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先生との恋 作者:kei

第32回   32.初詣
32.初詣

デパートで先生に会った後、お父さんたちにごまかすのは大変だった。
しかし、次の日の初詣はもっと大変だった。
というのも、父、祖父に加えて兄二人がいたから。
兄たちは彼女がいるけれど、元旦の初詣だけは家族と行くと決めているようで、今も私を挟んで3人で歩いている。

さっきから、携帯が振動しているのはわかっているけど、でるにでられない。
「お兄ちゃん、トイレ行ってくる」
「そうか、変な奴がいたら大変だから、ついていくよ」
下の兄がそう言って、トイレの前までついてきた。

化粧室で、電話をし始めると化粧を直している人たちに変な目でみられた。
「もしもし」
『みー、何で電話に出ないんだよ』
「すみません。出られない状況なんです」
困ったと思っているけど、なんだか私はワクワクしていた。
昨日、先生に会えたときも楽しかったんだけど、今日も出かけるときから不安に思いながら、ワクワクした気持ちを抑えられなかった。

『一緒にいた人って、お兄さん?』
「へ?先生、今、神社にいるんですか?」
『うん。トイレの前で、お兄さんと思われる人のすぐ近くにいますよ』
「えー、そんなのマズイです」
ワクワクした気持ちより、ドキドキしてきた。
兄に気づかれたら、とんでもない事になる。


『みー、いい考えがあるから、気にせずに出ておいでよ。振袖姿をちゃんと見たいから』
「そんな事を言われても… 先生、他人の振りしてください。声かけないでくださいね」
そう言って、電話を切りトイレから出た。

兄は、ベンチに座って携帯をさわっている。
ホントにすぐ側、お兄ちゃんの斜め後ろくらいに先生は立ってた。

「お待たせ」
私は兄に近づいて、そう言った。
兄は、後ろにいる先生の事など知らないので、私がそちらを気にしていることも気がつかない。
「うん、ちょっと待って。メール打ってるから」
兄はそう言いながら、まだ立ち上がらない。
先生は、にっこりしながら私を見ている。
確かに声はかけてこないけど、そんなに見てると怪しいよ。


私が「お兄ちゃん行こうよ」と声をかけたとき、後ろから母の声がした。
「みー、まだなの? あら!」
振り向くと母がいて、うれしそうにしている。
あちゃー、先生に気がついてしまった。
昨日は、ごまかしてあげると言ってたくせに、不測の事態にはごまかせないの?!
「速水さん! 今日も偶然かしら?」
私をほうっておいて、母は先生に近づいて挨拶をしている。
その後ろから、祖父母、父、上の兄まで来てしまった。
下の兄も、「何?」と振り向いて、先生と母が話すのをみた。

「みー、誰?」
上の兄が私に聞いてきた。
「えーとね」
その時、祖母が「みーの知り合いよ」とすかさず言ってくれた。
そうそう、知り合い。
私はうんうん、とうなずいた。

しかし、また母が爆弾を投下した。
「みー、せっかく会えたんだから、一緒にお参りしてきなさいよ。先に帰ってるから、帰りは速水さんに送ってもらって」
と言い残し、父と腕を組んでというか、父を引っ張っていってしまった。
兄たちは、祖母に「知り合いって、ただの知り合いじゃないんじゃないの?」と聞いている。
祖父は、寂しそうに私の顔を見ながら去って行った。


「いい考えだろ、お母さんに気がついてもらうっての」
先生はうれしそうに私に言った。
「全然、いい考えじゃありません!  帰ったら、兄たちに何を言われるか…」
「お兄さんたち、シスコンだなぁ。仕方ないか、こんなに可愛い妹だもんな」
そう言いながら先生は私の頭をなでた。


後の事を今から考えても仕方ないと思って、先生とお参りをした。
「何をお願いした?  受験の事?」
「いいえ、祖母から、神様にお願いをするのではなく、がんばりますから見守ってくださいってお参りするものだと習ったので、お願い事はしないんですよ」
「そうかぁ。いいおばあちゃんだな」
「はい。先生はお願い事したんですか?」
「うん。みーと1日も早く家族になって、毎日、楽しく暮らせますようにって」
「かないませんよ。そんなお願い」
冷たく言ったけど、なんだかそんなお願いをする先生がかわいらしく思えて、自然と笑顔になってしまった。
先生も、私から冷たく言われても
「そうかなぁ。願いは強く念じれば叶うんだぞ。みーも合格しますようにって、念じなさい」
と気にせずに話していた。


先生の車でうちまで帰ると、上の兄が玄関まで出てきて
「妹を送ってくださり、ありがとうございました」とお礼を言って、私をすぐに家の中に入れてしまった。

その後、兄は先生と話しをしていたけど、なんだったんだろう。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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