そのとき、見習いの番所勤めを終えた息子の左源太が戻り、急いで来て 「父上、空の雲行きがおかしいですけど、明日から嵐では? 近所も釘を打ち付けていますが」 伝左衛門、東南の雲空の異様な暗さを見て、 「こりゃいかん、二人で家に釘を打とう」 その晩からの小雨がだんだんと激しくなり、翌日から大雨になった。台風が直撃したのである。
台風が通り過ぎた後、あちこちに被害がでていた。城の建造物では三カ所の石垣が崩れ、建物の被害もかなり出た。 それを藩士らが調査しているとき、大橋の息子・左源太は、石垣の上から足を踏み外し、下の堀に落ち、打ち所が悪く、あっけなく亡くなる。 間近の嫁を迎える話も、当然ご破算になった。母親は、八重が嫁に行った後、亡くなっていたので、父と娘だけの生活になった。
法事明けのある日、隣の安藤孫四郎が寄った。おそるおそる大橋に、 「こんな時に、まことに厚かましい頼みだが……」 「小次郎を婿に……だな」 「おお、わかりが早い。どうだろう?」 「わしは、左源太を失って、家の将来などどうでもいい、お前の出来損ないの息子でもいいかとも、思ったが……。実は、甥を婿養子に、と、ご家老から申し入れがあった」 「数日前戻った江戸育ちの若者か。あーあ、小次郎では、あまりにも見劣りが……、下らぬ話をして悪かった」
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