それから五年後。教会の鐘がなり、白い鳩が幸せを運ぶように、窓にとまる。 部屋から見える鳩を見ながら、私は今日という日が来るのを待っていた。 文庫本を読みながら、四葉のクローバーの栞を見つめる。 扉をノックする音が聞こえ、あの人かと思い、ドキドキしながら、顔を出すと、田舎からわざわざこっちに来た両親が、立っていた。 「未来。綺麗だよ」 お母さんは、部屋に入ってきて、私の姿を写真に撮ろうと、お父さんに“未来と一緒に写って”と言っている。 スーツがきついのか、さっきからスーツを気にしているお父さんは、照れながらも、私の隣に来る。 「お父さん。もうちょっとやせてくださいな。せっかくの花嫁と写るのですから」 お母さんが困ったように言うと、お父さんはちょっと頭をかいてこう言う。 「今言われてもなー」 「あぁ。未来。私の若い頃にそっくりだよ」 すっかり老け込んでしまったお母さんが涙を流しながら、ハンカチを顔に当てる。 「お母さん」 私は思わず笑う。 「じゃあ。父さん達は先に行ってるから。未来…幸せに」 そう言うと、二人は部屋を出て行った。 静まり返る部屋。 「そろそろ行かなきゃ…」 私が立ち上がろうとすると、扉が乱暴に開かれた。 「間に合った!」 せっかくスーツ姿で決まっていたのに、走ってきたせいもあって、スーツがよれよれになっている。 それはそれで彼らしい。 「浩太郎遅いわよ」 私が笑うと、浩太郎は“ごめん”と言ってお辞儀する。 「せっかく未来の結婚式だって言うのに…急用が入ってさ」 「言い訳はいいから、私そろそろ行くよ」 「待って。これ持ってる?」 浩太郎は四葉のクローバーを、ポケットから取り出した。 「もちろん持ってるよ」 小説にはさんであった四葉のクローバーを、得意気に見せる。ちょっと子供っぽい事をした自分に、馬鹿らしさを感じた。 「結婚しても、子供できても、おばあちゃんになっても、友達でいよう!」 浩太郎が私の肩を軽く叩く。 「うん。約束破らないでね」 「最後に一言」 一瞬の間を置いて、彼が放つ言葉が、何よりも嬉しい。 「未来。綺麗だよ」 まだ幼さを残す、浩太郎の笑った顔が、あの時、私に四葉のクローバーを渡した時の顔にそっくりだった…。 浩太郎に逢えて良かった。あなたも幸せになってね。
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