校門のところで、芽衣は美星に追いついた。 着地して、並んで走る。意外に、芽衣の足は速い。 「あれは、なんなのですか?」 「……デスプラント。アタシの世界で、すべての生命を滅ぼそうとした機械! アタシは、ここに来る前、あれと闘ってた! なんで、ここにある?!」 本になれなかった物語が現実に現れるとき、それは人だけとは限らない。美星と同じように、それも現実への扉を開いた。それだけだ。 「……みんな!」 結花も追いついた。 そこでちょうど、目的のものの全貌が見える位置に来た。 「おっきい……」 「……まだ、完全に現実に出てきていないようですね」 端は校舎の中に埋もれているが、校舎が壊されている様子はない。 「今のうちに、封印してしまいましょう」 どこからか、芽衣が分厚い装丁の本を取りだした。 左手でそれを開き、右掌を非現実から来た機械に向ける。 「……ここは現実なればこそ、空想より出しもの……!」 呪を中断して飛び下がる。 一瞬前まで彼女がいたところが、レーザーで灼かれた。 「な……?」 一番戸惑っているのは結花だ。虎之介に跨ったまま、かなり距離を開けている。 「アタシがくい止める!」 美星は大きく飛び上がると、レーザーを撃ったガーディアンアームを素手で握りつぶす。 「お願いします! ここは現実なればこそ、空想より出しもの、あるべき場所にあらず。我が導く先にこそ、そがための真実……きゃあっ!」 「芽衣っ?!」 まったくの死角から、直径二メートルもある太い触手が芽衣を襲う。 避けられなかったのか、芽衣の姿はない。 「もうっ。こんな奴に、あたしの武器は効きにくいのにっ!」 結花の右腕と左手の甲が文様で輝く。 現れたのは、ラケットとボール。 「はっ!」 至って普通にラケットでボールを打つ。 だが、そのボールが命中した場所で、鉄の塊が直径三十センチも陥没する。 「……た、ただのテニスボールじゃないんだからね!」 同じボールが再び手の中に現れた。 使い手の意志によりその重さを変化させ、ゴムのような弾力のある、異界の金属でできた球だ。 ただ、芽衣を助けだすには少し威力が弱い。 「芽衣を放せ!」 美星も鉄球と、鉄の輪を投げて触手にぶつける。 だが、それ以上攻撃させまいと、レーザー砲が彼女を追う。 「くそっ……!」 見れば結花も虎之介に跨って逃げるので精一杯。 最初の一撃で芽衣が死んでしまった可能性もあるが、今ならまだ助けられる可能性だってある。少なくとも、美星の世界の友人は、そんな屈強な人間が多かった。 鉄の輪、圏という武器だが、それで追尾型レーザー砲を切り払う。が、次々に新しいものがでてきて、キリがない。 校舎の方で嫌な音がし始めた。現実での存在感が増してきて、校舎を駆逐し始めたのだ。原子が融合したりしないだけ、ましだが。 「どうすればいい?」 以前は仲間がセキュリティの注意を引き、その間に美星を含めた精鋭がデスプラント内部に潜入するという作戦をとった。だが、それをするには人数が少ない。 「……どうすれば。 ……っ?!」 どがぁぁぁぁぁあああああん! 爆風に吹き飛ばされる。 どうにか体勢を立て直して着地する。 巻きおこる煙で、何がどうなっているのか判らない。結花の安否すら。 爆発が起きたのは、芽衣が潰されたあたり。 「はーっははははははっ。 ひっさびさに本気だしてやろうじゃねぇか!」 派手な笑い声が聞こえる。 聞いたことのある声のような気がするが、誰の声だったか、美星には思いだせない。 煙が薄れてきて、ようやく状況が見えてきた。 結花は無事だ。虎之介に乗ったまま、少し離れたところまで避難している。 触手は、いやそれだけでなく、美星や結花を追っていたレーザー砲までもが見事に吹き飛んでいる。さすがにすぐ次がでてくる様子もなければ、再生される様子もない。 そして爆心地の中心に立っているのは。 今日は覆面もしていないし、服はいつものごてごてと布をたなびかせたものではなく、すらりとした長い手足を覆う動きやすそうなシンプルな衣装のみ。 だが、その顔といい、水色の髪と瞳といい。 昨日テレビで見たそのものに違いない。 「<蒼の影>?!」 その名を呼んだ美星に向けて、今日本で一番有名な怪盗は、ぴっと親指を立てて不敵な笑みを浮かべてみせた。
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