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Fantasy@Earth 作者:黒木美夜

第1回   メイシンの物語1
 銃口が、メイシンを狙う。
 意志を持ったセキュリティシステムは、自分の本体を叩き壊しに来た少女を見逃すつもりはないらしい。
 だが、それは発射寸前のところで止まっている。
「…………リュージ」
 メイシンは、一人の男の名を呼んだ。
 暗がりで何かが蠢く。
 知恵を得た機械達が、原子力発電所に様々な機械部品を組み合わせた、デスプラントと呼ばれる機械の城。その中に彼女はいる。
「……アタシは、オマエを殺しに来た」
 絞りだすような声で、彼女は告げた。声は頼りないが、目はしっかりと先ほど蠢いた影に向けている。
 ここはベースとなった発電所の制御室だったところ、のはずだ。乗り込むルートは、仲間の一人が考えた。知的労働担当のその男は、外で吉報を待っているはず。いや、吉報と言っていいものだろうか。彼も、『リュージ』の友人だったのだから。
「アタシをここに送り込むために、囮になってくれたシュージや皆のためにも……」
 『犠牲になった』とは言わない。どんなに絶望的な状況で別れた友も、きっと生きていると信じているから。
「そして……オマエのためにも」
 特殊合金の扇を広げる。
 セキュリティが発砲しないのは、今やこの悪魔の機械のコアであるリュージが止めていてくれるからだ。だが、彼がいつまで正気を保てるか、機械を制御できるのか、判らない。
 いや、既に正気は残っていないはずだった。
 『人間』の文明も文化も滅び、奇妙に進化した動植物と、知恵と自我を得た暴走機械の時代となったこの地球を、機械に支配されるに任せて、さらに完膚なきまでに破壊しようとしていたのだから。
 それが、メイシンがここに来た瞬間、ふとその動きを止めた。
 出逢って二年と経っていないが、友人だと認識してくれたからだと、思いたい。
 これが、人類の敵となった機械を制圧しようと、無謀な賭けに出た男のなれの果て。あるいは、負け姿。
 けれど、心の奥底まで、染まったしまったわけではないと、信じたいから。
「…………ごめん」
 ぽつりと呟いた。
 涙がメイシンの大きな瞳に溜まる。だけど流せない。流すわけにはいかない。自分たちの都合で、大事な大事な友人を一人、殺すのだから。
「……いや、かまわない。私を……救ってくれ」
 かすかに、相手の声が聞こえた。
 メイシンははっと顔を上げる。
『兄さんを、頼む』
 最後に別れた友人の名はシュージ。リュージの弟だ。
 二人を隔てた隔壁が降りる瞬間、その言葉だけが聞こえた。目の前のリュージの言葉が、その最後の声を呼び起こす。
「………………。
 ……助けたかった。助ける方法を探した。……だけど。
 アタシじゃ、無理だった。できなかった。
 ……すまない。恨んでくれて……いい」
 声のした方に近づいていく。
「うわあああああ!」
 扇を振りあげ。
「!」
 何かが、彼女の腹を灼いた。

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Novel Editor