ガッ! ギャリリリリ、と金属が擦れあう耳障りな音が響く。 刀が槍の穂先を弾き、間合いを詰める。 リーチがある分、逆に刀の間合いに入られると槍には不利だ。 槍使いの少年は床を蹴り、距離を取る。 刀を持った方は、体制を整える隙を与えないとばかりに、低い姿勢で迫る。 槍には対処しにくい攻撃だったが、咄嗟に槍を立てて凌ぐ。 刀を弾くように槍を回転させ、そのまま相手の腹を狙った。 刀使いはその場に伏せてその攻撃をかわし、そのままゴロゴロと転がって、少し離れた場所に立ち上がった。 この二人が使っているのは、試合用に刃を潰した武器だが、その心意気はまさしく真剣勝負であった。
かぶった面頬の中で、自分の呼吸が荒く響く。 ずいぶん耳障りなものだと、タスクは頭の片隅でそんなことを考えた。 普段の試合ならば観客の声援でさほど気にならないのだが、今回は神前試合。人間の観戦者ももちろんいるが、派手な応援は禁じられている。 先ほどから聞こえるのは、自分の荒い息と、武器のぶつかり合うメタリックな響きだけ。 槍を握る手は革の手袋に覆われているためか、汗ばんで少々気持ちが悪い。 いつもより冷静に自分や周囲の状況を観察している自分に気づいて、タスクは少し意外な気がした。 この試合、それほどの余裕が自分にあるとは思えなかったからだ。 「…………」 刺すような視線を感じる。 刀使いの少年の、面頬の奥から鋭い瞳がこちらを見ていた。 試合開始前にちらと見た相手は、柔和な顔つきの線の細い少年だった。けれど対戦してみると、ずいぶん印象が違う。攻撃の鋭さ、力の強さ、こちらの隙を見落とさない抜け目のなさ。 そしてこちらを威圧するかのような、鋭い視線。 まさしく人は見かけによらないものだと思う。 たしか、カズトという名だったか。 数呼吸程度の時間だが、動きを止めていたせいか、少しだが呼吸が整う。 カズトも休憩は終わりだと告げるためか、改めて刀を構える。 どこから攻めるか、そんなことを考えるひまも与えられず、刀が迫る。 キンキンキン! 数度軽く刃が触れあう。 相手は、こちらの懐に飛び込む隙を窺っているはず。 キィン! 槍の穂先がわずかにぶれたのを見逃さず、刀が槍をはね除ける。 「!」 穂先が横に流れる。 刀がタスクの腹に迫る。 「くっ!」 弾かれた勢いを利用して、タスクは槍を回転させ、石突きで対戦相手の胸を撃った。 「っ!!」 タスクに比べるとやや華奢な身体が吹き飛んだ。 チャンスとばかりに、タスクは構えなおした槍でカズトの首を狙った。穂先で正確に相手の急所を捉えれば、彼の勝ち。 「かっはっ!」 肺に受けた衝撃で咳きこんでいた少年は、タスクの行動を見て、慌てて体勢を整えようとするが、間に合わない。 「もらったっ!」 もちろん寸止めするつもりで、槍を振り下ろす。 タスクは、自分の勝利を確信していた。 だが。 「あれ?」 かくん。 カズトが咄嗟に繰りだしたらしい脚に足下をすくわれる。タスクは少々みっともない格好で転んでしまった。 尻が痛い。 「!」 その首筋に、ヒンヤリとしたものが押しあてられた。 「勝負有り! ミナギリ・カズト!」 審判の宣言に、観客席から遠慮がちな歓声と落胆の声があがった。
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