「そうだろう、武三郎殿は、いい男立てで、江戸の道場で免許皆伝をうけた剣の使い手だそうだが、……ところがな、八重が入り婿に来るのに、とんでもない条件を付けた」 「どんな?」 「自分と剣術の勝負をして、勝たれたら婿に迎えると、ご家老に言いに行った。八重は何を考えているのだろう」 「前の亭主で懲りたにしては変だな……、で、その甥は?」 「『おもしろい』と言って、明日の昼八つ(三時)、ご家老の立ち会いで、この屋敷で試合をすることになった」 「その若者が勝つな。……ああ、忘れていた、小次郎が、漆喰塗りの仕事を、桔梗屋から、取ってきたが、あいにく城のあちこちの修理に関わるので、行けぬが、……お前と、暇な昔の仲間で引き受けてしてくれぬか。嵐の被害で困っているから、良い稼ぎになるぞ」 「ああ、引き受けよう」 孫四郎は家に帰る途中、家老に付いていた若者を思いかえし、(あれは、本当に男前よのう、八重もころっと惚れるなあ。小次郎には、かなわぬ夢か) やはり父親である。小次郎が、隣の娘に恋心を秘めているのを、感づいていた。この話を小次郎に伝えることに、父は、ため息をついた。
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