなるでしょう。
クレハ/モミジ 漢字はまんま、「紅葉」です。 現実世界にいたと伝えられる鬼女にも、「紅葉」と呼ばれた人がいましたが、特につながりはありません。文中にも書きましたが、常緑の榊に対して紅葉なだけです。もちろん、紅葉の木に穢れを招く作用など本来はありません。 姿を変えられるオニの一族なので、カモフラージュのために二つの姿を使い分けています。口調などが違うのもそのため。性格は若干違いますが、基本は同じです。 オニには誰かに従うという概念はもともとありませんでしたが、イズタカの強烈なカリスマに魅せられ、スメラの補佐役となりました。個の概念がなかったオニの中で、イズタカの影響でいちはやく個の概念を取り入れ、一族の中で一番強烈な個性を身につけたのも彼女です。
タマユラヒメノカミ 「玉響姫神」……では実はなくて、「玉由良姫神」です。この女神が生まれたのが「由良」という町という裏設定があります。現実世界でも、昔淡路島に由良という港町がありました。「由良の戸」という枕詞にもなっています。あとは、波に揺られる「ゆらゆら」という擬音からきたイメージですね。 クニの破滅がありうることを憂いていて、それの回避を望むイズタカの声に応えました。ヒトの願いなしには、この世界のカミは動きづらいのです。最後は、出張ってきましたが(笑) 人格が薄れつつあるという設定なので、口調に個性をなくしたんですが、カミらしさも一緒にどっかに消えてってしまった感が……。難しいものですね。
*** 世界 *** 役職名(祝・禰宜)などは神道のものを借りてますが、概念的にはまったく異なるものになってます。 四大社の概念を作ったのは判りやすくするためですね。宗教団体と治安維持(警察と軍隊)が一緒になったようなものです。他の神社は穀霊なら宗教団体+農協、職能神なら宗教団体+職業組合みたいなものでしょう。 祓えが禰宜以上、とかいうのも、RPGのレベルアップの概念に近いものにするためです。
東南アジアなどに行って、コレラにかかってしまうのは、だいたい日本人らしいですね。普段が清潔すぎるから、ウィルスに対する耐性がない。それと穢れを一緒にみなすのはどうかと自分でも思いますが、カミの過保護に慣れ、穢れに弱いヒトは、現代日本人をイメージしたものだったりはします。 作品の最後に行われ始めた「恨霊の祀り」は現実世界の御霊会(ごりょうえ/みたまえ)をイメージしたものです。
もちろん、カミの名前はオリジナルですので、あしからず。(でも、八百万もいる日本のカミの中には同名の神格がいてもおかしくないかも) 祝詞は実際にあるものをそのまま使いました。「天地一切清浄祓」が、使ってあそこまで驚愕されるほどのものではなかったりしますけれど。ちなみにこの祝詞の中には中国の思想の影響が見られますが……この世界には大陸なんて存在しないのに、どこから「七曜九曜二十八宿」なんて出てきたんでしょうね(苦笑)
*** 裏話 *** 実は昔、この話の原型を考えたときは、女の子五人パーティでした(笑) 主人公はタスク+ユイナな女の子、ミオは「実は天才」設定なしでほぼそのまま。腹黒占い師がいたり、身分を隠した天然ボケ皇女がいたりとあり得ない感じなパーティでした。パーティリーダーはオニの血を引くことを隠すお色気美人、クレハだったりします。 でも、敵陣営にも少女バージョンクレハな女の子がいたりするんですね。 イズタカは皇族出身ではなく、カズトに憑いてもいませんでした。水神に仕える神官を装う、幽霊でした。 カズトはやはり皇子でしたが、第三皇子で皇位継承権をもっていたり、もう少し武闘派な容姿と性格だったりと、今とだいぶ違います。 ここまで整理統合させたのは、人数多すぎて収集がつかなくなりそうだったからと、メイン八人中男が二人(うち一人は幽霊)だけってどうよ? と思ったからですね。
最後に。 今まで自分の書いたものに対して、これだけ語ったことはないので、今すごい恥ずかしいです(汗)小説の文章とはまた違うので、さらに文章が拙くなってる気がしないでもなかったり(苦笑) ここまでお付き合いくださった方には、本当に感謝感謝でございます。 それでは、また。
黒木美夜 拝
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