「おう、久しぶりだなあ。元気でやってるか? 龍一」 「ああ・・・お陰さんで退院できたし、バイクも懲り懲りだっつーの」 単車で事故ってからアバラと左足を折ったオレに掛かってきた電話は、同じ大学内の内藤 翔だった。 「お前だけだよ、病院に電話してくんの。ケータイ禁止だろ。ま、美貴が世話してくれてたし、後は荷物片付けるだけだからな」 相変わらず騒々しい奴だ。でも、奴と話すのは三ヶ月振りだ。たまにはウルサイ声を聞くのもいいもんだ。ま、忙しい中、よく掛けてきたと誉めるべきだろうな。奴は、あんなぶっきらぼうな性格に似合わずたこ焼き屋なんてもんをやってるらしいからな。世の中これでいいのかと時々オレは思うときがある。 「龍一、オレの作ったタリズマン持ってたんだろ? 効き目なかったなあ」 「何いってんだよ。翔のお陰でこうして生きてるんだから、感謝もんだよ、なあ美貴」 病室内で荷物を片付けている可愛い美貴の方を振り返り、唇をとがらせてキスをせがんだ。 彼女は上目遣いにチラッと見てから立ち上がると、オレの携帯をひったくり頬をつねった。 「いて、いて、いて」 「ちょっとぉー、翔。病院は携帯だめっていったでしょう。何考えてんのよ、まったくもうっ」 「美貴ひゃん、いたいれす。はなひてってって」 「おー、橘 美貴さん。今日もご機嫌麗しく…」 「サークル休んでばっかりで、ちゃんと練習してるの? それと、今度集会があるからね。龍一も連れてくから」 憤慨した美貴は携帯片手に オレの頬をつねりっぱなしだった。入学して以来、サークル紹介の時に知り合ってもう三年になる。多少気が強いが、とにかく可愛いのだ。クリクリした目にちっこい体が… 「じゃあね、部長にそういっといて。ナンパばっか、したらダメだからね!」 「美貴しゃん…」 いつまでつねってるんだよぉ。 涙目になりそうになると彼女はようやくオレに気づくと手を離してくれた。 「あーっ、ごめーん。いたかった? ごめんね」 ひぃふぅ、ひぃふぅ、オレの頬を美貴がなでなでしてくれた。 オレは岬 龍一、二十一歳。名門帝都大学に入るまではビシバシの猛勉強だったが、今ではキャンパス生活をエンジョイしている。なんてったって初めての彼女が美貴だから楽しくって仕方がない。 オレにはまるでヨークシャーテリアを一匹飼っているような気分だ。可愛くって優しくて、それでいて明るくて…最高の彼女だ。オレは政治経済、美貴は文学だからサークル活動だけが唯一、一緒にいられる。最も、事故したお陰で三ヶ月間愛しい美貴と一緒にいられたのだが。 そのサークルというのは、超常現象研究部なんて堅苦しい肩書きなのだが、要するにオカルト系である。メンバーはそれぞれ得意とするオカルト分野を満喫していて、その内容報告を定期的に部長に提出するだけで良いことになっている。 一口にオカルトと言っても範囲が広い。一人は未確認飛行物体を研究し、一人はUMAを研究し、中には古代エジプトの神の召還方法を研究している者もいる。また、一人変な奴がいて、心霊現象を捉えるんだと言いながら、墓場の隣にテントを張って暮らしているものもいる。まぁ、それなりに大なり小なりはあるが、和気藹々とサークルを楽しんでいる。 入学当時の部長はいたく熱心な先輩で、彼女はタロットに凝って今では予言者としてマスコミでひっぱりだこになっている。彼女の後任として選出された次の部長である御剣(みつるぎ)先輩は、当時一緒に陰陽道の安倍晴明の研究をしていた。御剣先輩には弟のようにオレを可愛がってくれた。一緒に飲みに行ったり、遊びに連れて行ってくれたり楽しかったが、お見舞いに来てくれた時、京都の高校教師になると言って別れた。そして新部長が決まったと言い残して行ってしまった。 二年だぶっている現在の新部長はどこかの企業の御曹司らしいが、どこかいけすかねえ奴だ。一重のせいか目つきが悪く、灰色に染めた髪をオールバックにし、鼻にピアスをしている。黒魔術を崇高しているせいか、いつも黒いシャツを着用しているのだ。彼の名は、鬼頭 飛鳥。こいつが部長に抜擢されたのはオレが入院している期間の出来事だった。 ちなみに副部長は、美貴である。 やっと退院できるオレにとって美貴を奴から守ることが使命なのだ。部員数はかなり増えたと美貴から聞かされた。オレの知らない間に奴は訓練を積んでるに違いない…
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