結局、私は神岡先輩と付き合う事にした。 村井君だけが、私と先輩が付き合っている事を知っている。村井君は態度を変えることなく、前と同じ様に接してくれた。 神岡先輩と付き合って二、三ヶ月経った。付き合ってるとこういう経験もあるものだ。ついに私と先輩は体の関係を持ってしまった。初めてやってしまった夜。なんだか家に帰るのが嫌になり、コンビニの外で、膝を抱えながら、座り込んでいた。空を見ると、寂しげに月だけがぽつんと浮んでいる。 なんだか、あの月私に似てる。一人ぼっちな私に。 「水野さん。何してるの?」 月が雲に包み込まれる時、その声がどこからともなく聞こえてきた。今一番聞きたかった声だった。 村井君が自転車を持ちながら、こっちを不思議そうな目で見つめる。 「村井君こそ、こんな遅い時間まで何してるのよ」 「俺は部活帰りだよ」 彼は自転車を止めると、私に歩み寄る。 もしかしたら、私は彼が来るのを待っていたかもしれない。 私が隣をちらっと横目で見ると、さり気なく隣に座る村井君。 「もしかして、何か先輩とあったの?」 見事に当ててくれた村井君に、私は小さく頷く。 「私ね。しちゃった」 俯き加減で耳を真っ赤にさせる私に、村井君は私の肩を軽く叩く。 「恥ずかしくない事だよ。いずれはあることなんだし」 「うん…。村井君はしたことあるの?」 ちょっと慌てた様子だったが、村井君は照れながら言う。 「まぁ。それはね。あるよ」 やっぱり彼女いたんだ。そりゃあかっこよくなったものね。ある噂で麗菜と付き合ってる事を聞いた事もある。 思わず村井君と、金髪の麗菜が抱き合っている所を想像してしまった。 でもその事には触れないでいた。 「その時って家に帰りたくなくなるでしょ?」 私の基準で考えてしまったけど、私は親に合わせる顔がなかった。なんだかいけない事をしてるみたいで。 「俺は別にそんな事なかったけどね。水野さん帰りたくないの?」 「なんかね。帰りたくない」 我侭を言う子供みたいに、私はその場を意地でも動かない状態だった。 「俺がいてあげようか?」 「え?」 間の抜けた声が出た。 「女の子一人じゃ危ないし。俺がいてあげるよ」 なんだか不思議な感じだ。中学校の頃は散々いじめられてきて、気の弱いというイメージを残していたのに、今はなんだか彼が勇ましく見える。 「ありがとう」 あたしは一言呟く。 コンビニの中から漏れる明かりが、私達の影を映し出した。さっきまで冷たかった隣が、村井君が来たので、暖かくなった…。
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