静まりかえっていると、おもむろに、家老が、 「ではお前と小次郎を戦わせよう。で、お前が勝ったら婿入りは、なし。お前が負けたなら小次郎は婿になる、どうだ?」 八重と伝左衛門は驚き、家老を見た。 「ようございます」武三郎は同意した。
「だが、小次郎は、木刀を振ったこともないから、あまりにも不利、と言うより無理か、ははは、……」雰囲気を壊して、家老は愉快そうに笑った。 「さすれば、お前には同等の不利な条件を付けようか。……そうだなあ、お前は径一尺半(直径四五センチ)の円内にいて、小次郎を待ち受けて戦う。線を踏み出したり、持った木刀を投げて小次郎に当てたら、お前の負け、木刀は常に手に持っておくこと 、だが、日が暮れだしても、勝負がつかず、下城の太鼓が聞こえたら、小次郎の負け。これでどうだ」 「よろしゅうございます」武三郎は機嫌を直したが、八重と伝左衛門は、打ちひしがれた。
「今日は藩校は休みだろうが、小次郎は家に入るのか?」家老は伝左衛門にきいた。 「先ほどまで、近くの子たちに算盤を教えていましたから、いるのでは」 「では、急いで、わしが隣へ呼びに行こう」
連れてくる途中、家老の説得に、小次郎、 「そんなことで、武三郎さまに勝てるのでしょうか。それに算盤をそんな風に使うのは」 「いいか、小次郎、お前には算盤も大事な物だが、八重とどちらが大事だ」 「八重さまです」ぽつりと漏らした。 「ならば、妻にできるかどうかの試練だぞ。だが、わしの言うように落ち着いて、機会を待つのだ……そして軽く……」家老は、念のため、同じ指南をした。
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