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Fantasy@Earth 作者:黒木美夜

第21回   デスプラント
「ちょうどいい。こいつは、ここに捨てていこう」
 メイはどこからか、からくり人形の怪が封じられていたという本を取りだした。
「……バアサンが元々取り憑いてた人形は、まだこん中だし」
 奈落へと続く崖下に、本を投げ捨てた。
「これで完全な復活はできねぇ、っと」
「……なぜ、一部だけが漏れだした? それに、<蒼の影>が盗んでいた絵、関係あるか?」
「榎原法原は、封印の甘いこの本を、五つの要素に分け、五幅の絵に別々に閉じこめたんだよ。五枚を揃えるな、って遺言を残して」
「……それが、二ヶ月前の『榎原法原展』で五枚揃っちゃって、それで怨念の部分だけが復活しちゃったらしいの。
 …………どういう理屈かは、あたしもよく解らない」
「ま、魔法的な原理だからな。六種類も魔法のある世界から来たオレだから、なんとなく解るけどよ。とは言っても、オレは全種類使えるとはいえ、一番得意なのは、精神を操るもんだから、こっち方面はあんまり、だな」
 詳しいことは訊くな、という意味だろうか。
「ソのようナもの、もう必、要ナイ。こノからくり、我ガ恨みヲ晴らスノに、相応しイ」
 鉄の壁のあちこちで窓が開き、そこから直径一メートルほどの鉄球が飛びだしてくる。
「! 皆、あれは、危険!」
 球が割れ、中央に凶悪な顔が現れる。伸びた四本のアームと、その口から強烈な電撃が放射された。
「させないっ!」
 結花を中心に白い結界が張られる。よく見ると、薄い金色の文字のようなものが表面に浮かんでいる。
「メイ!」
「判ってる! 転移!」
 一瞬で視界が変わり、彼女たちは入口に立っていた。
「へへ。ここなら、奴らも迂闊に電撃は使えねぇだろ」
「急ごう!」
「ちょ、ちょっと待って! 走りながらじゃ、書けないから!」
 走りかけた足を止めて振り返ると、結花がなにやら金色の文字を宙に書いている。
「呪糸は、十本くらいなら書き溜めておけるの。シールド・バリアの呪糸は今使っちゃったから、次を用意しておかないと、いざってときに困るでしょ?」
 しかも、十本すべてが直接戦闘に関係のあるものではない。さらに、切り札として三本分の容量をひとつの呪糸のために使っているから、実質使えるのは五本ぶんだ。
 ちなみに十本というのは、駆け出しとしては平均的な容量である。結花の相棒、章良は少し少なくて九本、結花が知る限り最大容量を持つ文女は、生来のものと経験とが合わさって五十本……驚異的だ。
「……そーだな。オレの魔法に、攻撃を完全に防げるってのはねぇし。美星、焦るのは判るが、ちょっと待て。確実に奥まで行けるようにしておかねぇと」
「ああ……」
 前に、リュージを殺すためにここに潜入したときは、十数人乗り込んで、リュージの所にたどり着けたのは美星ただ一人だった。
 もちろん、自分の実力でそれができたとは美星は思っていない。彼女を行かせるために、皆が犠牲になってくれたからだ。
 それが、今回はたったの三人。美星にとってはまだ未知の能力をもつ二人だが、二人とも美星のかつての仲間からすればなんとも華奢だ。
 最善を尽くさなければ、隆を救出するどころか、自分たちの命だって危うい。
「……できた! ごめん、待たせて!」
「行こう!」
 三人の少女は、駆けだした。

「しっかし、なんだってあんな男を取り込んだんだ?」
 後方から追いすがる機械の触手を、召喚した魔獣にくい止めさせ、メイは疑問を口にする。
「それも、こんな後生大事に護ってよ!」
 真横から現れた敵を<爆裂火球>で吹き飛ばす。
「……リュージのせいだ」
「え?」
「リュージが、デスプラントを制御しようと、一人でこれに乗り込んで、プログラムを書き換えた。制御室に人間がいないと、きちんと機能しないように。
 この、デスプラントは元々発電所で、これが生みだすエネルギーを使えれば、街を再生できる。リュージはそう、言ってた」
 正面の敵を、美星は鉄球と圏を使って粉砕していく。
「それがどうして……」
 こんな暴走マシンになったのか。
「これは、昔から人類の敵だった。いくつもの街、潰してた。だから、デスプラントって呼ばれる。
 きっと、プログラム書き換えても、それは変わらなかったんだ。でも、人がいなければ動かない、そのリュージの考えは、生きてる。
 ……だから。リュージは完全に吸収されて、もう切り離すことができなかった。殺すしかなかったんだ!」
 美星の叫びは、言い訳に聞こえた。自分や、リュージに対する。
「隆さんは、まだ大丈夫なのね?」
「……たぶん、大丈夫、思う。まだ攻撃がぬるい。完全に同化したら、こんなものじゃすまない」
 問いかけてきた結花へ答というより、自分に言い聞かせるように、美星は頷いた。

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Novel Editor