■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

私と彼は恋人じゃない。 作者:桜田霞

第5回   悩み
結局、私は神岡先輩と付き合う事にした。
村井君だけが、私と先輩が付き合っている事を知っている。村井君は態度を変えることなく、前と同じ様に接してくれた。
 神岡先輩と付き合って二、三ヶ月経った。付き合ってるとこういう経験もあるものだ。ついに私と先輩は体の関係を持ってしまった。初めてやってしまった夜。なんだか家に帰るのが嫌になり、コンビニの外で、膝を抱えながら、座り込んでいた。空を見ると、寂しげに月だけがぽつんと浮んでいる。      
なんだか、あの月私に似てる。一人ぼっちな私に。
「水野さん。何してるの?」
 月が雲に包み込まれる時、その声がどこからともなく聞こえてきた。今一番聞きたかった声だった。
 村井君が自転車を持ちながら、こっちを不思議そうな目で見つめる。
「村井君こそ、こんな遅い時間まで何してるのよ」
「俺は部活帰りだよ」
 彼は自転車を止めると、私に歩み寄る。
 もしかしたら、私は彼が来るのを待っていたかもしれない。
 私が隣をちらっと横目で見ると、さり気なく隣に座る村井君。
「もしかして、何か先輩とあったの?」
 見事に当ててくれた村井君に、私は小さく頷く。
「私ね。しちゃった」
 俯き加減で耳を真っ赤にさせる私に、村井君は私の肩を軽く叩く。
「恥ずかしくない事だよ。いずれはあることなんだし」
「うん…。村井君はしたことあるの?」
 ちょっと慌てた様子だったが、村井君は照れながら言う。
「まぁ。それはね。あるよ」
 やっぱり彼女いたんだ。そりゃあかっこよくなったものね。ある噂で麗菜と付き合ってる事を聞いた事もある。
 思わず村井君と、金髪の麗菜が抱き合っている所を想像してしまった。
 でもその事には触れないでいた。
「その時って家に帰りたくなくなるでしょ?」
 私の基準で考えてしまったけど、私は親に合わせる顔がなかった。なんだかいけない事をしてるみたいで。
「俺は別にそんな事なかったけどね。水野さん帰りたくないの?」
「なんかね。帰りたくない」
 我侭を言う子供みたいに、私はその場を意地でも動かない状態だった。
「俺がいてあげようか?」
「え?」
 間の抜けた声が出た。
「女の子一人じゃ危ないし。俺がいてあげるよ」
 なんだか不思議な感じだ。中学校の頃は散々いじめられてきて、気の弱いというイメージを残していたのに、今はなんだか彼が勇ましく見える。
「ありがとう」
 あたしは一言呟く。
コンビニの中から漏れる明かりが、私達の影を映し出した。さっきまで冷たかった隣が、村井君が来たので、暖かくなった…。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections