24.好きになるって苦しい
先生は、何も言わなくて私の涙をハンカチで拭いてくれていた。 だけど、涙はどんどんあふれてきていた。
「扇原!」 今度は、向井君だった。 向井君は、声をかけたものの、私は泣いてるし、先生はそばにいるから しばらく、その場に立ち尽くしていた。 先生は向井君が来たのに、肩に手を置いたまま、私の涙を拭いている。
「あ、あの。扇原と一緒に帰ろうと思って教室に行ったら、2年の女子に呼び出されたみたいだって聞いて、探してたんだ」 向井君は、走り回って探してくれたのか息が上がっている。
私は何とか泣き止んで、先生の方を見上げた。 先生は私の顔を見て、泣き止んだか確認した。 もう一度涙を拭いてくれて、肩に置いていた手をポンと頭に1度乗せてから離した。
そして、何も言わずに先生は行ってしまった。 でも、先生が何も話さなくても、「大丈夫だね」って心で話してくれたような気がした。
「扇原、大丈夫?」 向井君は先生の背中を見送ってから、そう聞いた。 「うん、ちょっとびっくりしただけ」 「変なこと、言われたり、されたりしなかった?」
変なこと? あれは変なことかな? 向井君を好きって言う純粋な気持ち。 友だち思いの純粋な気持ちだよね。 でも、私にとっては憎悪をぶつけられたんだ。 それで、私が向井君を責めたら、向井君も傷つくよね。
「あのね、人を好きになるって心が苦しいことなんだろうね」 ふと、そう思ってつぶやいた。 「え?」 向井君は突然、私がそんなことを言い出して驚いているみたいだった。
「向井君の気持ち、受け取れないけど、友達として一緒に帰ったり、休み時間に話したりするの楽しかった。でも、向井君の事を好きな人が、そういうの見たらツラいんだよね。好きな人が別の人といるのも悲しいのに、その人がホントは幸せじゃないって知ったら、余計ツライよね」
向井君は黙ったままで、何も言わなかった。
「だから、やっぱり向井君と一緒に帰ったりするのやめるよ。向井君のことも、他の人のことも傷つけているんだから」
「俺は、傷ついてない。扇原に気持ちを受け取ってもらえなくても側にいたい。扇原に好きな人が出来たときにはあきらめる」
もう、どうしたらいいんだろう。 人を好きになるって、苦しいだけじゃないの? そんなに、不の気持ちばかり、蔓延していたら誰も幸せになれないよ。
「向井君、ちゃんと返事をするから、しばらく考えさせて。それまでは一緒に帰るの止めよう」
「わかった。じゃ、終業式の日に返事がほしい」
今日から1週間は自由登校で、22日が終業式だ。 それまでに、向井君を納得させられる返事を考えなきゃ。
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