講義が終わった後、いつもの待ち合わせ場所から龍一と美貴が、下校する所だった。 「珍しいな、美貴の方からデートに誘うなんて。何の風のふきまわしかなあ?」 「いいじゃん、別に。もう足、完治したんでしょ、お・い・わ・い! 渋谷に美味しいイタ飯のお店、見つけたから、食べに行こうよ」 そう言って、オレの腕に手を絡ませてきた。 「おいっ、みんなに見られるだろ。ったく、甘えん坊だな」 美貴の頭を引き寄せた。柔らかい髪からほんのり甘いコロンの香りがした。 「愛してるよ…」 「…ん? 今何か言った?」美貴が見上げる。 「え、いや、可愛いワンちゃんだなって…」 「またぁー、私はどうせ仔犬ですよっ! ふんっ」 「ごめん、ごめん、パフェおごるから許してよ」 美貴は仕方ないか、といった表情を見せたが、内心は嬉しかったのかすぐに機嫌が良くなった。 「じゃあ、今から食べに行こうか」 「うん!」 早速、いつもお気に入りの喫茶「ジュピター」でフルーツパフェを堪能し、オレはアイスコーヒーを飲んでいた。すると彼女ははっと思い出したように、バッグの中から例の黒いバイブルを出し、ページをめくって護符を取り出した。 「これ、龍一が入れたんでしょ? 何の意味があるのよ」 「ああ、護符だよ。美貴に災いが来ないように、悪魔払いのタりスマンだよ。宗派に関係ないから大丈夫だよ。それで、…これ、本物のペンタクル。ネットで買ったんだ。中に大事な物入るようになってるから、たたんで入れとけば強力なお守りになる。ほら、オレも。美貴とお揃いだ」 そう言われて手にとった。美貴はじっと見つめていた。 「あ…ありがと、龍一…」彼女の手のひらに、涙がぽとんと落ちた。 そして涙も拭かずにオレを見た。微笑んで、美貴を見た。 「愛してるよ、美貴。いつまでも。オレの一番大事な人だから」 付き合って三年目、初めて愛してると告白した。今まで彼女もこの言葉を待っていたんだろう。優柔不断でだらしのないオレは、言葉より一緒にいられるだけで満足してた。返って美貴にストレスをかけていたのかも知れない。 美貴はさっきの護符を小さくたたんでペンタクルの中に入れ、皮紐を首にかけた。 「私も…龍一の事、他の誰よりも一番愛してる。初めて逢った時から」 彼女の言葉が頭の中で、こだまになって響いている。 「…でも、鼻の頭にクリームつけて愛してるって言ったら、他の奴だったら引くもんだけどな…」 「ええーっっ! うっそー! もう、やだー!」 オレはこんな美貴が、大好きなのだ…。 その後、ゆっくりと美貴とのデートを楽しんだ。 「龍一、実は今日の深夜にまた儀式があるの。部長の自宅で…」 「儀式…?」 ふたりは駅前のベンチに座って、ファーストフードで買ったシェイクを飲みながら話していた。 外は真っ暗で目前にある古びた時計は十時十五分を過ぎていた。 「御剣先輩と、も一つ前のタロットの…」 「牧村先輩だな?」 「え? アルフォンヌ華紋って芸名?」 「あのな…、当たり前だっつーの! 牧村絵理子が、本名。華紋(カノン)はクリスチャン・ネームなんだよ。それで、一体どんな事するんだ」 「さあ、まだ聞いてない」 「今まではどんな儀式してたんだ?」 「うーん、呪文唱えて…終わったような…」 「はあ? お前、大丈夫かぁ?」 「…でね、龍一にも来て欲しいって。私、部長にそう頼まれたの」 怪しい。御剣先輩が奴の言う事を間に受けるなんて、信じられない。黒魔術の知識は御存知だろうが、陰陽道一本やりだった先輩が…。もしかして人集めか? それなら黒ミサか…。 「分かった。一緒に行こう。場所は何処だ?」 「ここで待ってたら、翔が車で迎えに来てくれる事になってるの。もうそろそろ来てもいい時間なんだけど…」 そう言った矢先に、近くでクラクションが二度鳴った。そして美貴の携帯着信音が聞こえる。 「やっぱり、翔だ」ボタンを押し、電話に出た。 「はーい、うん、そうだよ。龍一も一緒。そこの角? 分かった、はーい」 「そこの角まで来てるんだって。行こうよ」 「ああ、分かった」 オレと美貴は翔の車に乗り込み、三人で出発する。先輩は、各個人で向かい、赤井達の男三人と、残りの女子四人は免許を持っている三年の松崎 沙織達はそれぞれで鬼頭の邸宅に行く事になった。
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