込み合う産婦人科の待合室で、未成年の男女が深刻そうな顔をして、順番を待っている。 金髪のヤンキー風の若者、けだるそうな娘に、 「お袋から、拾万円、何とかだまして持ってきたけど、それで間に合う?」 「分かんない……」娘は、ため息をつき頬づえをする 「妊娠検査紙が間違っていたらいいけど……」つぶやき、若者はうつむいた。
受付のアナウンスが流れる、 「川村咲江さーん」 呼び出しに、一人の老女に中年の女性が付き添って、診察室に入っていく。 この老婦人、待合室では、しきりに立ち上がり動きたがるのを、中年の女性が、宥めすかしていた。痴呆症の老女を嫁が付き添っているのである。擁護施設が、おりものの異常で念のため、家族に専門病院での子宮がん検診を勧めたのである。
やがて、子宮検診が始まったのか、老女が(痛い、やめて)と叫びだし、(お母様、すぐ終わるから)と、嫁らしき声。しきりに呻いていたが、突然、 「あれー! ご無体なー!」 時代劇調の大声が、病院内に響いた。 全員が、爆笑する。 「ハハハ、……もう少しの我慢ですよ」吹き出しながらの、医者のなだめる声が聞こえてくる。 この若い二人も、笑い転げていた。
やがて、検査が済んだ老婦人が出てくる。付き添いの嫁は、恥ずかしいそうに俯いているが、当人は何もなかったような、すまし顔である。 みんなと同じように、若者と娘は、老婦人を、にこにこ見ていた。
支払いを終え、その嫁が老婦人を連れて出て行ったとき、この娘の順番がきた。 「田中 留美さーん、お入りください」 娘はぽつりと、 「流すの……止めるわ」 「え……?」と、笑顔を引きずった若者 「お腹の子も笑っているの……可哀想だわ」 笑い転げているとき、そんな気がした。 若者は、納得したのか、 「おれ……、しっかりする」
「田中、留美さん!」再度の呼び出しに、 「すみませーん!すぐ入ります」 娘は、楽しい雰囲気の中、診察室に向かった。
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