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先生との恋 作者:kei

第40回   40.人と関わること
40.人と関わること

ドラジェを受け取ったあとに、「聞いてほしいことがあるんだ」と言って
先生は、真剣な顔つきになって話し始めた。

「父親が遺跡の研究をしていたって、前に話したよね。それで、母も一緒によくエジプトへ行ってたんだ。6年前なんだけど、交通事故でダンプカーと正面衝突をして即死だったそうだよ。その時19歳になったばかりだった。兄弟もいないし、親戚もほとんどいなかったから、事故の処理や、葬式やなんでも一人でしなきゃいけなかったんだ」

私はうなずくだけで声も出なかった。
先生は私の顔を見ながら話し続けた。

「そのあと、人と関わるのがいやになった。愛する人が出来たら、その人を失うんじゃないかと恐怖ばかりあった。大学院に行ったのも、就職して人とのかかわりが出来るのがいやだったせいもあるんだ」

私は何も考えずに目の前に座っている先生の手を握った。
先生は少し笑顔になって、私の手を握ったまま続きを話した。

「でも、大学の教授が父の友人だったから心配してくれて、教師になったらどうかって勧めてくれたんだ。最初は断ったけど、教授は父も同じように心配してるだろうって言われたんだ。それで引き受けた」

お父さんの話をする先生は、少し苦しそうだった。

「それでさ、図書室で初めてみーを見たって言ったけど、実はもう少し前から知ってたんだよ。打ち合わせに最初に学校へ行ったとき、職員室の場所を聞いたんだ」

私はぜんぜん覚えていなかった。だから首をかしげた。

「覚えてないだろうと思った」

先生は、笑いながら言った。
「みーは、口で説明するだけじゃなく、一緒に行きましょうって案内してくれたんだよ。初めて君を見たとき、本当に胸が締め付けられそうな思いがしたんだ。自分でも不思議だった。これからこの学校の教師になるのに、生徒を好きになるなんていけないことだとわかっていたけど、人を好きになる気持ちは抑えられないものだと知ったよ」


「人を好きになったら、その人を失う悲しみを味わうのが怖い。でも、好きだと思う気持ちはとても幸せだ。そういう気持ちにさせてくれた君に本当に感謝してる」


先生の話を聞くうちに、いつの間にか泣いていた。
先生は握っていた手を離して、ハンカチで私の涙を拭いてくれた。

「みー、ホントにごめん。好きだって気持ちを押し付けすぎたよね。もうすぐ卒業だから、俺もみーのこと卒業しなくちゃいけないな」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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