「みんな!」 「待たせたな!」 メイが腕を振ると、そこから火球が飛びだし、さらに銃口を減らした。 「美星は、隆さんを助けて!」 「わかった!」 結花の声に後押しされ、美星は隆に向かって駆けた。 だが、新たに生えてきた、バチバチと電気を放電させる触手のようなものに行く手を遮られる。 「く……」 「そのまま行って! くらえ、<ループ・シュレッド>!」 美星の目の前に現れた無数の金色の文字の輪が、カマイタチのように電磁触手を切り刻む。呪糸三本を使った、これが彼女の奥の手だ。極限まで強度を上げた刃は、理論上はダイヤモンドでも切り刻める。さすがに、試したことはないけれど。 「ありがと!」 隆の元に駆けつけた美星は、彼に差し込まれているプラグを抜いた。どういう原理か判らないが、神経に直接埋め込むことで生体ユニットとの連結・生命力の吸収・意思の伝達を可能にしているらしい。 だが、神経にそんなものが無理矢理繋がっていたということは、神経が傷ついているということでもある。 隆は肩より下を自力で動かすことができなくなっていた。 「メイ!」 火球を景気よくぶつけ、銃口を吹き飛ばしていたメイに呼びかける。彼女は魔法を使い続けているにもかかわらず、以前のように顔色が悪くなったりはしていない。 メイファンディールの精神は二十人の少女の意識をつなぎ合わせたものだ。その力を完全に引きだした今、マナの消費効率も、余剰精神力も格段によくなっているのだ。 「どうした!」 「治せないか?」 駆け寄ったメイは、隆の傷口をしげしげと見つめた。 「……どうだ?」 不安そうに訊ねてくる美星に、メイは余裕の笑みを見せた。 「安心しろって。もし腕が千切れてたってつなげてやらぁ」 そう言って、隆の上に手をかざす。それだけで、傷口がふさがり、動かなかったはずの四肢が以前と同じ動きを取り戻した。 「魔法ってのは、おおざっぱなんだよ。怪我を治せる魔法っつたら、たいていは治せるさ。あ、腕をつけ治すのは別の呪文だぜ?」 「……ま、魔法?」 今までメイが放っていた火球は、火薬を使った『技術』だと思っていた隆は、さすがに面食らった様子だ。だが、自分の傷を治したものは、紛れもなくゲームで親しんだ『魔法』だ。 「そっちは終わった?」 結花と章良も駆けてくる。どうやら、攻撃は一時的にかもしれないが止まったようだ。 「ああ……」 「んじゃ、邪魔がはいらんうちに、とっとと帰ろうぜ」 「………………」 「? どうした?」 しゃがんだまま動こうとしない美星に、メイは訝しげに声をかけた。 いや、メイも判っているのかもしれない。判っていないのは、きょとんとした表情の結花と章良だ。 「リュージは……ここで死んだから……」 「! そんな、駄目だよ!」 ようやくピンと来たらしい結花は、大慌てで美星を説得にかかる。 「こんなとこで生きてなんていけないし、死んだ人の後を追う、なんて意味ないよ! あたし、リュージさんがどんな人か知らないけど、美星が好きになった人でしょ? そんな人が、美星がこんなことして喜ぶ人だなんて、思えない! だめだめだめ、絶対、駄目!」 「……好き?」 結花はひたすら早口でまくしたてたため、あまり聞き取れなかったようだが、その一語はしっかりと美星の耳にひっかかったらしい。 「リュージは大切な人。でも……」 あれは、好きという感情だったのだろうか。 彼といるのは楽しいことだった。誰よりも、あの世界のことを考えていた人だった。 だからこそ、彼を失うことを恐れた。デスプラントの中で、仲間が一人、また一人と消えていくことも恐ろしかったが……それでも、彼がいなくなることの方が、何倍も怖かった。 「美星……」 隆に頬をぬぐわれて、ようやく美星は自分が泣いていることに気づいた。 「アタシ……アタシは……」 声が震える。 「リュージをこんなところに……一人にしておきたくない……。 アタシが……殺したんだから」 「………………美星」 沈痛な面持ちで、結花が友人の名を呟く。彼女には、もうこれ以上重ねる言葉が思いつかなかった。たかが言葉だ。どれだけ連ねたところで、美星の想いを超えることなど、できるはずもない。 「……まず、自分を犠牲に、ってな考えは捨てろよ?」 メイが妙に突き放したような口調になった。 「ま〜、オレだって、造り主に押しつけられた考えとはいえ……世界のために自分がこのまま死んでもいいかな、なんて思ったことがあるから、あんま人のことぁ言えねえけどな。 だが、オレが死ねば億単位の人間が死なずにすむことは、あの時点では明確な事実だったから、それは無意味なことじゃねえと思うんだよ。 けどよ、てめえがここに残って野垂れ死んだところで、誰が助かるわけでもねえじゃん。つまらねえことは、やめとけよ。死人は何したって喜びゃしねえんだからさ」 「…………結花やメイがいうことは、正しいと思う。でも……」 やはり、自分がここに残り、リュージに謝らないと。 「そのリュージという人だが……」 全員が、隆を見た。 「彼は……自殺なんだ」
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