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メイガスの系図 作者:拓海 一帆

第8回   第8章 至 福 
 講義が終わった後、いつもの待ち合わせ場所から龍一と美貴が、下校する所だった。
「珍しいな、美貴の方からデートに誘うなんて。何の風のふきまわしかなあ?」
「いいじゃん、別に。もう足、完治したんでしょ、お・い・わ・い! 渋谷に美味しいイタ飯のお店、見つけたから、食べに行こうよ」
 そう言って、オレの腕に手を絡ませてきた。
「おいっ、みんなに見られるだろ。ったく、甘えん坊だな」
 美貴の頭を引き寄せた。柔らかい髪からほんのり甘いコロンの香りがした。
「愛してるよ…」
「…ん? 今何か言った?」美貴が見上げる。
「え、いや、可愛いワンちゃんだなって…」
「またぁー、私はどうせ仔犬ですよっ! ふんっ」
「ごめん、ごめん、パフェおごるから許してよ」
 美貴は仕方ないか、といった表情を見せたが、内心は嬉しかったのかすぐに機嫌が良くなった。
「じゃあ、今から食べに行こうか」
「うん!」
 早速、いつもお気に入りの喫茶「ジュピター」でフルーツパフェを堪能し、オレはアイスコーヒーを飲んでいた。すると彼女ははっと思い出したように、バッグの中から例の黒いバイブルを出し、ページをめくって護符を取り出した。
「これ、龍一が入れたんでしょ? 何の意味があるのよ」
「ああ、護符だよ。美貴に災いが来ないように、悪魔払いのタりスマンだよ。宗派に関係ないから大丈夫だよ。それで、…これ、本物のペンタクル。ネットで買ったんだ。中に大事な物入るようになってるから、たたんで入れとけば強力なお守りになる。ほら、オレも。美貴とお揃いだ」
 そう言われて手にとった。美貴はじっと見つめていた。
「あ…ありがと、龍一…」彼女の手のひらに、涙がぽとんと落ちた。
 そして涙も拭かずにオレを見た。微笑んで、美貴を見た。
「愛してるよ、美貴。いつまでも。オレの一番大事な人だから」
 付き合って三年目、初めて愛してると告白した。今まで彼女もこの言葉を待っていたんだろう。優柔不断でだらしのないオレは、言葉より一緒にいられるだけで満足してた。返って美貴にストレスをかけていたのかも知れない。
 美貴はさっきの護符を小さくたたんでペンタクルの中に入れ、皮紐を首にかけた。
「私も…龍一の事、他の誰よりも一番愛してる。初めて逢った時から」
 彼女の言葉が頭の中で、こだまになって響いている。
「…でも、鼻の頭にクリームつけて愛してるって言ったら、他の奴だったら引くもんだけどな…」
「ええーっっ! うっそー! もう、やだー!」
 オレはこんな美貴が、大好きなのだ…。
 その後、ゆっくりと美貴とのデートを楽しんだ。
「龍一、実は今日の深夜にまた儀式があるの。部長の自宅で…」
「儀式…?」
 ふたりは駅前のベンチに座って、ファーストフードで買ったシェイクを飲みながら話していた。
 外は真っ暗で目前にある古びた時計は十時十五分を過ぎていた。
「御剣先輩と、も一つ前のタロットの…」
「牧村先輩だな?」
「え? アルフォンヌ華紋って芸名?」
「あのな…、当たり前だっつーの! 牧村絵理子が、本名。華紋(カノン)はクリスチャン・ネームなんだよ。それで、一体どんな事するんだ」
「さあ、まだ聞いてない」
「今まではどんな儀式してたんだ?」
「うーん、呪文唱えて…終わったような…」
「はあ? お前、大丈夫かぁ?」
「…でね、龍一にも来て欲しいって。私、部長にそう頼まれたの」
 怪しい。御剣先輩が奴の言う事を間に受けるなんて、信じられない。黒魔術の知識は御存知だろうが、陰陽道一本やりだった先輩が…。もしかして人集めか? それなら黒ミサか…。
「分かった。一緒に行こう。場所は何処だ?」
「ここで待ってたら、翔が車で迎えに来てくれる事になってるの。もうそろそろ来てもいい時間なんだけど…」
 そう言った矢先に、近くでクラクションが二度鳴った。そして美貴の携帯着信音が聞こえる。
「やっぱり、翔だ」ボタンを押し、電話に出た。
「はーい、うん、そうだよ。龍一も一緒。そこの角? 分かった、はーい」
 
「そこの角まで来てるんだって。行こうよ」
「ああ、分かった」
 オレと美貴は翔の車に乗り込み、三人で出発する。先輩は、各個人で向かい、赤井達の男三人と、残りの女子四人は免許を持っている三年の松崎 沙織達はそれぞれで鬼頭の邸宅に行く事になった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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