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先生との恋 作者:kei

第31回   31.見納め
31.見納め

携帯を持ってからは、先生と電話で話さずに、ほとんどメールのやり取りをした。
冬休みになって、先生と会うことはなくても、メールでの繋がりが今までより深くなった気がする。
向井君は私の家も、電話番号も知らないはずなので、ほうっておいても大丈夫だろうと先生に言われた。


大晦日の日、久しぶりに外出した。
クリスマスも特に何もしなかったので、勉強しすぎだと母から言われて、両親、祖父母と一緒に買い物に出たのだ。
「みー、何が食べたい?」
母や、祖母が聞いてきた。



私は兄が二人いて、年の離れた妹だから家族全員から甘やかされている。
人には頼ってはいけないという気持ちが、そのせいで逆に生まれた。
家では、甘えん坊なのかもしれないけど、外に出たら人に頼らず、なんでも自分で解決しようとした。
だから、人から見れば冷静にも見えるし、しっかりしてるといわれる。
友達はいるけど、心を許せる人間が少ないのも、自分でバリヤーみたいなものを張っているからかもしれない。
でも、先生はそれを突き破って私にかまってくる。
最初は戸惑ったけど、結局、私のほうが先生のペースに巻き込まれている。



私は、また自分の世界に入って、いろいろ考え事をしていた。
「みー、あの人がお辞儀してるけど、知り合いじゃないの?」
母に言われて、母たちの見ているほうに振り向いた。
「うわっ」
思わず声が出た。
何で、先生に会うんだろ。
あ、朝のメールで今日はデパートに買い物に行くって書いたから、来ちゃった??
先生は私たちのほうに近づいてきた。
ラッキーな事に、父と祖父は別の売り場にいる。
二人は、私の事を将来はずっと家において嫁に行かせないとか言って口うるさいから。

「始めまして。速水と申します。いつも、お嬢さんにお世話になっています」
先生は、母と祖母に挨拶した。
「あー、速水さん!電話の方ね」
母はうれしそうに「こちらこそ」と挨拶している。
祖母は私を気遣って、
「みー、お父さんたちに、ばれないうちに速水さんと一緒に別の階に行きなさい」と言った。
私と祖母が話している間に、母は、先生を質問攻めにしていた。

「同じ高校の方だと思ってたんですけど、大学生?」
「いえ、社会人です」
「あら、そうなの。娘とどこで知り合ったの?」
「いつも図書館で一緒になるので、その時に」
「まあ、だから最近、中央図書館によく行ってたんだわ」

先生、なんかウソついてません?
ホントの事は言いにくいけど。

「お母さん、ちょっと速水さんと話があるから」と母を引っ張った。
「うんうん、あとは若い人だけでってやつよね。わかってる。じゃ、お父さんたちには、なんとかごまかすから」
母は調子が良すぎるので、祖母に「おばあちゃん、頼んだから」と言い残して、先生と私は別の売り場に行く事にした。

紳士服売り場に来て、やっと先生と話を始めた。
ここなら、知り合いに会うこともないだろう。
「先生、メール見てきたの?」
「そう。だってみーに10日くらい会ってないんだよ。新学期まで会えないなんて、耐えられない」
また、子どもみたいに先生は言ってる。

「お母さんは、先生の事を別の学年だから知らなくって良かったけど、あとでバレたらどうするの?」
「バレたらって、別にみーと俺は付き合ってないし。お母さんにお世話になってますって言っただけだろ」

先生、世渡り上手なんですね。
私は子ども過ぎて、ビクビクしてばかりです。
別に、付き合ってないって言われたらそうなんだけど、メールのやり取りとかしてる関係もよくないんじゃないかと思う。

「みー、またどっか行ってる」
そう言って、先生は私にデコピンをしてきた。
「イタッ」考え事していたから、不意打ちでホントに痛かった。

「みー、いろいろ考えなくていいから。俺がみーに会いたいだけ。で、会いに来ちゃったんだよ。年の終わりにみーを見納め出来てよかった」
「見納めって」
「新年にも会いたいんだけど、初詣はどこの神社に行くの?」
「新年って、明日でしょう?それに先生、そんなにヒマなんですか?」
「え?暇っていえば、暇だけど。ストーカーみたいだな、俺」
「はい」
「そんなはっきり、返事するなよ。落ち込むじゃないか」
そう言いながらも先生は笑ってた。

「とにかく、今日は特にやることないんだ。明日も。明後日からは大学時代の友達と会ったり、恩師に挨拶に行ったり忙しいんだけどさ」
「そうですか。初詣は、E神社に家族でいつも行ってます。すごい人出だから、私と会うのは無理なんじゃないですか?」
「そんな時のために、携帯があるんじゃないか」
先生は自分の携帯を開きながら言った。
待ち受け画面に、私の顔??

「こんなの、いつ撮ったんですか!」
「え、これ?俺ってストーカーだから」
先生は不適な笑みを浮かべながら、携帯を見てた。

ホントに一歩間違えば、ストーカーかも。
先生だから、私は何でも許している気がする。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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