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私と彼は恋人じゃない。 作者:桜田霞

第3回   文化祭
そして夏が過ぎ、文化祭の日が近くなってきた頃。たまたま同じ班になった村井君と私。
班にいる女子は、比較的私と仲がいいリーダータイプの長谷川さん。茶髪で化粧が濃いんだけど、根は真面目な子。
 男子の方は、村井君と金山君。金山君は太っててマイペースな性格。
 私達は、少ない人数だけど、クラスのブースの看板を作る仕事を任された。体育館を借りて、残り少ない期間を私達は、毎日毎日遅くまで残って、看板作りに励んでいた。
「ふー。こうやってみんなで作業するのって楽しいわね」
 長谷川さんは、はけを置くと、天井を見る。
「俺腹減ったよ」
 金山君が、持ってきたペンキを置いて、お腹をさする。
「あんたはさっき食べたでしょ」
 長谷川さんのツッコミに、私達は笑う。
 なんだか楽しい。私はこうやってみんなと一緒に作業したことなどなかったから余計だ。高校って楽しいなぁ。

 そして、文化祭前日。
また今日も夜遅くまでの作業だ。今日は金山君が、こんな日に限って熱を出しちゃったみたい。前日だっていうのに。
三人で黙々と作業をしていると、それを邪魔するかのように、携帯の着信のメロディーが流れてきた。
「あ。ゴメン。バイトから電話だ…」
 長谷川さんがスカートから携帯を取り出す。
「あ。店長…。あ、はい。え? 今日ですか?」
 何やら嫌な予感がした。
 電話を切ると、長谷川さんの申し訳なさそうな顔がこちらを向く。
 長谷川さんって分かりやすい…。すぐ顔に出るタイプだ。
「どうしたの?」
 私が聞くと、長谷川さんは誤魔化してるのかこう言う。
「ううん。何でもないよ。作業始めようか」
 村井君は長谷川さんの様子に気付き、
「長谷川さん。バイトの方に行っていいよ。後は、俺達だけでもできるし」
「えー。でも…」
「いいから、大丈夫だよ」
 私が言うと、長谷川さんは携帯をちらっと見る。
私も長谷川さんに無理させたくなかったので、行ってもらう事にした。
「うん…。ごめんね。人が足りなくなって、あたしが借り出されちゃった」
 苦笑いすると、そのまま体育館の出口の方へ走っていった。最後に“がんばって”と言い残して。
 そして、村井君と二人っきりになると、さっきまで静かだった体育館が、更に静かになった気がした。
「あ。しまった。ガムテープない」
 使い切ったガムテープの筒が、寂しそうに床に転がる。
「コンビニに買いに行く?」
 私が聞くと、村井君は考え出す。
「そうだね。行こうかな」
 体育館に一人ぼっちになるけど、この際しょうがないかな。
「水野さん。一人になるでしょ? 一緒に来る?」
 私が首を左右に振って断ると、
「寂しいくせに」
 村井君が笑うと、私は、なんだか心が読まれた気がして、気に食わなかった。
「大丈夫よ。平気だよ」
 こう言う所で素直になれない自分にも少し嫌悪を感じる。
「いいから、おいで」
 村井君はそう言うと、私の背中を押す。

 今日はバスで来たせいもあって、自転車を持ってなかった。最寄のコンビニまで、どんなに頑張って走っても、二十分程かかる。私は村井君の自転車に乗せてもらうことにした。
「二人乗りなんて久しぶりだから、怖いな」
 私が自転車の荷台に座ると、前を支えている村井君がふらつく。
「じゃあ。出発」
秋の冷たい夜風が、私達の体を優しく撫で、小川の道沿いを走っている私達を、月明かりが映し出す。
私は前にいる村井君の腰を掴む。
 その間は、二人ともずっと無言だった。村井君は何を考えているのだろう。彼の背中が、何か語りかけているかのように見えた。
 文化祭当日。看板作りは間に合ったんだけど、少し手抜きの部分が目立ってしまった。今回の反省点は、計画を立てるのが遅かった事だ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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