あれから随分と月日がたった。神岡先輩とは、高校三年の春に別れてしまった。やっぱり私には合わなかったのかな。別れた後でも少しだけ連絡を取っていたけど、私が無理だった。普通に接する事ができなかった。私は器用な人間じゃないから…。神岡先輩とは友達のままが良かった…。 図書室の机で、無造作に本をぱらぱらめくる私に、村井君は声をかけてきた。今日はテスト勉強をしに、図書室に来ているのだった。すっかりその事を忘れていた。 「水野さん?」 我に返り、本をめくる手を休める。 「私…先輩と別れたの…最初から付き合わなければ良かったかも。前までのように接する事できなくなったしね。なんだかそれって寂しい。私。相手から告白されたらダメなタイプかもしれない」 「最初から付き合わなければ良かったって。それは失礼じゃないかな? 先輩の事否定していると同じだよ」 村井君の言葉ってなんだか妙に説得力がある。
また暖かい春がやって来た。幾つもの出会いと別れを繰り返す季節。 私は地元を後に、都会へ一人暮らしを決め込んだ。前々からその生活に憧れていたが、実際経験すると辛いものだ。家に帰って来たらご飯がないという生活が悲しくなってきた。希望した大学に受かったのだから文句は言えない。それに両親からも仕送りが毎月来るからまだ楽な方だった。 村井君と私は、同じ街に住んでいたが、大学は違う所に通っていた。でも未だにメールはしていた。思えば、私の友達でこんなに続いたのは村井君だけかもしれない。 大学に慣れていくうちに、段々と大学が嫌になってきた。授業の様子を見ていると、真面目に受けているのは私だけ。他の人達は、授業中に携帯で話をしていたり、来てない人もいる。テストの時なんかカンニングしている人まで…。なんだか呆れた。これでは中学の時と同じだ。いや…今の方が酷いのかもしれない…。真面目に講義を受けている人の立場ってのがわからないのだろうか。 私は講義が終わるとすぐに教室を出て行った。そして、毎回村井君に電話で愚痴るのだ。この繰り返し。
大学から六駅ぐらい離れた場所に私のアパートがある。大きな建物の間にひっそりとあるアパートで、日当たりも悪いし風の通りも悪い。騙されてここを選んでしまったかもしれない。でも安い家賃だから、いいかなって思えてしまう。 私の部屋は二階の二〇四号室だった。玄関を開けようとすると、ポストの白い封筒が目に入る。私は封筒を取り出すと、家の中に入る。 小さな声で誰もいない部屋に“ただいま”と言うが、返事が返ってくるはずもなく、私はそのまま部屋にあがった。 荷物を降ろし、さっきの白い封筒を見る。表にはちょっと癖のある字で、水野未来様と書かれてあり、裏に長谷川よりとあった。 この癖字は忘れられない。 高校を出て少し経つが、彼女の字はどこか懐かしさを感じさせてくれた。 私は封筒を丁寧に切り取る。中には一枚の紙が入っている。紙を広げて見ると、高校の同窓会についての案内が書かれてあった。 私はさっそく村井君に連絡をした。 なんだか彼が来ないと嫌だから。
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