36.合格発表
結局、図書委員の仕事を最後までしたあとに先生を探した。 職員室にも、数学準備室にも、体育館にも先生はいなかった。
電話をかけても通じない。 メールをしても返事は来なかった。
先生、ホントに怒ってるのかも。 不安な気持ちのまま、家に帰った。
次の日も、その次の日も先生に会えなかった。 電話も通じない。
私は食欲もなくなり、あまり眠れなくなっていた。 家族は私の変化に気がついて、学校を休むように言ったけど 月曜日になって、先生は学校へ来ているかもしれないと思い無理して登校した。
でも、やっぱり先生は来ていなかった。 明日は本命の大学の合格発表だったので、先生にもそれを知らせたかったな。
先生と連絡が途絶えて1週間たった。 毎日が、ただ時間をすごしているだけで、意味なく過ぎていた。
次の日、発表はネットでも見られるのだけど大学まで直接見に行った。 顔色が悪いと心配して、祖父母がついてきてくれた。
「みー、よかったね。おめでとう」 「ありがとう、おじいちゃん、おばあちゃん」 「これから、高校まで送っていこうか? 先生方に報告しないといけないでしょう?」 「うん。おじいちゃん、いい?」 「いいよ。その前に、お父さんたちに電話しなさい」
私は合格したことを両親に電話で話した。 母は大騒ぎで、そのあと祖母と電話で晩御飯のことなどを話していたようだ。 兄たちにもメールで知らせた。 先生にも電話しようと思ったけど、つながらないと思って {合格しました}とメールを送った。
学校へつくと、祖父たちは待っていると言ったけど、先に帰ってもらった。 昼休みの時間で、学校の中は騒がしかった。 担任の先生に報告した後、数学準備室にも行ってみた。 部屋の中に、中野先生だけがいた。
「扇原、久しぶりだなぁ」 「こんにちは」 「どうしたの?」 「今日、発表があって合格したのでお知らせしに来ました」 「そうか、おめでとう。速水君も喜ぶよ」 「へ?」 「扇原、僕じゃなくて速水君に知らせに来たんだろ?」 「どうして?」 「去年、速水君から『扇原に勉強を教えてます』って聞いてたんだ。だから数学の成績上がったんだろう? 彼は僕に気を使っていたけど気にしなくていいって言ったんだよ」
速水先生、ちゃんと報告してたんだ。 いい加減そうに見えてたけど、本当はまじめな人なんだな。
中野先生は、お茶を入れてくれて大学の話しをいろいろしてくれた。 奥様が私と同じ大学なのだそうだ。
「速水君ね、1週間ほど法事で休んでいるんだよ」 「そうだったんですか」 「明日から来るって聞いたけど、遠いところだから帰るのに時間かかるし、どうかなぁ」 「遠いって、どこなんですか」 「エジプト。ご両親が事故で亡くなったそうだ。お墓は日本だけど、7回忌だから亡くなった場所に行くって言ってたよ」
速水先生、何も言ってくれなかった。 私に話そうとしてあの時に会いたいって言ってたのかも…
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