29.プチンと切れた
これはやばい。絶対に断らなくては。 心の中で警笛が鳴りまくっている。
その場限りで抜け出すのではなく、向井君にきちんとわかってもらわなければ。 先生の事はおいといて、自分の気持ちを素直に言おう。
私の頭はフル回転していた。
「扇原、聞いてる?」 「う、うん。あのね、私、誰とも付き合いたくないの」 うわっ、これって言い方がきつい? 言ってから後悔しても仕方ないんだけど。
「そんなに堅苦しく考えなくていいんだよ。今までみたいに一緒に帰ったり、休みの日に会ってくれるだけでいいんだ」 「でも、今は受験の事で頭が一杯なの」 どうしたら、あきらめてくれるの! 話しているうちに腹が立ってきた。
「ごめん。じゃあ、扇原がヒマなときとか、気分転換したいときだけでいいから」
何を言っても、食い下がってくる向井君に、あきれるというか、何で嫌がってるのがわかんないの? という気持ちになってきた。 今まで、向井君の事を好印象だったのが、どんどんイメージダウンしてくる。 『しつこい男は嫌われる』ってクラスの女の子が言ってたけど、正にそうだ。
私が返事をせずにじっと黙っていると 「もう少し、俺の事考えてみてくれないかな?」と言ってきた。
あーもう!! 頭の中の何かがプチンと切れた気がした。 しかし、何を言っていいのかわからなくなる。
その時、部室のドアが開いて男の子が2人入ってきた。 「向井、ここにいたのか。昼飯行くぞ」 と一人が言って、もう一人が 「やばいよ、今」と押しとどめた。
私にとっては救世主に見えたけど、このまま帰れば、またうやむやになって、すっきりしないまま新年を迎えてしまう。 向井君は2人を見て、 「あ、今行くよ。ちょっと待って」と言っている。
その2人は部屋から出て行こうとしていた時、また一人入ってきた。
「え」 向井君の声に私も入ってきた人を見た。 速水先生。 また、助けに来てくれたとか。そんなわけないか。
2人の男の子に用があったみたいだった。 「田中、お前の注文してたシューズ届いてるけど。お金持ってきてる?」 「はい。今、払います」 先生と、田中と呼ばれた人が、私たちがいるのも気にせずにお金のやり取りをしていた。
なんだか、さっきはプチンと切れて、頭が噴火しそうだったのに、そのやり取りを見ていると落ち着いてきた。 「向井君、私はさっき言ったとおりだから。もう帰るね」 そう言って、私は部室から出た。
向井君は、「扇原!ちょっと待って!」と追いかけてこようとしたけど なぜか、速水先生が「向井、ちょっと…」と呼び止めていた。 そのおかげで、私は帰る事が出来た。
結局、向井君とのこと決着はついたのかな? 先生、助けてくれてありがとう。 そう思いながら歩いていた。
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