33.急に会いたくなる
先生もお兄ちゃんも話した内容は教えてくれなかった。 たいした事じゃないといってた。 それに、他の家族も先生の事を私に何も聞かなかった。 なんだか、隠し事をしているはずなのに、逆にされている感じ。
新学期になって、いよいよ受験シーズンが本番になってきた。 学校にも行かない日が増えてきたのもあるし、私が避けていたので 向井君とはすれ違っても話すこともなかった。 向こうも、避けてるのに気がついているようだし。
先生は、まめにメールをくれた。 そのメールが、私の元気の源というか、リラックスさせてくれていた。
受験の日も{テスト終わりました}とメールを送ると 授業時間中のはずなのに、すぐに返事が来て {お疲れ!後は結果を待つのみ。それが終わったら、デートしよう(*^▽^*)} と書いてあった。
先生と学校で会うこともなかったので、そのメールを読んだらうれしくて、先生に会いたくなった。 受験した大学と、高校は遠かったけど、家に帰らずに学校へ行く事にした。
先生とデートしたいんじゃない。 自分に言い訳してる。 {後は結果を待つのみ}って言葉で緊張するんじゃなくて、先生に言われると気が楽になったというか。 とにかく、先生に会いたくなったのだ。 そういえば、先生に急に会いたくなることが今までもあった。 なんでだろう? 疑問に感じながら、電車に乗っていた。
学校へ着くと、最後の授業が終わったところで、帰る人やクラブへ行く人で昇降口は混雑していた。 なんだか、いつもと違う? そんな事を思いながら、靴を履き替えていると 「ミジンコ、今日がテストだったのに、わざわざ学校へ来たって事は?」 とクラスの友だちから声をかけられた。 「何?」 「チョコレート渡したい人がいるんでしょ!」 「あ、そうか、今日バレンタイン…」
受験の事で、今日が何の日かも忘れてた。 だから、いつもと違う空気を感じたんだ。 今まで、家族以外にチョコレートあげた事もないから私には関係のない日だけど。
「ミジンコ、誰に渡すの?向井君?」 「違うよ、誰にもチョコレート渡しに来たんじゃなくて、試験が終わったから先生に報告しようと思ったの」 「そう、真面目だねー」
向井君どころか、速水先生にもチョコレートは用意していない。 まずいだろうか。 先生は、メールでそんなこと何も書いてこなかったし。 今年は家族の分も忘れていた。 きっと母や祖母が用意しているだろうけど。
私は、友だちと別れると職員室へ向かった。 友だちにも言った手前、担任の先生に会いに行ったのだ。
職員室の中は、人が一杯だった。 みんな、色んな先生にチョコを渡している。 人が多すぎて、人の波にもまれながらも担任の先生に挨拶だけして、何とか職員室から出た。 チョコレートも持ってきてないのに、速水先生に会いに行くのっておかしいのかな? でも、別に告白するわけじゃないし。 試験終わったよって言いに行くだけだから。 色んな事を考えながら歩いていた。 職員室の速水先生の机の上は、誕生日とは比にならないほどのチョコが置かれていた。 チラッと見ただけなんだけど、それを見てから心が落ち着かない。
やっぱり、先生に会いに行くのはやめよう。 そう決めて、昇降口へ向かった。
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