銃口が、メイシンを狙う。 意志を持ったセキュリティシステムは、自分の本体を叩き壊しに来た少女を見逃すつもりはないらしい。 だが、それは発射寸前のところで止まっている。 「…………リュージ」 メイシンは、一人の男の名を呼んだ。 暗がりで何かが蠢く。 知恵を得た機械達が、原子力発電所に様々な機械部品を組み合わせた、デスプラントと呼ばれる機械の城。その中に彼女はいる。 「……アタシは、オマエを殺しに来た」 絞りだすような声で、彼女は告げた。声は頼りないが、目はしっかりと先ほど蠢いた影に向けている。 ここはベースとなった発電所の制御室だったところ、のはずだ。乗り込むルートは、仲間の一人が考えた。知的労働担当のその男は、外で吉報を待っているはず。いや、吉報と言っていいものだろうか。彼も、『リュージ』の友人だったのだから。 「アタシをここに送り込むために、囮になってくれたシュージや皆のためにも……」 『犠牲になった』とは言わない。どんなに絶望的な状況で別れた友も、きっと生きていると信じているから。 「そして……オマエのためにも」 特殊合金の扇を広げる。 セキュリティが発砲しないのは、今やこの悪魔の機械のコアであるリュージが止めていてくれるからだ。だが、彼がいつまで正気を保てるか、機械を制御できるのか、判らない。 いや、既に正気は残っていないはずだった。 『人間』の文明も文化も滅び、奇妙に進化した動植物と、知恵と自我を得た暴走機械の時代となったこの地球を、機械に支配されるに任せて、さらに完膚なきまでに破壊しようとしていたのだから。 それが、メイシンがここに来た瞬間、ふとその動きを止めた。 出逢って二年と経っていないが、友人だと認識してくれたからだと、思いたい。 これが、人類の敵となった機械を制圧しようと、無謀な賭けに出た男のなれの果て。あるいは、負け姿。 けれど、心の奥底まで、染まったしまったわけではないと、信じたいから。 「…………ごめん」 ぽつりと呟いた。 涙がメイシンの大きな瞳に溜まる。だけど流せない。流すわけにはいかない。自分たちの都合で、大事な大事な友人を一人、殺すのだから。 「……いや、かまわない。私を……救ってくれ」 かすかに、相手の声が聞こえた。 メイシンははっと顔を上げる。 『兄さんを、頼む』 最後に別れた友人の名はシュージ。リュージの弟だ。 二人を隔てた隔壁が降りる瞬間、その言葉だけが聞こえた。目の前のリュージの言葉が、その最後の声を呼び起こす。 「………………。 ……助けたかった。助ける方法を探した。……だけど。 アタシじゃ、無理だった。できなかった。 ……すまない。恨んでくれて……いい」 声のした方に近づいていく。 「うわあああああ!」 扇を振りあげ。 「!」 何かが、彼女の腹を灼いた。
|
|