そして同窓会は五月のゴールデンウィークの間にやることになったのだ。時間は七時〜十時くらいまで。 場所は、高校の近くにあった焼肉屋。千円で食べ放題だったので、よく高校の頃、みんなで行った記憶が残ってる。 焼肉屋に入ると、ゴールデンウィークのせいもあって、いつもより人が多かった。その中で、一番奥の部屋から、異様な明るさが感じられる。店員さんは、その異様な雰囲気の座敷に案内をしてくれた。 「じゃあ。こちらになりますね」 店員さんが襖を開けると、みんなはもうすでに出来上がっている。 「おぉ! 水野ちゃんおなり〜」 クラス一のお調子者だった、伊藤君が、私の肩を触ってきた。 お酒臭い匂いが鼻につんときて、私に不快感を与える。 あたしは冷たく睨み付けようとすると、 「ちょっと! あんた何親父くさいことしてるのよ」 長谷川さんが、伊藤君の手をはらってくれる。それと同時に私に話しかけてくれた。 「水野さんお久しぶり! ごめんね。伊藤の奴飲みすぎちゃったのよ」 長谷川さん。また一段と変わった。昔の濃いメイクが無くなって、上品な顔つきになっていた。 「水野さんー。お久しぶりですー」 すらっとした体系がそこにあって、長谷川さんの肩を抱いている、優しそうな男性がいた。 「…誰?」 聞いた声はあるのだろうけど、はっきりと思い当たる人物が頭から出てこなかった。 「酷いな。俺の事忘れたの? 金山だよー」 「え?」 信じられない程かっこよくなっていた。肉が落ちると、ここまで人間変わるものなのか…。 確かによく見ると、笑う顔が金山君にそっくりだ。 「金山ね。急にかっこよくなってね。高校卒業したと同時に生まれ変わったのよ」 長谷川さんが笑うと、金山君が照れたように目をきょろきょろさせる。 「卒業間際に、金山が告白してきて、あたしがこう断ったの。“もっとかっこよくなったら付き合ってもいいかな”って。そしたら、本当にかっこよくなっちゃってね」 そんな隠れたエピソードがあったのか。二人は確かに仲良かったが、そんな風に見た事はなかった。 長谷川さんにはもっと他の男がいるのじゃないかと思っていたし、それでも告白した金山君は勇気があるんだな。少し感心をしてしまった。 「未来久しぶりー!」 クラスの女の子がしゃべりかけてくるのを横目に、ちらちらと村井君を探している。 「水野さん。こっちこっち!」 幾つもの声が重なりあう中、彼の声だけは、ちゃんとキャッチできた。 村井君の方を見ると、隣が空いているのに気づく。 私が村井君の方に座ると、クラスのみんながこっちをいやらしい目つきで見てきた。 「何々? お前らもしかして付き合ってる系?」 伊藤君は大口を開けて笑う。 「そういえば、未来と村井君って高校から仲いいもんね〜。付き合ってないとか言ってたけど」 「そんなんじゃないって」 村井君は笑いながら、否定してるけど、実際どう思ってるのだろう。 「どこまでいったの? ちゅーとかした? ぎゃはははは」 「いいなー。私も村井君狙ってたのになぁ」 こういう話はなぜか私に不快感を与える。身体にある異物がかき回されるような感じ。 だから嫌だ。男と女が仲良くしてちゃいけないのだろうか。大体なんで二人でいるだけで恋人になってしまうのか…。 それにこの年になってそういうような話で騒ぐ人間が嫌いだ。中学生じゃないんだから…。 そんな私の様子を見かねた長谷川さんが、すぐさま他の話しにずらしてくれた。 単純な脳みその彼らは、すぐにそっちの話についていった。 私、さっきどんな顔していたんだろうと思うと、急に恥ずかしくなってしまった。 食事中に、懐かしい高校の文化祭や体育大会などの話しで盛り上がり、主に伊藤君が騒いでいたんだけど、途中で寝てしまった。急に静かになったと思うと、次に二次会の話になった。 「二次会はカラオケでもいこうぜ! みんな行くだろ?」 そんな会話に私は一人外れていた。 「水野さんどうする?」 気を使い長谷川さんが聞くが、私は首を左右に振る。 「ごめん。明日は学校なの。みんなで楽しんできて」 私が苦々しく笑うと、長谷川さんは残念そうな顔で頷く。 「そっか。じゃあ、また今度会おうね」
焼肉屋を出て駅まで向かう。 駅のホームで時計を見ると、電車が来るまで、後十五分も待たなければならない。 今回は村井君とあまり話せなかったが、彼とはいつでも連絡とれるからいいかなと思いつつ、椅子に座る。 「水野さん」 「あれ? 村井君?」 彼はいつも音も無く現れるので、ついこっちが驚いてしまう。たぶん私が鈍感なせいもあるのだろうけど…。 カラオケに行ったはずの彼がここにいる。なぜだろう? 「カラオケに行ったんじゃないの?」 「水野さんが一人だったから、送ろうかなって思ってここまで来たんだよ」 「そうなの。それはわざわざありがとうございます」 私が小さくお辞儀をすると、村井君は笑った。 「なんで他人行儀なの? 友達なのに変だなー」 この際、村井君と話をするか。 「村井君少しお話しない?」 私が尋ねると、彼は快く受け止めてくれた。 「あ。でも、水野さん明日学校じゃないの?」 「あんなの嘘。私は大勢が苦手だったから抜け出してきたの」 電車が何本も何本も通り過ぎるのを気に止めず、私達は話し続けた。 「さっきの伊藤君の態度ってかなり不快じゃなかった?」 私はさっき、恋人に仕立てられて、騒がれた事を村井君に言うが、彼はそこまで気にしてない様子でこう言う。 「んー。別に俺は気にならなかったかな。あーゆうのは笑って流しとけばいいんだよ」 この慣れた口調っていうのかな。時々これも私の癇に触る。 きっと私はわがままな人間なんだろうな。 星が宝石のように見える…。 なんてロマンチックな事を言葉に出せず、私は空を眺めていると、村井君は急に思い出したように、口を開く。 「そうそう。水野さんって将来何になりたいんだっけ?」 村井君と私って仲いいくせに、互いの夢を語った覚えがなかったな。 「私は教師になりたいんだ。中学の時にいた先生って全員頼りなかったじゃない? だから、私が頼りになる先生になって、子供一人一人の意見を聞き入れたいの」 「あ。俺と同じじゃん。俺も教師目指してるんだよ。植物の先生になりたいかな。中学の時、大きな辞書を持ち歩いていたでしょ? あれ、植物図鑑で、あの頃から植物に興味があったんだ。小さい子に植物の素晴らしさを知ってもらいたい。そういえば、水野さん。大学は西川大学だったもんね」 そして仲いいくせに、未だに苗字読みだ。 「ねね。苗字読みやめない? 友達なのに変よ」 私が言うと、彼は困ったように言う。 「うーん。慣れないからなぁ。でもいいよ。なんて呼べばいいの?」 そう聞かれると困る…。 「未来で」 「じゃあ、俺は浩太郎でお願い」 これだけ話したのは最長記録だった。 何を話したかさえわからないくらい私達はずっと話してた。大学の事や、これから先の将来の事や恋愛感。気付くと、もう日が昇っているのに気付いた。 「もう朝になっちゃったね…」 地平線からオレンジ色の朝日がとっても綺麗に見える。 「こんなに話したのは久しぶりだ」 浩太郎は、そう言うとあくびを一つした。 「そだ。水野さ…じゃなくて未来」 ふっと村井君の顔を見ると、少し戸惑った様子で、こう言う。 「一緒に住まない?」 いつも突然驚くような事を言う浩太郎だが、今回のはかなり驚いた。 「何? 冗談でしょ?」 浩太郎は首を振り、“いや。本気だよ”と言う。 「学校違うけど同じ町なら、一緒に住んだほうが家賃が楽じゃない? 友達同士で住むのって一度やりたかったしさ」 友達同士で住むって言っても、私達男と女なのに。もしかして、向こうはそんな気はさらさらないから、言ってるのかもしれない。 「そうだね。私のアパートは、キッチンをはさんで二部屋あるからルームシェアできるね。一緒に住もうか」 朝のひやっとした風が、頭の上を通り、鳥の鳴き声がメロディーのように耳に流れてきた。
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