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Fantasy@Earth 作者:黒木美夜

最終回   生きるべき場所
「いろいろと、迷惑かけたな」
 外では朝日が顔を出していた。
「いや……。
 そうだ、また連絡くれよ。そうしたら、今回のことは根に持たないでおく」
 笑う隆を見て、何がおかしいのか判らずに、美星はただきょとんとしている。冗談といったようなものとは、やはり縁遠い娘である。
「そうだ、特別に記憶は消さずにおいてやるが、今回のこととか、オレたちのこととか、他人に喋んじゃねえぞ。騒ぎになっから」
「安心しろよ。こんなこと、誰も信じやしないって。幽霊やUFO見たって言う方が、まだまともそうに聞こえる」
「……確かにね」
 全員が浮かべた苦笑の意味も、やはり美星にはピンと来ないらしい。
 これから彼女には、この世界の常識を勉強するという大変な仕事が待っている。
「で、これからもこの近くに住むのか?」
「?さあ?」
 隆に尋ねられても、美星には判らない。
 美星はメイと結花を振り返った。
「ああ、引っ越すことになるな」
「今度、どこで仕事があるか判らないしね。それに、あたしたちの家は別にあるのよ。だからいったんそこに帰るし。
 まあ、うちの事務所の担当エリアからいって、関東圏を離れることはあり得ないし、都内の仕事が多い傾向にあるし」
「そうか、じゃあ、いつでも会えるな」
「そうだな……。また、会おう」
 懐かしい故郷はどこにもないが、美星はこの世界で生きると決めたのだ。
 同じ空間、同じ時代に生きているなら、会いたいという意志さえあれば、会えるのだから。
 帰り道を行きはじめた仲間たちの中で、美星は名残惜しげに振り返りつつ、ゆっくりと歩いた。
「ところで、章良?」
 しばらく行ったところで、結花が章良に詰め寄った。
「なんだ?」
「そっちの仕事は、終わったの?」
 訊かれて、章良の背中がぎくりとこわばった。
「まだなのね……」
 結花は盛大にため息をつき、そして大げさな仕草で頷いた。
「うん、章良には助けてもらったことだし、手伝ってやるか! 感謝してよね?
 メイと、美星はどうする?」
 半ば強引に章良の腕を取り、そして二人の仲間を振り返った。
「二人の邪魔じゃなけりゃ、助けてやるよ」
 メイがクツクツと笑う。
「また、敵がいるか? 戦う必要あるなら、戦う」
 至極真剣に、美星は両手の拳をぎゅっと握りしめた。
「じゃあ、決まりだね。行こう!」
 章良の腕を抱えたまま、結花が走りだす。
 美星もそれを追って駆けながら、もう一度振り返った。
 まだこちらを見ていた隆が手を振った。
 美星もそれに応えて大きく手をふりかえし、自分が笑顔でいることに気づいた。

 後日談。
 散々<蒼の影>におちょくられ、全国に有名になってしまった俵田警部のもとに、盗まれた五幅の絵が送りつけられたらしい。

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Novel Editor