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ごめんね 作者:花火かよこ

最終回   ごめんね


僕とあいつはクラスメイトだった。

特に幼なじみとか、小学校が一緒だったとか、ずっと同じクラスだったとか、そういうのじゃな
いけど、気付いた時にはくだらない冗談ばっか言い合ってた。

だけどそれは時々。

向こうが話し掛けてくるか何か用事があるかじゃなきゃ喋らない。

女子に自分から話し掛けるのって、なんか恥かしいしさ。
















「ねぇ元気?」

「は?」

突然話し掛けてきたあいつに、びっくりしながらちょっと嬉しく思った。

「え、だから元気?」

「や、意味わかんないんだけど、何?元気って…なんでそんなこと聞いてくんの?」

「そこにいたからなんか話し掛けようかと思って…」

「や、話し掛けないでいいから!てかお前と話すとおれの価値が下がるからさ」

「別に、下がれば」

「嫌だし。はい、もう早くどっか行けよ」

「ちぇ〜」

唇を少し尖らせるとあいつは向きを変えて、近くにいる女子と話し始めた。

自然とあんなことを言ってしまう自分を呪う。

せっかくあいつが話し掛けてきたのに何であんな風にしか話せないんだろうか。

もちろん笑いながら冗談で言ってるんだけど…あいつどう思ってるかな。






























夏になって、あいつは転校することになった。

海外にだって。

突然のことに、僕は何もできなかった。

あいつはみんなの前で転校することを告げると涙を頬にそっと流した。

「卒業までいたかったけど…言葉もまだ喋れないし、向こうで試験も受けなきゃいけないから…」

涙で輝く目が綺麗だった。

「みんなのこと、忘れません…ありがとうございました」

光で天使の輪ができる漆黒の髪が美しかった。

あいつのお別れの挨拶が終わると、先生はクラスメイトに一言づつあいつに言うようにと言っ
た。

席順に前の奴から始まった。

外国に行っても元気でね、修学旅行の時一緒の就寝班でよかったよ、いつも明るくておもしろかったです、いつまでも友達だよ…。

そんな言葉が飛び交う中、ついに僕の番になってしまった。

僕ははっとして席を立ち、えっと…としばらく頭を掻きながら言葉を考えた。

僕はあいつを見ないようにしながら言った。

「えっと…向こうに行っても…頑張ってください」

座る瞬間にチラッとあいつを見た。

あいつは僕を見ながらまた涙を流していた。

それを見た僕はすごく寂しくなってしまった。

僕は後悔した。

素直に、今も言えばよかったんだ。

向こうに行っても頑張ってほしいっていうのはうそじゃないけど、他にもっと言いたい事があったはずなのに僕は怖じ気ずいて言えない。




『いつもくだらない冗談ばっか言ってたね。あれはあれで今思うと楽しかったけど、本当はもっ
と素直になって話したかった。話し掛けるなっていうのはうそで、本当は話し掛けてもらえるのが嬉しかったよ。もっと話したかった。』





言葉はどんどん浮かんでくるのに言えない。

あいつはまだそこにいるのに。
























みんなでさよならして放課後になった。

あいつの周りは女子でいっぱいで、みんな泣いてた。

僕はそのまま部活へ行った。

バスケ部だ。

体育館はバドミントン部と共同だけど、今日はバスケ部が使う日だった。

でも今日は授業が半日だけだったので、みんな弁当を食べていた。

僕も食べ始めて、食べ終わったのが20分後。

練習を始めるところで、僕はバスケットシューズを教室に忘れた事を思い出した。

めんどくさい、と重い足取りで教室へと向かった。

























するとあろうことか、あいつはまだ教室にいたのだ。

「おまえまだいたのか…なにしてんの?」

「教室…覚えておきたくて」

しんみりと、でも少し微笑みながらあいつが言った。

僕はバスケットシューズを取るとこれが最後のチャンスだと、思い切って言ってみることにした。

「ごめん」

「…え?」

「今まで、俺素直じゃなかったよ。話し掛けんなとか言ってごめんな」

「そんなの…それよりあたしもうあんたと話せなくなると思うと…すっごいさみしくなるだろう
なぁって思ったよ。なんだかんだ言ってあんたと冗談言い合うの楽しかったもん」

「あぁ…おれもだよ」

「あ〜あ!あんたが迷惑じゃないって思ってたんなら、もっと話し掛ければよかったよ」

「…」

「ごめんね」

「ううん、お前がいて楽しかった。むこうでも元気でな」

「お前もな」

楽しかった。

本当にお前がいてよかったよ。

がんばって言えなかったことを伝えた。

できる限り素直になれた。

でもやっぱりあと一つ、大切な言葉が言えなかった。

だからここにそっと残しておく。









































ずっと好きだったよ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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